2-9 〈魔熱病〉

「……なるほど。確かにこいつぁ面白ぇな」


 立派な髭を擦りながら渋い声を響かせて、アイゼンさんは僕が作った魔導具を数種類ほど見てからそんな感想を述べた。


「〈古代魔装具アーティファクト〉の魔導具化は、今までに何度も挑戦されてきてる。が、どうしたって劣っちまう。あれは光の強さと色で魔力量と本人の魔力が傾倒してる属性色を判断するっつー代物だからな。それを再現しようとしてもどうしたって無理だった。その点、おめぇさんの作ったこいつぁ魔力量を測る上で数値で表してるっつーわけか」

「魔力量の計測っていう点では、光るだけじゃ曖昧ですしね。数値化した方が色々と指針にもなるでしょうし」


 そもそも光の明るさを指針にしたって、いまいち判然としないと思うんだけどね。

 アーティファクトっていうぐらい貴重な代物を相手に、思考停止しているんじゃないかな、それ。


「簡単には言うがな、魔力を吸い上げて連動させようなんて考え自体、そもそも聞いた事もねぇよ」

「そうですか? 僕の持つ〈古代魔装具アーティファクト〉も魔器を連動させて魔力を充填するじゃないですか。それができるなら、魔導陣を合成させて刻印すれば……」

「はあ……。ったく、おめぇさんはホントに常識ってもんを無視しやがる。いいか? 魔力を充填させる技術自体、一般に流れてるような代物じゃねぇんだ。それに加えて魔導陣を合成させるなんて、俺だって聞いたこたぁねぇよ」


 やれやれと肩をすくめて欧風リアクションをしてみせたアイゼンさん。

 背が小さいドワーフにそれをやられると、なんとなく小馬鹿にされた感が否めないんだけど。


 まぁ実際、僕の場合は普通とは少し違う。

 ルファトス様から【魔導の叡智】をもらって、ミミルっていう素晴らしいパートナーがいるから魔法陣の合成なんて真似もできるんだし。

 ともあれ、どうやら僕の発想とミミルの知識は魔導具作りにはかなり向いているらしい。


 ふふふ、アイゼンさんでさえ感嘆する程ならザーレ商会でのコンテストの合格はもらったようなものかな!

 なんかこう、最近の煮詰まった感じからようやく光が見えてきた気さえするよ。


「そういえば、町もだいぶ活気づいてきましたね」

「そりゃあな。魔族との戦いも膠着状態だが、この辺りは前線からはまだ離れてるしな。〈火の精霊祭〉ぐらいは盛大に盛り上げようって魂胆だ。ま、勇者が魔族を打ち倒したっつー明るい話題もあるからな」


 三日後に迫った、毎年アルヴァリッドで行われる夏祭り――〈火の精霊祭〉。


 魔族や魔王との戦争でもあまり良くない状態が続き、世界的にもどこか暗雲が漂うかのような暗い空気が蔓延していたせいで、あちこちでお祭りなんかは自粛する傾向にあったそうだ。

 けれど、エキドナが倒され、世界にはかつての勇者という切り札が姿を現した。魔王の攻勢も鳴りを潜め、今は徐々に明るい話題が増えてきている。


 この辺りで一つ、お祭りを盛り上げて悪い空気を払拭したいという気持ちの表れなのだと語るアイゼンさんは、ガラス越しに行き交う人々を眺めながら感慨深げに目を細めた。


「そういや、今回のザーレ商会のコンテストの件、聞いたか?」

「何がですか?」

「おいおい、おめぇさんは大舞台の主役だろうが。聞いてねぇのかよ」

「はい?」

「魔導具の研究で引きこもってたせいで聞いてねぇのか……? いや、そうだな。商業ギルドに行って来い。面白ぇことになってるぜ?」


 きょとんと小首を傾げて訊ね返す僕に、アイゼンさんはイタズラを思い付いたかのようにニヤリと笑って、そう告げた。






 半ば強引に追い出されるように外へと出た僕は、商業ギルドへの道を歩いていく。


「ミミル」


 喚び出しに応じてミミルが姿を現した。


 精霊が人前に姿を現すのは珍しいけれど、皆無じゃない。

 精霊使いとして冒険者と一緒になって旅をしているような精霊は、僕もこの町で何度か見かけた事がある。

 まぁもっとも、精霊はどうやら人型じゃないのが主流みたいなので、ミミルを見て目を丸くする人の方が多いけども。


 そんな訳で、僕もなるべくミミルに外を見せてあげようと考えたのだ。


 初めて見る外の光景に興味津々な様子のミミルだけれど、すでに気分はお祭り……うん、こっちの世界にそんな法被を着るような習慣はないと思うよ。


 頭の上のログウィンドウには『祭りじゃい!』と書かれた文字。

 相変わらず僕の記憶を覗き見しているらしいけれど、やっぱりおかしな方向に趣向を凝らしてくるね、ミミルは。


 アイゼンさんとも話した通り、町の中はすでに〈火の精霊祭〉を前に活気に溢れていて、いつも以上に人の行き来が雑多だ。

 こっちの世界で人の波とも言えるようなものは見た事はないけれど、この調子ならお祭りが始まったら地球の祭りみたいに多くの人で賑わいそうな気配がしている。


 屋台のスペースを割り出しているのかテープのような物を地面に貼っている、精霊祭運営委員会と書かれた腕章をしている人達の姿も見かけつつ、商業ギルドへとようやく到着。


 ちょうど入り口の前では、書類の束を手に持った狐人族の獣人であるランさんが立っていた。


「ランさん」

「ユウ様ではありませんか。いかがなさいました?」

「アイゼンさんから「商業ギルドに行ってみろ」って言われたんで来てみたんですけど、なんか心当たりあります?」


 よくよく考えてみると、心当たりもないのにやって来てしまったせいで、なんとも答え難い質問だった。

 辿々しく説明してみると、ランさんはそれだけで気付いたのか、ポンと手を叩いた。


「もしかして、三日後のコンテストの件でしょうか? ユウ様は参加なさるのですよね?」

「そのつもりですけど、それがどうしたんです?」

「何やらザーレ商会が今回のコンテストは少し趣向を変えたいとかで、特設ステージを設けてそちらでコンテストを行うそうです。いつもは数名の審査員と密室で行われるはずですが、どうやら今回の精霊祭を通して商人希望者を増やそうとしているようですね」

「……え? それってつまり……」

「はい。大観衆の前でザーレ商会のコンテストが行われます。それよりユウ様、もしかしてユウ様の肩にいらっしゃるのは精霊では……――」


 大観衆の前でコンテストなんて、そんな目立つ真似を僕がするの?


 えー、すごく辞退したい。

 人見知りな僕にそんな無謀な挑戦、待ち構えてなくてもいいのに。


「ちなみに、もう参加の取り消しはできませんのでご注意ください」

「……なんでです?」

「勇者一行のお仲間がコンテストに参加する、という情報は思いの外宣伝効果が大きくてですね……」

「……あぁ、なるほどね」


 ……見世物にでもなった気分だよ。


 まぁそこまで忌避する必要もないし、むしろ公開処刑の舞台を整えてくれるって言うなら、特に言う事もないかな。

 大事になってしまうけれど、そこは僕のせいじゃないんだし、構わないや。


 むしろそれより、僕には看過できない点が一つある。


「それで、ランさん」

「はい?」

「僕を宣伝に使って客引きしようっていうんなら、それ相応のリベート手数料を期待してもいいんだね?」


 にっこりと笑って問いかけると、ランさんはぴくりと頬を引き攣らせた。


 いくら肖像権みたいなものがなかったとしても、勝手に見世物扱いした事についてぐらいは、しっかりと請求させてもらうよ?


「え、えー……と、本来商業ギルドに入っていない相手にはそういった支払いは……」

「あっれー? おかしーなー? まさかっ! まさかだけど、商業ギルドが商業ギルドにまだ入ってない僕を利用するだけして、何も御礼を払ってくれないなんて――言いませんよね?」

「えっ、ちょっ、ユウ様……!?」


 あちこちから一斉に集まる視線の嵐。

 悪いけれどランさん、僕にはこんな視線を向けられようがなんだろうが、最初っからさらさら気にするつもりなんてない。


 そんなのスルーするに決まってるじゃないか、扇動者は僕なんだし。


「ゆ、ユウ様、どうか落ち着いてください……! その件につきましては、商業ギルドに入ってから、確実に協力をして――」

「んん? まさかですけど、目に見えない口約束なんてものを代価に取引を成立するつもりですか? なのに?」

「うぐ……っ」


 困る様子で言葉に詰まるランさんに向ける、僕の満面の笑み。

 周りからは商業ギルドが僕といういたいけのない少年を騙そうとしているようにすら見えるという構図である。


 実際、ランさんはこの迷宮都市アルヴァリッドの商業ギルドの副支部長っていうポジションに納まっているのだから、それなりに信用してはいいのだろう。

 それこそ、ギルドに入ってから融通を利かせてくれるっていうのもあながち嘘であるという訳でもないと思う。


 けれど、ね。


 商売しようっていうのに、「ギルドに入ったら協力しますから」なんていう口約束だけで満足しろなんて、無理な話だ。

 特に僕みたいに性格がひん曲がってるタイプとしては、それを許容なんてするはずがない。


 そもそも商売、先立つものがなければ何も得られない。

 いくら獣人に憧れを抱いている僕だって、商売相手となった以上、獣人かどうかではなくてあくまでも取引相手としてしか見ちゃいないよ。


「……な、何をご所望でしょうか……?」


 折れた。

 いや、折れたフリをして、この場を収めようとしている、って感じだ。

 引き攣った表情のままだけれど、その目はしっかりと――ありありと勘定を計算する怜悧さを窺わせている。


 ……ふふふ、ダメだよ。

 僕、そういうを読む事には、どういう訳か長けているんだから。




 それにその余裕――なんだかすごく崩したくなっちゃうなぁ。




「各種属性魔石五つで手を打ちますよ?」


 火・地・風・水の四大属性と、光と闇の極属性。


 これらの魔石を引き合いに出したところで、ランさんの目が驚愕に剥いた。

 僕が要求している魔石は、それこそ一般人ではまず手に入れられないような代物が混ざっているからね。


 そういう反応も別におかしくなんかない。


 でも、ほら。

 その驚愕はどうやらランさんの想定外だったようで、さっきまでの余裕は一転して、焦りに塗り潰された


「む、むむ、無理言わないでください……っ! 属性魔石は一つずつが高価ですし、特に水の属性魔石は飲水を作る魔導具に使われていて、最も高価なのに……っ!」

「ふーん、それで?」

「え……っ」


 冷たく言い返されて目を丸くするランさんに、すかさず顔を寄せる。

 

「その条件を飲んでほしいなら、しっかりとそちらで譲歩できる案を出すのが筋でしょう? それで、ランさんは僕の要求する代価を断って、それを納得させるのにどれだけの代償を用意できるんです?」

「……ッ、そ、それは……」


 すでにペースは僕のものだ。

 ランさんはもう、「僕が納得する最低ラインを割り出す」という目的から外れて、「僕を納得させられる代償」を考えなくちゃいけない。


 僕がやっているのは、「ドア・イン・ザ・フェイス」なんていう、無理な要求を最初に出してから、要求を下げてから飲ませるなんていう、そんな高等なテクニックじゃない。


 ただただランさんのペースを崩す為に無謀を口にしただけだ。

 要求なんて、正直に言えばどうでも良かったりもする。


 ちょっと痛い目に遭ってもらって、ちょっと余裕を隠していたその本性を壊したくなっちゃったっていう、ただの茶目っ気だよ?

 なんだかランさんには悪魔でも見るかのように怯えた目で見られているような気もするけれど、どうしたのかな?


 さらにくすくすと笑ってみせると、ランさんは涙目になって僕を見て硬直していた。 


「ねぇ、ランさん? 僕はまだ商業ギルドに所属してないんだよね? そんな一般人を利用しておいて、まさか反論されるとは思ってなかったの? それとも、たかが一個人の意見なんていくらでも潰せると思ったの? どっちにしても――僕、不愉快だなぁ……?」

「ひ……ッ」


 びくりと身体を震わせて、耳をピンと張って強張るランさんから一歩離れて、僕は笑みを浮かべたまま小首を傾げた。


「さぁ、ランさん。商売、しよっか?」

「……ッ!?」


 あぁ、まったく。

 普段は凛としていて「デキる女」なランさんが、そんなにぷるぷる震えながら涙を湛えて僕を見るなんて、なんかこう、嗜虐心がそそられるね。


「ど、ドS……」

「ん? なぁに?」

「ひっ!?」


 いつの間にやらミミルがランさんの横に移動して、『イジメ、よくない』と書いたログウィンドウを僕に向けている。

 失礼だなぁ、これは純然たる取引なんだよ?






 ――――結論から言うと、ランさんは魔石の提供を快諾してくれた。


 無理してまで要求するつもりはなかったから、「あんまりダダをこねると、僕の気分がもう少し良くない方向に傾いちゃうなぁ」ってちょっと愚痴ってからもう一度訊ねてみたんだけど、なんだか「是非魔石で! それで勘弁してください!」って熱意を向けられちゃったからね。


 ランさんはいい人だなぁ。

 僕は損も労力もなく属性魔石を手に入れられたし、ランさんも気持ちよく商売ができて、お互いにウィンウィンってヤツだね。


「……ユウ様、それって脅迫では」

「え? あはは、僕が商業ギルドなんていう組織相手にそんな真似するわけないじゃない。「長いものには巻かれる事なかれ主義」だよ?」

「それは「長いものを引きちぎり、なかった事に仕向ける主義」の間違いでは?」

「何それ物騒なんだけど」


 上機嫌で帰ってから事情を説明したんだけど、このエルナさんからの酷い言われようにはビックリだよ。


「それにしても、ユウ様。緊張なさっていませんか? まさかそのような大舞台が用意されるとは」

「んー、予想だにしてなかったけれど、まぁこれはこれで悪くないと思うよ。人が多ければ多い程、言い逃れはできなくなるし口封じだってされる心配もないからね」


 レベル一の僕にとって、何より怖いのは実力行使だ。

 体力も純粋な膂力も、敏捷性だって魔法さえ、僕には抗う術がほぼないと言っても過言じゃないからね。そういう意味では今回の大観衆の前でのコンテストも、悪事をバラすという行為についても、この形はある意味では非常に好ましい。

 

 確かにまるで誂えたかのような、作為がありそうな気もちらついているけれど、この際そういったものはするっとスルーする方向でいいと思ってる。

 一体何が狙いかなのかなんて、考えたところで分かるものじゃないし、気にしてもしょうがないからね。


「あの子を、どうにか救えるのでしょうか」

「多分大丈夫だと思うよ。それなりの手を用意してあるから。ただ、どうしても決定打に欠けるっていうのも否めないけれど……」


 ――――そんな話をしている、まさにその時だった。


 机の上に置かれた、緑がかった魔石の嵌めこまれた魔導具が光を放ったのを見て、僕はすぐにその魔導具を手に取った。


《――俺だ。勇者、聞こえてるか?》

「えぇ、聞こえてますよ。久しぶりですね、ゼフさん」


 体の芯に響くような低い声。

 以前エキドナとの戦いを終えた後、この町から姿を消してしまった一人の冒険者――ゼフ。〈砕きの剣〉とかいうなかなかに力技を発揮していそうな二つ名を持ち、かつ魔族側についているとされる、僕に遠話の魔導具をよこしてきた人物だ。


 突然の彼からの連絡に、僕は驚きながらも平静を装うために一つ深呼吸した。


「それにしたって、僕は勇者じゃありませんよ」

《……相変わらず口の減らねぇガキだ。まぁいい。一つ情報を手に入れたんでな、お前にくれてやる》

「情報、ですか?」

《あぁ。魔族の一派の中で、どうやら〈魔熱病〉をばら撒こうとしてるヤツがいる》

「……〈魔熱病〉?」


 図書塔で色々な本を調べてはみたけれど、そんな病気は聞いた事もなかった。


「どんな病気です?」

《体内の魔力が暴走を引き起こす病だ。本来ならそれなりにレベルが高い連中が急激にレベルアップした際なんかに起こる一過性の高熱だ。が、昔アークードっつー亡国で「魔力を増幅させる薬」なんて謳い文句で売りだされ、その結果大量に人を死なせた薬がある。どうやらそいつを今の時代に蘇らせてばら撒こうとしてるみてぇだな》

「へぇ……それ、症状はその名の通りの高熱の症状とかですか?」

《そうだ。器である身体がレベルアップで能力が上がれば、体内の魔力が増えて暴走を引き起こしてもすぐに順応できる。だが、薬で無理矢理膨張させられた魔力は身体に見合わない大きさになると、人を喰らう》

「特効薬はあるんですか? もしくは症状を抑えられるような薬は?」

《存在していない。その薬の製法自体、すでに遺失してる。薬の素材でも判れば、薬師の連中なら薬を作るぐらいならできるだろうがな》

「……厄介ですね」


 ……〈魔熱病〉、ね。

 だけど――なるほど、なんとなく色々と繋がってきた気がする。


 赤崎くん達が高熱で魘されたあの日も、確かダンジョンの四階層に入った日だったはずだ。

 ここ最近のオーバーワークとでも言えるような急激なレベルアップが四階層に入った事で加速して、本来の形通りの〈魔熱病〉が発生したのかもしれない。


 そして、アムラさんもだ。


 十中八九、ロークスさんが件の〈魔熱病〉を引き起こす薬を与えているのだろう。

 あの時、僕の魔導具は魔力を奪っていたはずで、それだけなのに熱が引いた。恐らくは間違いないと思う。


「エルナさん。アムラさんは薬の服用はやめてるんだよね? 高熱はあれ以来なくなってるの?」

「薬の服用はやめていますが、高熱は何度もぶり返しているようです。その度にユウ様にお借りした魔導具で吸い上げています。てっきり、身体が弱っているせいでぶり返しているのかと……」

「そうなると、根本的には治ってはいないって事だね」


 最近はコンテストに集中していたから、アムラさんの所には顔を出していなかったけれど、どうやらアムラさんのあの回復は一時的なものに過ぎず、すぐに高熱を引き起こしてしまっているのか。

 そうなると、薬を継続して飲まなくても症状は継続してしまうのかな。


 じゃあ、なんで一日一本なんていうペースで飲ませてたんだろ?


 気になるけれど、調べようがないのは痛い。


「……やっぱりロークスさんが持ってるだろう薬そのものが必要だね」

《おい勇者。お前、〈魔熱病〉をばら撒いてるヤツに心当たりがあるのか?》

「それっぽいのは、って所です。確定ではないですけど」

《十分だ。なら、お前は〈魔熱病〉を引き起こす薬を手に入れるか、治療薬を作れ。それがこの情報の代価だ》


 エキドナの動向を知っていて、確かに魔族側にいるんだろうけれど、やっぱりこの人は悪じゃない。

 何か理由があって魔族側にいるっていうのは間違いないみたいだ。


「……やっぱり、あなたは魔族側にいるけれど人族を滅ぼすような考えに賛同するつもりはないんですね」

《……くだらねぇ質問はすんな。とにかく、治療薬を作るなり進展があったら連絡してこい》

「えぇ、分かりました」


 あまり深入りしたり詮索されるのは好きじゃないらしく、ゼフさんは僕の返事すら待たずに魔導具を止めてしまったらしい。

 魔導具を置いて腕を組んだ僕は、椅子の背もたれに身体を預けて天井を仰いだ。


「ロークスさんの薬をどうにか手に入れられればいいんだけど、それは難しい。けれど、治療薬を手に入れる必要はどうしたってありそうだし、何か手を打たなくちゃいけない……。うーん、なんか色々こんがらがってきたよ」

「でしたら、ザーレ商会の商会長に話を通してみてはいかがです?」

「それはどうだろうね。ザーレ商会自体がそれに手を染めているんだとしたら、シラを切られる上に僕らがマークされるだけだよ。決定的な証拠を突き付けつつ、こっちはこっちで治療薬を完成させられればいいんだけど……」


 魔導具作り、〈魔熱病〉、治療薬。


 頭を掻きむしりたくなるような気分を味わいつつも天井を仰いだまま「あー」と感情を吐き出すように声を漏らしていると、ふとエルナさんが呟いた。


「魔力を暴走させるとなると、よほど魔力を多く吸い込んだ素材を使っていると思うのですが……」


 その呟きは、僕にはいっそ天啓か何かに聞こえてならなかった。

 

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