2-12 役者は揃う

 ファルム王国随一の商会、ザーレ商会。

 始まりはザキレとゼーレという一組の行商人の師弟が、大商いに運良く引っ掛かり、持ち前の目利きと巧みな話術を弄して成り上がったという、大商会にしてはまだまだ歴史の浅い商会である。


 初代商会長であったザキレはしかし、歳も五十の半ばといったところで命を落とした。


 現場主義の彼は護衛と共に向かい、雨に打たれ、病に倒れてそのまま逝ってしまうという、劇的な人生を彩るにはあまりにも静かな、変哲もない死。


 それはこの世界に生きている以上、何も珍しくもないよくある話だ。


 しかしこれをきっかけに、ザーレ商会は二代目商会長であるゼーレへと託され、見事にザキレの志を引き継ぐかのように商会を成長させ、すでに数十年。

 ザキレが命を落とした年の頃はもう十年近くも前に越してしまったが、当時は何やら感慨深いものがあったとゼーレは振り返る。


 そして今、ザーレ商会は一つの転機を迎えようとしていた。

 年若い新進気鋭の後進達の成長を目の当たりにしてきたゼーレが、自身の体力の衰えも相俟って、そろそろ商会長の座を誰かに譲る心算である、と商会の幹部達にはまことしやかに囁かれている。


 その話を聞きつけ、我こそはと血眼になって自分を売り込む者達もいれば、まったく興味がないとでも言わんばかりに静観を貫く者達もいる。


 そんな部下らの姿を思い浮かべながら、ゼーレは小さく嘆息した。


 ――大きくなりすぎてしまった。

 ゼーレはそう思わずにはいられなかった。


 ザーレ商会は今、岐路に立たされている。

 古参の大商会から睨まれつつ、新たな商会からは憧憬を向けられているのは、確かにゼーレも望む所ではあったがしかし、組織の内情が芳しくはなかった。


 若手の中には儲けを焦るあまりに禁制品に手を出した者もいれば、盗賊との繋がりがある闇商人と結託して奴隷を非合法な手段で手に入れたりと、悪事を重ねる者さえ出る始末だ。


 実際、ゼーレはすでに衰えている。

 眼光の鋭さは大商会を率いる立場に相応してこそいるが、いかんせん体力は全盛期に比べれば見るも無残なものだ。若き才覚在る者に商会を託し、隠居するというのもあながち間違った噂ではない。


 それでも後進に道を譲らない理由は、今のザーレ商会のまま後進に引き渡せば、組織は瓦解しかねないからだった。





「会長」


 アルヴァリッドのザーレ商会、その奥にある部屋の会議室でコンテストの参加者に関する資料を読みつつ思考に耽けていたゼーレに、若い男がノックをしてから入ってくるなり声をかけてきた。


「ロークスか」

「間もなくお時間ですが、どうです? 誰か面白そうな人材はいそうですか?」


 手元の資料に目をやって、ゼーレが直前に迫ったコンテストの出場者に目を通していたのだろうと当たりをつけたロークスは、柔和な笑みを湛えて問いかけた。


「それなりに面白い男がいるようだ」

「……それはそれは、珍しい事もあるものですね」


 これまでゼーレはコンテストに参加する者に対し、滅多に興味を示そうとはしなかった。研鑽されてきた目に映るのは、どうしたってまだ若い若輩者ばかり。素質や経歴はそれなりに光るものがあったとしても、やはり粗が目立つように見えてしまう。

 そんな彼が興味を示す存在だと告げながら見せてきた一枚の紙を見て、ロークスは小さく微笑んだ。


「私の推薦者ですね」

「ほう、お前が。〈アゼスの工房〉のアイゼンから工業ギルドに紹介されているようだな。珍しい事もあるものだ、あの偏屈なドワーフがヒューマンを認めるとはな」


 書き記された名は、悠のものであった。


 ゼーレの言う通り、〈アゼスの工房〉のアイゼンと言えばかなり名の知れた魔導具職人だ。滅多に他人とは関わろうとはしない職人気質で、〈アゼスの工房〉に所属する職人らの多くはアイゼンの一番弟子を通して技術を教わるため、アイゼンが直接指導するような機会は滅多に訪れないと有名だ。


 ロークスもまた今回のようにコンテストに推薦者を選定し、送り出すのは珍しく、ゼーレの知る限り今回が初めてだ。


「どうやら、その少年は『異界の勇者』の一人のようですよ」

「……このような年端のいかぬ子供が、勇者か。しかし先日の勇者一行にこのようなおなごのような男はいなかったはずだが……いや、そうなると同行している一人ということか」


 ザーレ商会は運悪く直接的に関われてはいなかったが、楓が発足している『カエデブランド』や、祐奈の調薬や調味料といった品々はかなり莫大な金額を生み出している。その出処が魔族を討伐した勇者の一味かもしれないといった噂についてはゼーレの耳にも届いている。

 オルム侯爵家は外様の商売人に対しても懐を広く開いてはくれているものの、歴史や繋がりといった面ではまだ浅いと言われがちなザーレ商会では、なかなかに足を踏み込める場所ではなかったのである。


 今回、奇しくもその一味と繋がりを持てそうな人物こと悠を、ロークスが推薦している。商売人としての勘は先代会長のザキレに勝るとも劣らないものだと思うと、ふとゼーレは小さく笑みを零した。


「……それだけに、惜しいな……」

「……何か仰いましたか?」

「いいや、なんでもない」


 実力も勘も、そしてまだ若い歳も。

 それぞれが整っているからこそのだと思うゼーレは、その真意を未だ語ろうとはしなかった。


 しかし、それはロークスの耳にはしっかりと届いていたのだろう。

 部屋の外へと出ていこうとするゼーレの背を見つめていたロークスは、柔和な笑みを浮かべたままでありながらも、その拳を強く握り締めていた。









 ◆ ◆ ◆








 ――ザーレ商会の商会長ゼーレが、今回の〈火の精霊祭〉で行われるコンテストの審査員を直々に務める。

 そんな噂を耳にしたのは、当日の今――コンテスト参加者が集っている控室の中が初めてだった。


 今回の参加者は、どうやら〈火の精霊祭〉という大舞台に萎縮して、ランさんがわざわざ釘を差してきた時に言っていた通り、参加を辞退する人も何人かはいたらしい。

 それに加えて商会長であるゼーレの参加に、控室の中にいる僕と同じくコンテストに出場する人々は、さすがに緊張の色を隠せていないようだった。


「……マジかよ」

「あぁ、なんてことだ……。〈迷宮都市で最も恐れられる男〉本人と対峙せにゃならんとは……」

「凄い人なんですね」

「なんだ、坊主。知らないのか? あの方」


 周りの人達が口にするように、アイゼンさんも確かそんな事を言っていたような気がする。


 どういう意味でそんな名前がついてるのかな。

 すごく怖い顔をしているとか、そんな安直なネーミングだとも思えないし。


「ザーレ商会ってのは、初代商会長のザキレさんと現商会長のゼーレさんが行商から始めた商会でよ。だが、ザキレさんが商会としてこれからって時に早くに亡くなっちまってな。それ以来、ゼーレさんの手腕で大きな商会に育ったんだぜ」

「詳しいんですねー」

「おいおい、有名な話だぞ? そんなのも知らねぇでこのコンテストに参加するのか?」

「僕はザーレ商会そのものには興味ないですし」

「商売やろうってのにか? ははっ、若ぇ内はまだまだ尖ってるってことかねぇ。商売やる以上、色々な商会の情報は知っておいた方がいいんだぞ、坊主」


 僕ほど尖りのない人物はそうそういないと思うけどね。

 それに興味というか目的にしているのは、あくまでも商業ギルドへの加入権だからね。


 今回のコンテストの参加者は、僕を含めてどうやらここにいる全員――八名しかいないらしい。

 これは今までのザーレ商会でのコンテスト参加者の中でもかなり人数が少ない方らしく、やっぱり〈火の精霊祭〉という大舞台の中、堂々と観衆の目の前でプレゼンをするような状況は勘弁願いたい人は多かったみたいだね。

 記念受験ならぬ記念参加みたいな事をする人もいない訳ではないらしい。


 僕は特に緊張とかしていない。

 そもそも人に無関心な僕が他人からの視線にいちいち動じるはずもなく、目立っている状況は居心地が悪い気がしないでもないけれど、そこまでって程でもないし。


 だからミミル、『人なんてマンドラゴラの大群だと思えばいいよ!』なんてログを出してもらっても、むしろそんな集団の中にいる方が気が気じゃないと知っておいてほしい。

 マンドラゴラは引き抜くと怨嗟の声をあげるらしく、踏み潰してしまうだけでもそういった現象が起こるのだそうだ。

 そんな地雷みたいな植物に囲まれるなんて僕は御免被りたいよ。


「精霊か? 珍しいな、兄ちゃん。精霊使いなのか?」

「精霊使いって程、偉ぶったものでもないよ。まぁ大事なパートナーではあるけれどね」


 パートナーという僕の単語を聞いたせいなのか、ミミルが『デレ期到来!』とかずいぶんとデコレーション豊かなログを出しながら両頬を押さえてくねくねし始めた。

 いや、僕にツン期もデレ期もないよ。


「ははっ、なんだよ、照れてるのか? 可愛いな、精霊って。純粋な存在だって聞いてたけど、その通りみたいだ」

「その純粋さがたまにあらぬ方向に飛ぶし、自重せずにちょくちょくドヤ顔する精霊だけどね……」


 細野さんとのやり取りを見ている現代日本出身の僕としては、あまり純粋過ぎるのもどうかと思うんだ。

 もう少し自重というものを知っておいてもらいたい。


 そんな事を考えながら指の腹でミミルの頭を軽く撫でつつ、周りと少し話をしていると、僕らのいる控室に案内の人が入ってきた。


「本日は我がザーレ商会のコンテストに参加いただき、まことにありがとうございます。本日案内役を務めさせていただきます、アルドンと申します。以後お見知り置きくださいませ」


 そう言いながら、挨拶をしてきたふくよかな男性は僅かに腰を折って仰々しくも挨拶をすると、ゆっくりと顔をあげた。


 物腰は柔らかく、顔には笑み。

 見回した――いや、多分一人一人をざっと見て、面白そうな人物でもいないのかと僕らを推し量っているんだろう。その目は笑みを象ってこそいるものの冷めた目付きを湛えていて、ふと僕と目が合うと笑みを深めた。


 綺麗な女性にはああいう風に微笑まれてみたいものだけれど、こういう狸親父って言葉が似合いそうな相手にそういう態度はあまり取ってほしくない。


 ……ちょっと悪寒が走る。

 僕にはの気なんてないですよ。


「さて、皆様。我々ザーレ商会のコンテストの参加順については、本来エントリー順に回ってくるものとなっております。しかし、今回はこの大舞台という事で、少々趣向を変えさせていただいておりますので、予めご了承くださいますよう、お願い致します」

「趣向を変えている?」

「やはりお祭りには盛り上がりや華といったものが必要でございます。そこで今回は、推薦者がいらっしゃる方々はコンテストの中盤から後半での順番となります。こちらをどうぞ」


 丸めた一枚の紙には、単純に番号が振られた紙と参加者の名前が書いてあるみたいだ。


 僕の名前は……っと、どうやら一番最後らしい。

 一応僕の登録はロークスさんの紹介っていう扱いになっているんだっけ?


 今回のコンテストの目的のついで、というわけでもないのだけれど、僕はロークスさんの流している〈魔熱病〉を引き起こす薬に関する情報の公開と、その言及をするつもりだ。

 エルナさんに言われたからっていうのもあるにはあるんだけれど、〈魔熱病〉なんていう厄介な代物を蔓延させられるわけにもいかないし、ここでしっかりと決着をつけておきたい所ではある。


 そういう意味で、コンテストそのものすら滅茶苦茶にしてしまいそうな立場上、最後である事は喜ばしい。


 変に周りから恨み辛みを向けられるのは勘弁願いたいし。


「あなたがユウ様ですね」


 気が付けば参加者がそれぞれに散っている中、一人で立っていた僕に近づいてきたアルドンさんは、相変わらずどこか笑いきっていないような冷たさを湛えた笑みを浮かべて、僕へと声をかけてきた。


「そうですけど、何か?」

「……ふむ。やはり他の参加者とは異質とでも言うべきでしょうな。ロークスが推薦しただけの事はある」


 何が異質だって言いたいのか、僕にはさっぱりなんですけど。


「ロークスさんが推薦するのは珍しいんですか?」

「えぇ、その通りです。ゼーレ会長の次か、あるいはその次を継ぐと噂されている、未だ若きザーレ商会の期待の星ですからね、彼は」

「そこまで凄い人なんですか」

「彼はゼーレ会長が拾って育て上げてきた孤児だった少年ですからね。ゼーレ会長が全てを教え込み、育て上げてきた。ザーレ商会にいる誰もが、ロークスならばと信じておりますよ」


 推し量るような目の光は鳴りを潜めて、穏やかな、それこそ本当に自分の息子を思って語っているかのような物言いでアルドンさんはそう告げた。


「ずいぶんと高く評価しているんですね、ロークスさんの事を」

「えぇ、もちろん。ですから、我々一同もロークスが初めて推薦したというあなたについては興味があります」

「買い被りじゃあないですかね。僕はたまたまロークスさんと知り合っただけですし」

「ハッハッハッ、運もまた商売には必要な才能ですとも。そういう意味では、あなたは何かを惹きつけるものがおありのようだ」


 そうらしいせいで〈傍観者〉の称号を与えられたぐらいだからね。

 スキルにスルーされちゃってるけども。


 去っていくアルドンさんを見送りながら、僕はふと思考を巡らせていた。


 こんなにもザーレ商会の将来を約束され、信頼されている。

 それもまだ若く、見た目だっていいはずなのに――どうしてロークスさんは〈魔熱病〉をばら撒くような薬に手を出したんだろうか、と。


 ……うん、考えたって仕方ないよね。

 どうせ僕のやる事にはなんら変わりなんてないんだし。


「それでは皆様、舞台裏へとご案内致しますのでついてきてください」


 アルドンさんが全員に声をかけ、僕らはそれに従って移動を開始した。




 会場となる、〈火の精霊祭〉の特設ステージ。

 さっきまでライブを行っていた橘さん達の時とは一転して、舞台上には長机と椅子、それに移動式の単純な黒板もどきが置かれている。

 どうやらあそこに自分なりに作った表を貼ったり文字を書いたりしながら、長机に座るであろう数名の審査員を前にプレゼンを行うといった形になるようだ。


 会場の脇からその様子を見つめていた僕らの前で、若い女の人――〈火の精霊祭〉の開催を宣言していた獣人の女性が、球状のマイクを手に壇上で大きく息を吸った。


《それでは! これより、ザーレ商会によるコンテストを始めたいと思います!》


 普通に考えればあまり盛り上がりそうにないイベントなのだけれど、どうもお祭りという雰囲気の相乗効果なのか、わぁっと上がった歓声が大気を揺らす。

 ちょっとうるさい。


「まったく。こんな状況だってのにうるささに顔を顰めるなんて真似しやがんの、おめぇさんぐれぇなもんだぜ」

「あれ、アイゼンさんじゃないですか」


 気が付けば隣にいた、背の小さいニヒルな男ことアイゼンさん。

 僕と目を合わせると小さく鼻を鳴らした。


「今回のコンテストはデケェ祭りだからな。技術者として審査員に招待されてんだ」

「へぇ、アイゼンさんもこういう催しに参加するんですね」

「普段なら断ってらぁ。今回はおめぇさんがいるからな」

「えっ? 何それデレてるんですか?」

「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇ。にしたって、どうやら緊張はしてねぇみてぇだな」


 ふっと笑って、アイゼンさんがバシンと僕の背中を叩いた。

 思わず咳き込んでいると、ちょうど壇上の若い女の人が何かあったのかとこちらをちらりと見つめた。


《――アレ? アイゼンさん、そっちは参加者の待機場所ですからね!? アイゼンさんが参加しちゃったら合格間違いなしじゃないですかー!》

「馬鹿言うんじゃねぇ! ちぃと用があっただけだ!」


 ドッと笑いに包まれる会場にアイゼンさんが出て行って、そのままなし崩し的にお姉さんが審査員を紹介していくと、僕らがいる舞台脇とは反対側から、次々に人が呼ばれて姿を見せた。


 アイゼンさん、わざわざ僕を心配してきてくれたんだろうか。

 あの人、僕のヒロイン枠を狙っているわけじゃ……ないよね。


 どうでもいい事を考えつつ見ていると、見知った顔と名前が現れた。

 当然ながら、ロークスさんである。


 僕と目が合うと、ロークスさんは相変わらず人の好さそうな笑顔で会釈してきたので、僕も軽く会釈を返す。


 ……相変わらず、なんていうか僕が嫌いなタイプだよ、ホントに。

 ああいう表情をするタイプは、絶対に僕は信用しない事にしている。


 なんとなく辟易とした気分を味わっていると、人物紹介やらを行っていたお姉さんが大きく息を吸って、何やら溜めを作ってから片手を大きく広げた。


《そして皆様! 本日はなんと! 審査員長を務めますのは、ザーレ商会の現会長であるゼーレさんです!》


 僕と同じ参加者の数名が、思わず息を呑むような音が聞こえた。

 あのアイゼンさんですら注意を促してきた〈迷宮都市で最も恐れられる男〉と呼ばれる存在が、割れんばかりの歓声の中に堂々と姿を見せた。


 一見すれば、確かに老年の男性だ。

 細く垂れ下がった眉尻と皺が、平穏そのものといった印象を与えている。


 けれど、僕の抱いたイメージは全く異なっていた。


 アルドンさんにも感じた、目の奥の剣呑さすら思わせる光。

 あの微笑みはむしろ他者に立ち入らせないための仮面といったところだろう。

 放っている空気は商人というよりも、いっそアイゼンさんと同様に凄腕の職人のような近寄り難い雰囲気すら感じさせる老年の男性。


 僕以外には基本的にツン期がデフォルトのアイゼンさんですら隣に位置取りしている席に座る際に声をかけ、軽く挨拶をしている。


 やっぱり只者ではなさそうだ……。


 あのアイゼンさんがちょっとヘコヘコするなんて……。


「あ……っ、ユウさん!」

「ん……あぁ、ファムさん。どうしたの、こんなところで」

「ユウさんが参加するって聞いたので、その、応援に……」


 はにかむような笑顔を見せて、ファムさんが手をもじもじと合わせながら恥ずかしそうにしている。

 別に恥ずかしがるようなものなんて何もないと思うけどね。


「そういえばファムさん、エルナさんと会ってないかな?」

「え? いえ、会ってません、けど……」

「そっか。来るって言ってたんだけどね」

「そうなんですね……それより、もう始まるみたいですよ!」


 ファムさんに言われて振り返ってみれば、最初に呼ばれているであろう男性が緊張した面持ちで舞台上から名前を呼ばれて出て行くところだった。

 ファムさんの言い方はなんとなく話を逸らしているような気もするけれど――とにかく、プレゼンはプレゼンでちゃんとやるつもりだ。


 エルナさんは来れなくてもファムさんは来てくれたし、これから僕がやらかそうとしている舞台の役者は揃ったらしい。





 ――さぁ、始めようか。





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