第86話 悪夢を見る

第72話で、減薬しても良いよと言われた薬は、睡眠を深くして夢を見なくする薬だった。

実際、就寝前には2粒から1粒に減らしても、夢は見なくなった。


だが、昼寝のときは話が違う。

昨日がっつり遊んだせいで、今日は19時までまともに動けなかった。

そのほとんどを、寝たり起きたりして過ごしていた。

その間、夢をたくさん見た。

どれも悪夢だった。


と言うか、俺が見る夢は悪夢が多い。

しかも、同じ場面を切り取ったようなループものだ。


子供のころ、気が付いたときから中学生くらいまで、同じ夢をずーっと見続けていたことがある。

最終的には自らの意思を持って、ループしている夢を脱することが出来、以来見なくなったのだが、今はまた違った設定でループしている。

多分これも、自らの意思を持って、ループしている夢を脱するまでは続くのかも知れない。


昔見ていた夢は、最終的に「空を飛んで逃げる」ことで脱した。

あるとき唐突に思いつき、今度同じ夢を見たら、空を飛んで逃げよう、と心に誓って夜を迎えたのだ。

黒服の集団に追い掛け回されるという夢で、いつも捕まるところで目が覚めていたそれは、心に誓った通り、「空を飛んで逃げる」ことで以来見なくなった。

今見ている夢は、前職の職場が舞台になっていて、詳細は省くが、結論としては悪夢だ。

詳細を省いたのは、俺自身がまだ、夢見の悪さときちんと向き合えず、怖いからなので容赦してもらいたい。


子供のころの怖い夢と、今の夢の怖さは具体性の面で違う。

やはり歳をとり、俺自身にさまざまな知識や経験があることで、夢そのものもより現実味を帯びて、具体的になった。

つまり、「空を飛んで逃げればいい」と言うものでもなくなった。


今までの人生において、俺は「逃げること」が多かった。

今も、夢から逃げたくてたまらない。

とはいえ、今回は逃げて解決する内容でもない。

今まで可能な限り対立を避けてきていたので、向き合うことが極端に苦手な俺は、今回ばかりは具体的な解決案が見つかるまでは、同じ悪夢に苛まれるのもやむなしなのかな、と思っている。

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