第88話 美容室にて
唐突だが、ここ1年弱くらい、ドライヤーが使えない状態に陥っていた。
音が怖かったからだ。
なので、昼間にシャワーを浴びて、自然乾燥で乾かしていた。
また、俺の髪は強いくせ毛で、縮毛矯正をかけているのだが、上記の理由から美容室に行く頻度も減った。
それでも、梅雨時期の昨今、流石にボサボサに広がるのが気になってきたので、本日、美容室に行った。
ここ暫く、最寄駅の反対側の出口近くにある、妙に安すぎる美容室に行っていたのだが、前回縮毛矯正をかけてもらった際、薬液をつけたあと肩で折れる形で放置されたため、その癖がついてしまったので、今回は倍以上の値が張るのだが、一般的な値段の別の美容室にした。
(ちなみに最寄駅には可能な限り近づきたくないため、ものすごくぐるっと大回りをして通っていた)
病む前は、ずっとお世話になっている美容師さんが居て、彼のお店まで行っていたのだが、いかんせん電車に乗らないと行けない距離で、かつターミナル駅が大きいため、人混みに耐えられる気がせず、もう2年ほどご無沙汰してしまっている。
今回行った、ショッピングモールの中にあるその美容室で、ドライヤーのことをどう説明しようか悩んでいたとき、子連れのお母さんが来店した。
子供はきゃっきゃと騒いでいる。
俺は、少しだけ悩んで、ドライヤーを選択した。
久しぶりに聞くドライヤーの音は、2人がかりで乾かしてくれたのでステレオ状態になってしまったのだが、子供の声をかき消すにはちょうど良かった。
つまり、今回美容室に行って、「ドライヤー>>>超えられない壁?>>>子供の声」というのが判った。
判ったので、恐る恐る、家に帰ってきてから、久しぶりにドライヤーをかけてみた。
我慢はする必要はあったが、耳を塞いでしゃがみこむ程ではなかった。
窓を閉めていても漏れ聞こえる救急車などのサイレンに比べたら、はるかにずっとマシだった。
窓を閉めていても漏れ聞こえる電車の音も、嫌な音には変わりはないが、これは元気なときなら我慢が出来る。
なので、ついでに「ドライヤー≧窓を閉めていても漏れ聞こえる電車の音>>>超えられない壁?>>>サイレンの音=子供の声」というのも判った。
嫌な音には違いないのだが、いつまでも嫌がっていても変わらないから。
今度から、我慢しなければならないので努力と元気は必要になるが、ドライヤーは可能な限り使ってみようと考えた。
それが、小さくても先に進む1歩だと思ったから。
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