5-17 召喚の真相 Ⅱ

「――なぁ、避難訓練って五時間目の最中に行われるんだよな?」


 祐奈ちゃん達と三時間目の授業を終えて話し込んでいると、赤崎くんが突然こちらにやって来るなり、そんな質問を投げかけてきた。

 そういえば今日は避難訓練があるんだった――と今更ながらに思い出す私を他所に、祐奈ちゃんはきょとんとした表情を浮かべて赤崎くんを見上げる。


「えぇ、その予定って聞いてるけれど。それがどうしたの?」

「いや、他のクラスのヤツと話してたら、昼休みに変更するだのって話が聞こえてさ。でもお前が何も聞いてないって事は、なんかの勘違いだったんかね?」


 祐奈ちゃんは性格上、先生からクラスへの伝言を頼まれる事が多い。

もしも赤崎くんが言うように、時間の変更があるとしたら彼女に何かしらの形で話は通じているはずだと考えたみたいだった。


 でも、どうやら祐奈ちゃんはそれらしい話なんて一切聞いたりした訳でもなかったらしく、小首を傾げていた。


「特にそれらしい話も聞いていないわよ?」

「そっかそっか。深影さんもなんか聞いたりとかしてない、よな?」

「へ、私? ううん、何も聞いてないけれど……」

「そっか。まぁ変更するんなら言ってくるだろうし、なんかの勘違いだったんかね。ワリィな、邪魔して」


 いきなり話しかけられてビックリしていた私を他所に、赤崎くんは短くそれだけを告げて自分の席へと戻って行った。


「玲奈、大丈夫?」

「……うん、大丈夫。赤崎くんは人畜無害って感じだし、一年の頃から同じクラスだから」


 あの一件以来、私はどうにも男性というものが苦手だ。

 何気なく話しかけられたりされると、ついついそれが宮藤先生の事を思い出してしまい、思わず身体を強張らせてしまう。


 そういった私の癖を知っているからか、あまり男子から直接話しかけられる事はあんまりない。

 みんなは気遣ってくれたみたいだ。


「確かに、赤崎は人畜無害系。でも、祐奈の胸のちら見率は高い」

「さすがにもう慣れたけどね。あれで隠せてると思ってるなら、さすがに私もちょっと驚くけど」

「それが持つ者の宿命。持たざる者としてどう思う、楓」

「……私を巻き込まないでくれないかしら……」


 祐奈ちゃん、胸大きいしね……。

 私だって思わず視線がいっちゃうぐらいだもん。

 咲良ちゃんの言葉に思わず苦笑する。


「玲奈はどっちかっていうとある方。朱里もああ見えて結構ある。私と楓は

「うーん、私はもうちょっと欲しいけどなー。ほら、胸大きい方が服ってカッコ良く見えるもん」

「えっ、わ、私にまで飛び火した……っ!?」

「あんたはいいわよ、背だって低いから目立たないし……。それに比べて私の場合、背が高いから目立つんだからね……」

「男装の麗人として生きれるだけ、楓はマシ」

「それフォローしてるようで、一切フォローになってないわよ……?」


 結局三時間目の休み時間は、そんな話題で幕を閉じた。


 四時間目の授業を終えて、お昼ごはんを食べる時間。

 私達は相変わらずいつも通り、お弁当を持ち寄って一緒に食べながら、ちらりと見た高槻くんが食べるコンビニケーキやお菓子に、甘いものが食べたくなり。





 そうして――は、始まった。





「ちょっとお手洗い行ってくるね」

「ついていこーか?」

「あはは、大丈夫だよ」


 朱里ちゃんに笑いながら断って、私は教室を後にした。


「――……なんか、静か過ぎる……?」


 いつもなら笑い声だったり人が歩き回ったりする足音が響いてきたり、喧騒に包まれる昼休みの廊下は――人の気配がしない程に静寂に包まれていた。


 私達のクラスは教室が階の隅っこにあって、他のクラスの教室からは少し離れている。階段からも一番遠いという事もあって、何があったのかはさっぱり分からなかった。

 疑問を感じながらもトイレを済ませて、廊下に出ると――そこには


「――え……?」


 こちらを見る、宮藤先生。

 頬はこけて、以前のような爽やかさを演出するような健康的な見た目とは一転して、病的なまでに窶れているのが見て取れる。


 なのに、ギラギラと妖しく光る瞳は私に向けられていて――刹那、ふらりふらりと揺れるような足取りで、けれど素早く私に近寄ってきて。


 思わず悲鳴をあげてしまった私に、ドン――と衝撃が伝った。


「……お前らの、お前らの、せいで……――」


 ブツブツと何かを呟きながら、宮藤先生は再び――その手に持った凶器を、血に染まった出刃包丁を見つめる。


 ――あぁ、そうだ。

 刺されてしまったんだ、私は。


 下腹部の熱は、血が溢れ出るせいだった。

 恐怖で身体が震えるのを感じながらも、でも不幸中の幸いというか、痛みは感じなかった。

 実感が伴っていなかったから、だろう。


 そんな中で、宮藤先生はにたりと笑ってを取り出した。


「……これで、全部終わる。ふ、ふふ、ふふふはははははッ!」


 ――狂気を孕んだ哄笑。

 その直後、宮藤先生が何かをしたと思った途端、激しい轟音と衝撃が周辺を埋め尽くして、私もまた思わず意識を失った。


 パチパチと何かが爆ぜる音。

 視界を揺らめく光が、私の薄い意識を呼び戻す。


 そうして目を開けると――そこには、宮藤先生を追い詰めて手を翳す、高槻くんの姿があった。


「――お前みたいなクズを殺してしまう事さえ許されないなんて、本当に、


 翳した手の前に浮かび上がる幾何模様。

 それはまるで、ファンタジーの中でよく描かれるような――そう、魔法陣そのものだった。


 煌々と輝く光が一際強くなったかと思えば、凄まじい程の風が吹いて、宮藤先生が強烈な勢いで壁へと叩きつけられた。


 ぶつけた場所が悪かったのだろうか。

 後頭部がぶつかったであろう場所は赤い花が咲いていて、ぐったりと宮藤先生は動かなくなった。


 何が起こったのかも分からず、ただただ薄い意識の中でその光景を眺めているだけの私に向かって、高槻くんが振り返る。

 私に向けた瞳は、後悔と謝罪を込めるような色に染まっていて、彼は倒れたままの私の前に膝をついた。


「……ごめん、守れなかった」


 ――そんなの、高槻くんのせいじゃない。

 ――それより、今のは何?

 ――この状況は、一体何が?


 言いたい事、聴きたい事はたくさんあって、溢れてきているのに、私の口からは言葉が紡がれる事さえなかった。


「宮藤は、僕らに復讐しに来たらしい。どうも他の教師を脅して意図的に僕らだけを教室に孤立させ、仕掛けた爆弾で僕らを殺すつもりだったみたいだ。……まさかここまでするなんて思っていなかったよ……。魔法的な要因がない危険については、僕にも察知できなかった」


 ――どういう、事?

 ――じゃあ、みんな、は……。


「僕が助かったのは、護身用に防御魔法を展開しているおかげだった。眠りこけている僕が衝撃に目を覚ました時には、もう……」


 高槻くんが私に手を翳す。

 優しい光に包まれながら、痛みも苦しみも消え去っていくのが分かる。


「回復魔法は、僕には使えないんだ。で魔法を極め、どれだけ研究しても、それだけはできなかった」


 ――……?


「うん、そうだよ。こちらの世界ではライトノベルやらマンガ、アニメなんかでも描かれるような平行世界。似ているようで異なる世界は、実際に存在するんだ。もっとも、荒唐無稽で信じてもらえるとも思えなかったから、誰かに言うつもりもなかったけどね」


 ――そう、なんだ。

 ――じゃあ私は、高槻くんの秘密を一つ、知れたって事だね。


「……平和ボケしていなければ、僕はキミを――キミ達を守りきる事ができたはずだった。それを怠ってしまったは、させてもらうよ」


 ――何を、するの?

 ――そんなの、高槻くんが悪い訳じゃ、ない。


 そんな私の声は、届かない。


 短く告げて、高槻くんは立ち上がる。

 いつもの無気力というか、どこかやる気のない表情とはまったく異なる、真剣で――知らない表情を浮かべていた。


「キミ達を、。死んで間もないみんななら、まだ助けられるはずだから。には、ちょっとした貸しもあるからね。受け入れてくれるさ」


 そんな言葉と共に、高槻くんはぱちりと指を鳴らした。

 高槻くんの足元から強く白い輝きが生まれて――同時に、高槻くんが苦痛に堪えるように顔を顰める。


「……僕はもう、一度だけ世界を渡ってしまったからね。なんとか眠り続けながら魔力を回復させてきたけれど、無事に世界を渡れるまでには至れていない。けれど、キミ達は違う。今の僕程度の魔力でも、命を懸けさえすれば。それに向こうの神々の力があれば――

「……の……や……」

「自分勝手かもしれない。けれど、これは僕の贖罪だ」


 ――そんなの、嫌。

 ――高槻くんが死んでしまって、私まで生きるなんて、そんなのは。

 ――求めていないよ。あなたがいないなら、私が生きる意味はない。


 途切れ途切れに、けれどどうにか口を動かして、私は高槻くんに向かって訴えた。

 言葉の端々から意味を汲み取ってくれたのか、高槻くんは驚いたように目を丸くしながらも――ふわりと、優しく笑った。


「……あまり深く関わるつもりはなかったんだけど、ね。僕は僕で、自分の回復と、いつか向こうの世界に戻る事ばかりを考えていた訳だし。――でも、キミ達と出会って、話していく内に、このままでもいいかなと、そう思った」


 それは別れのセリフのようで、私は必死にそれを止めようとした。


が死んでしまって、親しい者達も死んだ。魔法を極め、半神という身になったところで、自分だけが置いていかれる孤独を僕は知ってしまった。他人と関わり合えば、その分だけ別れは辛く、心を引き裂く程に痛いものになる。だから、他人と付き合うのが怖かったんだ」


 言葉が出ない私を無視して、高槻くんは続けた。


「このまま僕だけが生き残ったところで、僕は再び孤独になるだけだ。だから、キミ達の為に全てを使って、キミ達さえ新たな生を歩んでくれるのなら、僕は共に在れる。もう、僕だけが取り残されるのは――御免なんだ」


 高槻くんの言葉の意味は、私にもなんとなく理解できた。

 だからって……私達だけが生き残って、そこに高槻くんだけがいないなんて、そんなのは嫌だった。


 言葉にならず、それでも涙を浮かべながら頭を振る私に、高槻くんは困ったように苦笑を浮かべた。


「ごめんね、深影さん。僕はもう止まらない。止まる気がないんだ。だからせめて、何も知らないまま向こうの世界に生きるであろう彼らの代わりに、僕の事を憶えておいてほしい。それだけで、僕はキミと共に在れる」


 手を伸ばそうとしても、届かない。

 声をかけようとしても、もう身体からは力が抜け始めている。

 だから私は、彼の言葉だけは魂に刻み込もうと、そう誓って彼を見つめた。


「神代言語で、〈悠久〉という意味を持つのが、本当の僕の名前。高槻悠っていう名前は、僕がこちらの世界で語っていただけの名前に過ぎない。僕の本当の名前は――」




 ――エスティオ。




 高槻くんのその言葉と共に、私の視界は輝く光に塗り潰された。










 忘れてしまいたくなかった。

 だから私は、あの光に塗り潰されて意識が途切れるその瞬間も、ただただずっと高槻くんを――エスティオと名乗った彼の事だけを想い続けていた。


 だからこそ――奇跡は起こったのだろうと思う。









「……ここは……?」


 次に意識が浮上した時、私はの姿で、制服姿のままだった。


 空は澄み渡る青空。

 見渡せば、一つ一つの独立した小さな島が浮かんでいる。

 私がいる小さな島もまた、雲海の上に浮かぶ一つの島だったらしい。


「――まさか、こんな所に来てしまうなんてね」

「え……?」


 その声を聞き間違えるはずなんてなかった。

 声の先へと振り返れば、そこには高槻くんが――悠くんが、困ったような笑みで佇んでいた。


「……高槻、くん……!」

「――っと」


 思わず抱きついた私を受け止めながら、高槻くんは困ったように頭を撫でる。

 ふと我に返り、慌てて離れた私に、高槻くんは肩をすくめてみせた。


「僕の名前を忘れてしまったのかな?」

「……エスティオ」

「うん、そうだよ。僕の高槻という性は、僕が潜り込んだ架空の性でしかないからね。僕を呼ぶのなら、エスティオと呼んでいてほしいね」


 つまりこれも、さっきまでのあの光景も、夢ではなかった、という事なのだろう。

 ふわふわとしている夢のような感覚は、今の私にも一切感じ取れない。


 そう考えた途端に、私は思わずぺたりとその場に腰を抜かして座り込んでしまった。


 今更ながらに――怖くなった。


 宮藤先生のあの異様な姿。

狂気を孕んだあの姿が脳裏に浮かんで、思わず目を閉じた私の頭を、再び高槻くん――いや、エスティオが撫でてくれた。


「大丈夫だよ。アレがに干渉する事なんて、できるはずがないからね。もう、怖い事なんて何もない」

「……うん」


 そうは思っても、そう簡単に気持ちを切り替える事なんてできない訳で――しばらくはずっとそのままだったと思う。


 ようやく落ち着く頃、エスティオは私の隣に腰を下ろした。




 そこからエスティオは、ゆっくりと自分がどんな存在だったかを語ってくれた。




 かつて魔王が世界を手中に収めようと動いていたその時代、私達の世界から一人の勇者が召喚された。


 それが、夏目なつめ 竜斗りゅうと

 そんな彼と出会い、旅を共にしていたのがエスティオだったそうだ。


 どうにか魔王を討伐し、世界は平和を取り戻した。

でも、その勇者である夏目さんはどうしても元の世界へと帰りたかったらしい。

 気持ちを紛らわせるかのように日本を意識した国――ヤマト議会国という国を建国してみたりもしたらしいけれど、それでも日本への望郷の念は消えなかったようだ。


 エスティオはそんな彼の為に、ずっと魔法の研究を続けていた。

 異世界から夏目さんが召喚された魔法は、偶然の産物に過ぎず――それも世界を渡るともなれば、神々の協力を得なければならない。

 魔王を討伐し、人智を超えた魔法を操るエスティオさんは、『魔導』を司る神という立場を与えられ、そのおかげで更に魔法の真髄へと近づいた。


 けれども、夏目さんは夏目さんで結婚もしていて、子供達も生まれていた。

 その頃には元の世界に帰ろうという考えも消えていたようで、けれど時折、どこか遠くを見ながら故郷を思い返していたのだそうだ。


 だからエスティオは――夏目さんがこちらの世界で生を全うした、その時になって。

 夏目さんの魂を分け、自ら戻れない可能性を理解しながらも私達の世界へと連れ帰ってきたのだそうだ。


「――僕がそちらの世界へとやってきたのは、その時なんだ。彼はずっと、妹の事が気がかりだったようでね。彼が召喚された時間軸を指定し、僕はこの世界へとやってきた。彼の妹と共に学生生活を過ごし、見守ろうと決めたんだ」

「妹さん……?」

「うん、そうだよ。もっとも、高校は女子校に進学してしまったし、さすがにそこに僕が付いて行く訳にもいかなかったからね。僕は僕で、役目を果たしたから身体の回復に専念しようとしていたのさ」


 ――もっとも、いくら半神とは言っても帰れる保証なんてなかったけれど。

 エスティオはそう付け加えて、苦笑を浮かべた。


「……夏目さんは、私達の世界では死んでしまったの?」

「うん、彼は事故でね。僕がこの世界にやってきた三年前の出来事だ。そこに、神々からの召喚が重なったんだ」

「そう、なんだ……。妹さんは?」

「最初は酷く憔悴していたけれど、ね。でも、竜斗から聞いた彼らの親は、優しく、強かった。妹さんをしっかりと支えてくれたんだろうね。親というものは本当に凄いものだよ」


 凄いなぁって、思う。

 夏目さんのご両親はもちろんだけれど、エスティオの方が私には大事で――凄いって思えた。


 唯一無二の親友の為に命を懸けて、エスティオは夏目さんを連れ帰ったのだ。

 そうして夏目さんが気にかけていた妹さんを見守って。

 もしも私達が彼と関わっていなかったのなら、彼はきっと私達を助けようともしなかったのだろう。


 そのせいで、帰るべき場所を失ってしまったというのなら……。


「――気にしないでほしい。さっきも言ったけれど、僕はもう帰れるとは思っていなかったからね」

「……でも……」

「いいんだよ。僕は僕で、今の結果には満足している。もっとも、この〈神界〉へとキミまでやって来てしまったのは誤算だったけれど、ね」

「〈神界〉?」

「――えぇ、ここは〈神界〉ですよ」


 唐突に声をかけてきた女性。

 その女性はいつからか私とエスティオの背後に立っていたらしい。

 振り返った私に、女性は優しい笑顔を向けてみせた。


「予定外ではありましたが――ようこそ。ここは〈神界〉。私は神の一柱、アルツェラです」

「やあ、アルツェラ」

「やあ、ではありませんよ、エスティオ。半神でありながら、たった一柱で世界を渡るなど……。あの子供達の事がなければ、あなたは――」

「そこまでにしてくれないか、アルツェラ。僕は僕の決断を間違ったとは思っていないさ。深影さんのおかげで、辿り着く前に消滅とまではいかなかったみたいだしね」


 気安い雰囲気を出しながら笑うエスティオと、そんなエスティオに困った様子で眉を寄せるアルツェラ様。

 なんとなくだけど、エスティオは問題児、なのかな……?


「まったく、変わりませんね……。ですが、時間がありません。ティオ。どうやら、あなたが消滅するのは免れられそうにありません」

「え……?」

「だろうね。それも僕が選んだ道だ、悔いはないさ」


 ――エスティオが、消滅する……?


「あなたの力の残滓が色濃く残っている、この子。それにどうやら、あの子らもこの子程ではないにせよ、あなたへの想いが強く残っているようです。そのおかげで、どうにかこの場所へとやって来れたようですが――あなたそのものが生きれる程ではありません……」

「へぇ……、それは意外だなぁ。深影さんには最期の瞬間に色々と話したとは言っても、他の助けた子達にはそこまで想われていないと思っていたけど」


 何を言っているのかいまいち理解できていない私を他所に、エスティオはくつくつと小さく笑ってみせると、私へと振り返った。


「深影さん。キミの魂は、宮藤によってズタボロになるまで傷つけられてしまっている。だから、キミは一度魂を修復して、再構築しなくちゃいけない。彼らとは別の道を歩む事になるだろう」

「え、っと……。言ってる事はなんとなく分かる。けど、エスティオは消滅してしまうの……?」

「消滅とは言っても、僕はキミ達の魂と共に在るつもりだよ。もちろん、キミ達には見えないし、聞こえないだろうけれど、ね」


 それは事実上の、別れだった。


 私達を助ける為に、エスティオはその力を振り絞った。

 運良くこの場所へ来れたというのに、だからと言って助かる訳じゃないと言う無情な現実に、思わず言葉を失う。


「――けれど、僕の勘はこれで終わりとは告げていないんだ」

「え?」

「……ティオ、どういう意味です?」

「どうと言われても、そのままの意味だよ、アルツェラ。だから、深影さんには一つだけ、僕の頼みを聞いてもらおうかと思うんだ」


 エスティオが続けた言葉に、私は――一縷の望みを懸けて、強く頷いて応えた。

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