第156話 不安がいっぱいで混乱する

木曜日の話。

しろたんの定期通院日だった。

休日だったので相方が病院まで車を出してくれ、一緒に行った。


しろたんは素人目には元気だし、お医者先生の目から見ても元気だったのだが。

素人目に見ても、手術した患部がぷっくり腫れていて、それは同じくお医者先生が見ても同じ見解だったので、その場で出来る検査をしてもらった。

結果、腫瘍が出来ている可能性があるとのこと。

ただ、それ以上は判らないので、採った細胞を検査センターに回してもらい、詳しく調べてもらうことにした。

結果は10日~2週間後に出る予定。

願わくば、悪性腫瘍じゃないことを祈る。


そして翌日の金曜日。

朝起きたら、右手の手首と言うか甲と言うか、何かその辺が痛かった。

どれくらい痛いかと言うと、仕事に支障をきたし、ペットボトルのふたが開けられないくらい。


本当は金曜日、友人とフグを食べに行こうと思っていた。

のだが、しろたんのことが心配すぎてメンタルをやられ、とても電車に乗れる状態ではなかったので、今回は見送り。

地元の整形外科に行ってきた。

そこでの触診や問診、レントゲン検査などの結果、仕事が起因で筋を痛めていることが判った。

そして、お医者先生は言った。


「とりあえず薬は2週間分出しておくので、暫く安静にしててください。休めるなら仕事も休んだ方が良いよ。」


ショックだった。

折角慣れてきて、気に入っていた仕事だったのに。

順調にこのまま続けたかったのに。


動揺して、仕事中の相方に電話した。


「休めって言われたんなら休んだら良いんじゃないの?」


返事はそっけなかった。

それで、更に落ち込んだ。


病院は普段近寄らない最寄駅の反対側にある。

とてもそのまま直ぐに帰れる精神状態じゃなかったので、病院近くの喫茶店に入ったところ、お店がそもそもガヤガヤしていて精神衛生に良くなかったのだが、加えて間もなく子連れが入店してきた。

アウトだった。


ウォークマンの音量を上げ、可能な限り聴覚からくる外部情報をシャットアウトしたのだが、それでも漏れ聞こえてくる音は恐ろしく。

不安を取り除く薬を飲んでもどうしようもなく、俺は席を立てなくなった。


「薬飲んだしウォークマンの音量あげたけど喫茶店が怖い。席から立てない。助けて。」


相方にメールした。

ほどなく折り返し電話がかかってきたのだが、「喋りながらで良いから席立って表出な。」

と言う指示に従い、いっぱいいっぱいになりながら何とか会計を済ませ店を出て、その旨を伝えると。


「出来ないって言ってたけど、出来たじゃん。」


と、これまたそっけなく。

電話を切ってから、道端で泣いた。


最寄駅は駅舎を見るのも嫌で、とぼとぼと遠回りをした。

すると、タイミングの悪いことに、救急車が通った。

それはすり減ったメンタルにクリティカルなダメージを残し、俺は道端にしゃがみこみ、またしても動けなくなった。

しゃがんでいたら、「どうしたんですか?大丈夫ですか?」と声をかけてくれた人が居た。

気持ちは嬉しかったのだが、非常に残念なことに、彼女は小さなお子連れで、お子様はぐずついていた。

最早何の罰ゲームなのか。


親子さんは5分くらい、俺のそばに居た。


「大丈夫です、ありがとうございます。」


後から思い出すに、全然大丈夫じゃない声と態度だったが、精いっぱいの元気を出してそう伝え、親子さんに立ち去って頂いた後も俺は暫く動けず、まっすぐ帰れば10分くらいの距離を、もともと遠回りしていたとはいえ、1時間くらいかけて、ようやく帰れた。


残りMPは0だった。


その夜、どうしようもなくなり、ヤンデレている友人に泣きついた。

泣きつかれた友人は、それでも冷静に俺を観察し、判断していた。


不安を取り除いてほしい、安心したいと言う俺に、気持ちは判るけど無茶言うなと返してきた。

いはく、相方も友人もカウンセラーでも医者でも獣医でもない。

今回の不安の原因は、しろたんの件、右腕の件、そしてここ2年半患っている病気の件。

どれも専門家じゃないから、確実なことなんて言えないと。


言われてみれば、確かにその通りだ。

でも、ごちゃごちゃとした不安でいっぱいいっぱいだった精神状態と状況を簡潔に整理してくれたおかげで、俺も落ち着けた。


右手もしろたんも抱えている病気も、何一つ解決していないけど。

物事を整理して考えること、それは俺の苦手とするところだが、その訓練はしていかないといけないよ、と、友人は静かに言った。

そして、周りに求めすぎている、とも。

自分で出来ることを増やしていかないといけないし、それが出来る下地は既に出来上がっていると思うから。


特別甘えすぎていたり、依存しすぎている心算はなかったのだが。

自分のポテンシャルを信用して良いステージに入ったということだろうか。

確かに、前に比べたら格段に良くなってきているのだ。

治るために、頑張ろう。

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