第245話 仕事先でのパニック
就労継続支援A型事業所に通うようになって2か月が過ぎた。
施設内での作業も、施設外での作業(一般企業に出向しての労働。ただし、事業所のスタッフが必ず現場に入り、作業の指示も何かミスった時の報告も、スタッフを間に通して行われる)も、順調に慣れた。
そんな矢先の本日、施設外でのお昼休みに事故が起きた。
同じ事業所に通所している2人が、目の前で喧嘩を始めたのだ。
元々相性の悪い2人ではあったのだが、下手で笑えないジョークに(言った方にそんな心算はおそらく無いものの)言われた方があっさりキレて、怒声をあげながら掴みかかり。
事業所のスタッフがとり押さえるも、不幸なことにキレた彼の力が強く、あっさり押され。
慌てて他のスタッフもやってきて2人は引き離されたものの。
それを目撃した俺、ビックリして大パニック。
泣き出しそうなのをこらえながらすぐに食堂を出て更衣室に逃げ込み、持ち歩いている頓服薬の抗不安剤を飲んでから、膝を抱えてへたり込んで震えながら我慢できずに泣き出した。
事業所から出向先に来てくれているスタッフは2名。
それぞれが1人ずつ当事者2人についてしまったのと、誰にも何も言わずにと言うか、誰にも何も言えずに更衣室に逃げ込んだのと、お昼休みがあと10分で終わってしまうという焦りから、どうにもならなくなって仕事中の相方に電話で泣きつき。
相方の声をきいて少しだけ落ち着けたので、ヘロヘロしながら更衣室を出て食堂に戻る途中、たまたま廊下に出ていたのは幸運なことに同じ事業所に通所しているパニック障害を患っている人で。
「あれ、俺さんどうした?」
俺の様子がおかしいことにすぐに気が付いてくれ、声をかけてくれたので。
「さっきのでパニック起こした。薬は飲んだけど無理。」
それしか言えなかったのだが、理解してくれた彼はすぐにスタッフへの報告と、俺と仲の良い別の利用者さんを呼んでくれた。
呼ばれた利用者さんは、本人がパニック障害は患っているわけではなかったのだが、俺への対処は的確で、肩を抱きながら食堂に連れて行ってくれ、椅子に座らせてくれた。
そうこうしているうちにスタッフの1人がやってきて、大丈夫ですか?って声をかけてくれたのだけど、全然大丈夫じゃないよと代わりに答えてくれたのは、廊下で会ったパニック障害持ちの彼。
「こうなっちゃったら落ち着くまで時間がかかるから、お昼休み終わってもすぐには現場には入れないよ。薬は飲んだって言ってたけど、しばらく傍に誰かいないとダメだよ。」
不幸だったのは声をかけに来てくれたスタッフが新人だったことだけど、幸いだったのはパニック障害を理解している人が傍にいたことだった。
そして、もっと幸運だったのは。
「あら、お姉さん、大丈夫じゃないね、ビックリしたね、怖かったね。」
喧嘩場面を見ていたらしい、出向先に勤めているパートのおばさん(外国人)が、カタコトの日本語で話しかけてきたと思ったら。
「私大丈夫、あなた友達よ、怖いの怖くなくなるね、大丈夫大丈夫。」
そう言いながら、おもむろに抱きしめてくれて。
「手冷たい、リラックスしようリラックス、大丈夫、もう怖くない怖くない。」
泣きやんで震えが止まるまで、ずっと手を握っていてくれた。
「ありがとう。」
落ち着きを取り戻すまで、たぶん30分くらいはかかっただろう。
涙声だったけどお礼を言ったら。
「お姉さん、泣き顔より笑い顔が素敵よ。お昼休みいっぱい過ぎたね、怒られるの私やるから、あなた笑っててね。」
そう言って、手を振って去って行った。
配属部署が違うから初対面のパートさんだったのだけど、突然の登場からの一連の言動には、本当に助けられた。
(なおその間、事業所の新人スタッフはほぼ空気だった)
結局現場に戻れた時には、本当にお昼休みを大幅にオーバーしてしまっていたけれど、現場の偉い人にも「大変だったね、無理しないで良いからね」と言われ。
何とか無事に乗り切って、無事に帰宅も出来た。
すぐの気持ちの切り替えはイマイチ出来ないので、明日は明日で頑張ろう!とは割り切れないものの。
少なくとも、事業所にも出向先にも、理解のある人がいてくれていることが判ったので。
今後も無理せずやっていこう。
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