第252話 かいちゃん(仮名)の飴
通っている事業所から行っている、同じ出向先で仕事をしているかいちゃん(仮名)は、おそらく自閉症だ。
無口を通り越し、必要最低限どころか場合によっては必要なことも言わない彼は、いつも飴を持っている。
彼の飴は、俺の豆腐のぬいぐるみと同じ役割を果たしているらしい。
彼は静かにパニックを起こす。
静かすぎて、パニックになっていることに気が付けないことの方が多いが、おもむろに飴を舐めるので、あぁ今彼は何かが原因でパニックになっているのだな、とわかる。
かいちゃんにとって、飴を取り出して口に入れることが、落ち着くスイッチなのだろう。
仕事中の飲食は基本的に禁止だが、かいちゃんの飴は黙認されている。
また、舐めてもなお心細かったり不安を感じていたりすると、そのときにいる彼が安心出来る人に飴を渡すこともある。
ほとんど喋らないから(なんなら挨拶も返さない)まともに会話をしたこともないのだが、俺はどうやら信頼されているようで、今までに2回ほど飴を差し出されたことがある。
「ありがとう」
と受けとると、安心したような表情を見せた。
ちなみに、かなり前から、俺の豆腐は出番がない。
持ち歩いてはいるが、鞄の中だ。
今日、かいちゃんから3個目の飴をもらった。
朝、挨拶をしたら差し出されたので、俺の「おはよう」が何か不安にさせたのか?と思ったのだが、受け取ったら嬉しそうに「おはよう」と返事をしてくれた。
初めて、かいちゃんと挨拶を交わした。
ちょっと嬉しかった。
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