2-16 そして舞台は、終幕する
――全て仕組まれていた。
きっと今、あそこで立ち尽くしているファムさん――いや、魔族ファムの脳裏は、そんな現実に対する呆然とした確認のような呟きで埋め尽くされているだろう。
彼女の企てていたプランを叩き潰した。
それはもう、完膚なきまでにと言っても過言ではない程に、徹底的に。
大体、彼女は最初から間違っていたんだ。
社会的に抹殺するなんて、とんだ見当違いをしてくれたものだ。
もしも最初から僕を暗殺するつもりで動いてさえいれば、僕と同じ土俵で戦うような事態には陥っていなかっただろうし、むしろ呆気無く僕が殺されていた可能性だって高い。
魔族に睨まれた事を運が悪いと嘆くべきか。
それとも、こうして魔族と真正面から対峙できるような状況に持ってこれた事こそ、運が良かったと安堵の息を漏らすべきなのか。
ホント、仕事してよ、僕の〈傍観者〉さん。
神様の与えた運命でさえスルーしてしまう僕のスキルは、こんなにもありがた迷惑極まりないぐらいに張り切って仕事しているのにさ。
茫然自失といった様相を呈する、魔狼の魔族ファム。
あまりに無防備な姿を晒している今の彼女を取り押さえようと、審査員を守りに出てきていた警備員達がじりじりとにじり寄るけれど、僕は彼らにじっと視線を送り、視線に気付いた彼らに向けて首を左右に振った。
魔族エキドナが持っていた、【魔力障壁】。生半可な一撃程度では決して打ち破れないバリアを思わせるようなそれがある以上、中途半端な実力で刺激され、ヤケを起こして暴れられても面倒だからね。
――――さて、彼女には色々語ったけれど、さっきの説明は半分以上は真実だけれど、少しばかりブラフが混じっていたりする。
僕が最初に違和感を覚えたのは、リルルちゃんが原因だ。
リルルちゃんが僕に初めて会った時に見せた、僕に対する過度な敵対心は、僕に違和感を覚えさせるには十分過ぎる態度だった。あれには姉妹を守ろうとするような可愛らしい愛情なんかじゃなくて、崇拝する狂信者のそれに近いものを感じさせられた。
恐らく、ファムによって洗脳された弊害とでも言うべきか、ファム自身が潜在的に敵と認識していた僕を、リルルちゃんもまたそう認識していたのだろう。
彼女とロークスさんの台本をなぞるように誂えられた会話と、リルルちゃんから感じられた強烈な違和感。そして先述した通り、ファム自身から感じられた、他者を陥れて悦に浸るような独特の空気。
商業ギルドで会った時は同行していなかったけれど、エルナさんにその件で色々相談してみた結果、洗脳――つまりは【闇魔法】の可能性が浮上した。
その時点で、僕らは”ファムの目的”と”ロークスさんの関わり”、そして”リルルちゃんにかけられている可能性がある【闇魔法】”についてを、魔導具開発の傍らで調べていたのだ。
当初は確かに、ロークスさんが黒幕という線も考えた。
アムラさんの容態、薬を確保できない状況から鑑みて、僕は薬の件とファムから感じた嫌な気配は別件なのかとも思わされていて、当時は一杯食わされているような状態だったんだ。
まぁ、それも魔導具を介してファムとロークスさんの会話を聞いて、ようやく合点がいったわけだけどね。それを素直に教えてあげる義理もないから、最初から全てお見通しだったような言い回しをして、精神的に追い詰める方向にシフトしたのである。
さすがに最初っから全部お見通しだったわけじゃないなんて言ったら、ファムの心を砕くにはパンチ力が足りなくなりそうだからね。
「――ふ……ふふふ、ふふははははッ! あっはははははッ!」
ふと、ファムが笑い声をあげた。
悍ましさすら思わせるような笑い声は、愉快で楽しく笑みを浮かべるそれとはまったく異なる、まさしくどこかが切れてしまったかのような、そんな声をあげて、僕をまっすぐ睨めつけると、ピタリと笑いを消し去った。
「……やってくれるわね、勇者。ここまでこけにされて、手のひらの上で踊らされるなんて初めてだわ」
「お涙頂戴のストーリーを演じようにも、キミには悲壮感ってものが足りなかった。経験した事のない役を演じるには、まだまだ勉強不足だったんじゃない?」
「ハッ、言ってくれるじゃない。でも、そうね。確かに私には、あの役はちょっと似合っていないと自分でも思っていたけれど」
自分で言うのもなんだけど、あそこまでバキバキと心を折るような真似をした僕に対して、ファムは怒り狂って襲いかかるでもなくこの態度。
……何かがあるのかもしれない。
僕が知らない何か――この絶体絶命の状況に於いても、その結論を覆すことができる、最大にして最高の一手が。
ここからは、騙し合いじゃなくて探り合いだ。
おかしな話だけれど、今更ながらに僕らは正面から初めて対峙する事になる。
僕とファムは互いに視線を交錯させ合った。
「絶対に退かないって顔ね。やっぱり勇者なだけはあるのかしら」
「勇者勇者って、エキドナと言いキミと言い、随分と勝手な勇者像を作り上げているみたいだけど、そんなものを押し付けないでもらいたいね。いい迷惑だよ、そんな理想」
「まぁ、それもそうかもしれないわね。あなたはお世辞にも勇者らしいとは言えない存在だもの」
僕はファムが持つ情報を得なくてはならなくて、ファムは僕に情報を渡さないまま、主導権を握り続けている。この状況はハッキリ言ってよろしくない。
踏み込むべきかどうするか。
それを迷っている最中に、ファムは僕から視線を外してロークスさんへと振り返った。
「そういえば、残念だったわね、ロークス。あなたがあの薬の対策を練ろうとしていた事ぐらい、私だって知っていたわ。せいぜい自分達の命欲しさにやっている程度の事かと思っていたけれど、まさか商機と見ていたなんて。なかなか骨があるのね」
「……そうでもしなければ、なかなか認めてもらえませんからね。厳しいんですよ、ウチは」
好々爺さながら見た目、けれど職人の気配を纏うゼーレさんが、ロークスの皮肉の篭もった声に深いため息を漏らした。
「……ずいぶんと馬鹿な真似をしたものだ。魔族を相手取るのであれば、せめて儂に一言ぐらい言えば、少しは協力できたものを」
「……ッ」
「そんな無茶をせずとも、儂はお前を信用し信頼しておる。次期会長の名に焦ったか、ロークスよ」
「……それは焦りもしますよ。僕はあなたの跡を継ぐために、必死にこれまでやってきた。次の次の代では、あなたの期待に応えられるか判らないんですから」
「その頃には儂は死んでおるであろうからな。だが、馬鹿を言うでない。少なくともあと数年はザーレ商会を誰かに託す気などない。次に託すとしたら、それはロークス――お前に託すと決めておるわ」
「――ッ、ゼーレ、会長……! 僕は――!」
「あのー。ちょっとそういうの、全部終わってからにしてもらっていいですかね」
なんだか二人の間で綺麗にまとまってるところ悪いんだけれど、そういうのは後で身内で勝手にやってほしい。
まったく、ほんと空気読んでほしいよね、僕みたいに。
……だからミミル、『空気読んで』ってログウィンドウは僕じゃなくてあっちの二人に向けるべきなんじゃないかな。なんかアイゼンさんからも凄く冷たい目を向けられているような気がするし、なんとなくだけど観客席側からも似たような視線を感じるんだけども。
心なしか、ファムまで僕をちょっとそういう目で見ているような気がするけど、それはさすがに納得いかないよ?
まぁ、そんな目で見られても痛くも痒くもないけどね。
「それで、魔狼ファム。そのキミの自信は、一体どこから出てくるのかな? 追い詰めた僕が言うのもなんだけど、結構絶体絶命のピンチだと思うよ?」
「フフフ、そうね。別に虚勢を張る必要はないもの、ハッキリ言って手がないのは事実よ」
「……え? ホントに手がないの?」
「えぇ、私は終わりでしょうね」
――でも。
そう言葉を区切って、魔狼の魔族ファムは愉悦の混じる笑みを浮かべて、僕を見つめた。
「エキドナ姉様に続いて私もやられたとなれば、この町に何かがあると考えるのは道理。それにこの大舞台を観ている中には、私達魔王軍の伝令もいる。勇者ユウ。あなたは間違いなく、私達魔王軍にとっての要注意人物としてその名が知れる。私がこのまま捕まり死んだところで、いずれにせよあなたは魔王軍から狙われる事になるわ」
「負け惜しみのつもり、っていうわけでもなさそうだね」
「事実だもの。フフフ、聞きなさい、愚かな人族ども! この町は今日をきっかけに、我々魔族の標的としてその名が知れるのよ! せいぜい明けない夜に怯え、命を狙われる事に怯えながら日々を過ごすといいわ!」
哄笑しながら高らかに告げられた、魔族としての脅し文句。
その効果は劇的で、長らく続いている魔族との戦いを忘れさせるためのお祭りの熱に冷水をかけられたかのように沈黙が流れ、ファムの哄笑の声だけが鳴り響いている。
魔族が齎す命の脅威。
これだけ不利な環境に置かれてもなお屈しない、媚びようともしない間違いない強さを目の当たりにして、戦う力のない者はファムの言葉に恐怖し、戦う力がある者でさえも鬼気迫る気迫を前に思わずといった様子で息を呑んでいた。
常人では届かないとされるレベル四十前後の冒険者がパーティを組み、それでも高いリスクと命の危機を受けてようやく倒す事ができる、それが魔族だ。圧倒的な強者と認識すべき相手が、これから先このアルヴァリッドを標的にすると公言した以上、これは負け惜しみとして聞き流せる代物じゃなかった。
だけど――忘れているんじゃないだろうか。
この舞台には、魔族だけじゃない。
恐怖の象徴とさえ化した魔王と対する存在――勇者がいるのだ。
「――悪いけれど、魔族の好き勝手を許すつもりはないよ」
僕の一言に、ファムの哄笑がピタリと止んだ。
「ミミル、【
こくりと頷いたミミルが、僕のもとへとやってきて額に口付けた。
口付けたのは別に何かの愛情表現ってわけじゃない。僕の少ない魔力をミミルに渡すには、この方法が一番手っ取り早いのだとミミル自身も僕も判っているから、ただこういった方法を取っただけだ。
僕には魔法が使えないけれど、多少なりとも魔力は有しているし、スキルとしての【魔導具制作】も持っている。もっとも、僕の場合はそれを自分の意思で魔法として扱う事ができないから、魔導具を作る時はいつも手で刻印を刻む必要があるんだけれど――ミミルは僕とは違う。
そう、ミミルなら【魔導具制作】を「魔法として発動」させる事ができる。これこそが本来の、従来この世界の魔導具職人にあるべきやり方だったりするけれどね。
標的は、ファムが首から下げているペンダントだ。
「魔族ファム、キミには感謝しているよ。魔族全ての魔力が同質ではないかもしれないけれど、キミは僕に貴重なサンプルを与えてくれたからね」
オルム侯爵家の使用人達。
アムラさんやリルルちゃんの魔力に、僕の仲間である赤崎くん達の魔力。
そして、エルナさんと僕の魔力をサンプルとして手に入れ、それをミミルという魔力の申し子を通してパターン化させた結果、種族によって魔力はそれぞれ特徴を持っている事が判った。
そして魔族であるファムが、僕ら〈
「僕は魔族に嫌がらせをするって決めているんだ。そのためには、どうしても魔族の魔力パターンを把握する必要があった。キミが首から下げているそのペンダント型の魔導具は、キミの魔力――延いては魔族特有とも言える魔力を教えてくれた」
ミミルが僕の頭上で、僕から得た魔力を使って大きな魔法陣を描く。
幾何学的な紋様は光となって中空に描かれて、平面的な円ではなく、球体となって浮かび上がった。
眩い烈光の向こう側で目を見開くファムへと、僕は告げた。
「〈魔熱病〉なんていう毒を撒かせるのは食い止められないかもしれないけれど、その対抗策はすでに得ている。それでも、まだまだ君達はこういった策を巡らせてくるつもりかもしれない。――けれど、もうこれから先、君達魔族は僕らの住む町に紛れ込ませない。その証明に、身を以て協力させてあげるよ」
「――な、にを……ッ!」
「刻印――【敵対者に課す呪縛】」
僕の合図に、ミミルが描いた魔法陣は収縮し、一筋の光となってまっすぐとファムの首元に光る魔導具へと突き刺さった。途端――ファムの身体の周りには光の鞭が生み出され、ファムの身体を縛り上げ、完全に閉じ込めるように光の牢獄が構築される。
「――ッ、な、んだ、これは……ッ! ち、から、が……」
「対魔族用の結界魔導具――【敵対者に課す呪縛】。それは僕のオリジナルの魔導具でね、特定のパターンを持った者のみに反応するんだ。抵抗しようとしても無駄だよ。その魔導具は、キミの魔力が続く限り消えたりはしない」
「……そ、んな、ま、さか……」
「そのまさかだよ。その魔導具はキミの持つ魔力を永続的に吸い取り、その魔力を原動力に変えて牢獄を作り出す」
魔導具に刻まれた刻印を書き換える【魔導具制作】本来のスキルとして発動させたのは、僕が作ったオリジナルの術式だ。
「ど、どんな魔導陣を刻印してやがるんだ、おめぇさん……」
さすがに魔導具職人であるアイゼンさんは、僕が作り上げたこの魔導具のタネが気になるらしく、思わずといった様子で問いかけてきた。
ふふん、しょうがないなぁ。
解説してあげようじゃないか。
「魔石に彫れる魔導陣は、どうしても表面――平面的な代物でしかありません。ですが、別に「魔石そのものに彫ってさえいれば、表面に刻印しなければならないわけじゃない」んです。もっとも、これは僕一人じゃ決してできない芸当なんですけどね」
「表面以外……? ――ッ、まさか、そいつは……」
「さすがアイゼンさん、もう気付いたんですか。その通り――要するに、ミミルの【魔導具制作】によって刻まれた刻印は、魔石の内部に刻まれているんですよ」
ドヤ顔をしている僕――のパートナーであるミミルを撫でつつ、僕はアイゼンさんへと視線を向けた。
「魔導具に刻印する魔導陣は、言ってみれば一つの式です。式と式を連結させ、同時に、あるいは連動させて発動させるには、一般的には巨大な円で囲って強制的に繋がなくちゃいけません」
魔法陣の一般常識は、「複雑な魔法はより大きな円で囲う必要がある」という至ってシンプルなものだ。当然ながら、それは決して間違っていないし、実際にそれが一般的に流用されている。
それ故に、必然的に強力な魔導具は作れない――と、されてきた。〈
その人物こそ、先代勇者――リュート・ナツメ。
彼は魔法陣を円状ではなく球状にして展開するという法則に気が付いていて、それを実践したのだろう。
ともあれ、この技術はあまりに特殊だ。
一般的な【魔導具制作】は、目で見えなければ刻印ができない。よほど精密な操作能力か、僕のようにミミルという裏ワザ的な存在でもいなければ、ほぼ不可能と言ってもいい。
恐らくリュート・ナツメにも、似たような裏ワザ的な存在が味方にいたのだろう、というのが僕の見解なのだけども――それはさて置き。
光の牢獄に囚われたファムは、すでに自らの魔力を喰われ続けて倒れ込んでいる。光の明滅から察するに、多分もうすぐ魔力が枯渇して、意識が失われるんじゃないかな。
これが僕の魔導具、【敵対者に課す呪縛】の効果だ。
意識がある間は動きを封じ込める魔法を展開し続け、魔力の枯渇で意識を失うまでそれが続く。
さすがにその段階で機能を止めないとミイラが生まれる可能性があるとミミルに言われたので、それはやめておいた。平和主義な僕にそこまで物騒な物を作る気はないからね。
朦朧とする意識で、なおも僕を見つめていたファムから視線を外して、僕は観客席を見つめた。
「――対魔族用の魔導具。これこそ、僕が開発した現段階での魔導具です。この魔導具があれば、皆さんが怯えて暮らさなくてはならないなどという事態にはならずに済むでしょう。ゆくゆくは各国、各町にこの魔導具を大きく高性能にして配置するつもりです」
それに――と続けて、僕は赤崎くん達を見つめた。
「僕らには勇者である彼らがいます。今はまだ未熟かもしれません――もっとも、僕から見れば頭おかしいんじゃないかってぐらいに強いです――けど、もしも魔族が襲ってきたとしても、彼らが僕らを守ってくれる。そしていつの日か、このお祭りよりももっと盛大な凱旋パレードを催す日を、齎してくれるでしょう」
――だから、何も心配する必要なんてありません。
最後にそう付け加えて一礼してみせた僕の耳に届いたのは、大気を揺らす程の割れんばかりの歓声と、「勇者! 勇者!」と連呼する観衆のエールだった。
――こんな歓声を浴びせられてるんだから、当然応えるよね、僕らのリーダー?
顔をあげ、言下にそんな気持ちを抱きながら手招きをしている僕に気付いて、赤崎くんは「やりやがったな、ったく」とでも言いたげに僕の隣へと飛び上がって登場した。
このステージ、結構な高さなんだけどね。
それを直立状態から飛んでくるなんて、やっぱりおかしいね、赤崎くんも。
再び湧き上がる観衆。
――――僕は柄にもなく、その熱に浮かされていたのかもしれない。
「――ユウ様!」
「悠、下がれ!」
突然エルナさんに肩を捕まれ、赤崎くんの叫ぶ声が聞こえて、歓声は一瞬で悲鳴に塗り潰された。
ようやく状況を把握した。
気を失いかけた魔族ファムを守るように、フードを目深に被り、該当に身を包んだ二人組が、僕らと対峙するように小太刀を思わせる剣を手に立っていたのだ。
どうやら割れんばかりの歓声と同時に飛び込んできたらしい二人の内の一人が、静かに口を開いた。
「――この魔族、我らが貰い受ける」
静かに告げられた声に明らかに不審感を抱いている赤崎くんとエルナさん。
僕もまた、思わず表情が歪んでしまいそうになるのを噛み殺した。
「何者だよ、お前ら。そいつの仲間か?」
「正確には仲間ではない。が、用があるのだ」
「はいそうですかって頷けるとでも思ってんのか?」
「……できれば交戦は避けたい」
「はっ、都合のいいこと言ってんじゃ――!」
「連れて行くなら連れて行っていいんじゃない?」
何やらデッドヒートしかける赤崎くんを他所に、僕があっさりとそう告げてみせると、エルナさんも赤崎くんもぎょっとした様子で僕を見つめた。
「お、おい、悠! お前、何言って……!」
「いや、無理に戦って被害が出る方が問題だよ。それに、さっきの諦めの良さだってこうなる事を予見していたのかもしれない。何か仕掛けてる可能性もある以上、ここは手を引いた方がいい」
「それは一理あります。ですが、よろしいのですか?」
「しょうがないよ。それに、ファムにはすでに首輪がかけられているからね。あれは僕じゃないと外せない。下手な真似はもうできないはずだよ」
すでにファムは、僕の首輪が完全に行動を束縛している。
恐らくおかしな事にはならないだろうし、何よりあのペンダントが受信した魔力は、ミミルを通して僕に情報が伝わる。泳がせた方が新しい情報が手に入る可能性だってあるからね。
それに何より、この二人なら大丈夫だろうと思うしね。
「――ねぇ、そっちの二人。その魔族が、どうしても必要なんだね?」
「……あぁ、そうだ」
「なら、町の人を守る為にもここは譲ろう。今すぐそいつを連れて、どこへなりと逃げればいいさ。でも、もし町の人に危害を加えようって言うなら、そうだね――地下牢にでもぶち込むよ?」
にっこりと笑顔で告げると、二人組は一瞬身体を強張らせると、コクコクと頷いてファムを抱き上げ、その場から一瞬で姿を消した。
……なるほどね、そういう事か。
くすくすと笑っていると、赤崎くんとエルナさんが怪訝な顔を浮かべて僕を見つめていた。
「ユウ様、今の二人組に何か……?」
「あぁ、うん。ちょっとね」
短く答えて赤崎くんの肩に手を置いた僕は、「収拾よろしく」と満面の笑みで丸投げしたのであった。
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