第46話 リストカット

これは、実はやったことがない。

自殺を考えたことがないからだと思う。

考えたことがない、と言うと語弊があるかも知れないが、自力で死ぬには相当なエネルギーと勢いが要る。

俺にはそれがなかった。


いじめが原因で自殺した、などのニュースを聞くたび、その人は凄いなぁと思ってしまう。

どれだけのエネルギーを使ったのだろう、どれくらい必死だったのだろう、想像ができない。


ただ、よく「死ぬ気で頑張ってみろ(意訳)」「自殺するくらいなら同じエネルギーを使って生きてみろ(意訳)」と言う言葉を聞くのだが、俺に言わせれば、この言葉は的外れも良いところだ。


「生きていたくない」から、必死になれるのだ。エネルギーも使えるのだ。

それを、正反対の、やりたくないこと、「生きること」に、同量のエネルギーと必死さが使えるとでも思っているのだろうか?


リストカットは構って欲しい証拠、だとも言われているようだが、それも正直判らない。

俺も大切な人たちに構って欲しいと思うことはあるが、その手段は使おうと思わないというか、選択肢にないからだ。

構って欲しい時は、単純にただ一言、「構え」と言う。

大抵が、あるいは呆れながらも構ってくれる。

それで満足できるのだ。

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