2-8 謎の素材
ロークスさんが二人のお母さんに渡していた薬の入手が難しくなってしまった今、僕にできる事なんてほぼないと言ってもいい。
幸い、今のところ二人のお母さん――アムラさんって言うらしい――は、どういう訳か僕の試作魔導具によって魔力を吸い取られて以来、体調も落ち着いているらしい。
もうこれ以上、ロークスさんにこれ以上薬を貰う必要もないし、事情はどうあれ、ある意味ではちょうどいいタイミングだったのかもしれない。
「――話が漏れた……? それって俺達の中から動きが漏れてる可能性があるって事か?」
アルヴァリッドでの生活もそれぞれ一段落して、最近は個々の行動が増えてしまいがちだけれど、僕らは日を決めて一堂に会して近況報告をし合っている。
ちょうど今日は、報告会が予定されている夜だった。
真剣な面持ちでいた僕とエルナさんの話からという流れになり、今の現状を説明したんだけど、赤崎くんが小首を傾げて問いかけてきた。
「それはないよ。そもそも今回の件、僕とエルナさん――っていうよりも僕が独断で決めて動いている事だからね。今回の動きに関しては漏れようがないんだ」
「悠くんの動きを予想するなんて不可能に近いし、確かにそれはないわね」
「だな。俺達なんて最近は大体ダンジョンにいるし、悠は悠で魔導具を作る為に引きこもってんだし」
「引きこもるって、人聞きの悪い言い方だよ。研究に打ち込んでるんだよ」
「外に出て来ない以上、変わらない」
細野さんのその言い方には悪意しか感じられないんだけど気のせいかな。
「でもよ、結果的にはその女の子のお母さんが治ったんだろ?」
「はい。一応は快方へと向かっています。とは言っても、数十日も高熱の状態が続き、食事もろくに食べれなかったため、まだしばらくは静養する必要がありますが」
「だったら別に、無理に介入する必要ねぇんじゃねぇか? そっからはもうその親子の問題だろうしよ」
「赤崎くんの言う通りではあるんだけどね。そもそも僕が気に喰わないから僕なりに動いているだけだし、あの親子にとってはもう解決と言えば解決だよ」
「なら、なんで気に喰わないんだよ? そりゃあ毒盛ってたってんなら悪人だろうけど、お前が面倒見る必要はないんじゃねぇの?」
それもそうなんだよね。
実際、あとは僕個人の感情で動くかどうするかっていう話でしかない。
けれど――どうにも腑に落ちない。
一体どうして、どこから僕らが動く事について漏れたのか。
或いは、ただの偶然なのか。
どうにも、タイミングができ過ぎているような気がしてならないんだよね。
僕らが何かを見落としているんじゃないかと思わずにはいられない。
雲を掴むような、とは言うけれど、そんな綺麗なものじゃない。
これはまるで、精巧過ぎていっそ薄気味悪さを感じさせるような、偽物なのに本物との相違点が掴みきれないような、そんな言い様のない得体の知れなさが靄となって付きまとっているような、そんな感覚。
このままじゃ、ダメな気がする。
何がって判らないのに、何かが引っかかってる。
「悠、何をすればいい?」
ふと、思考に沈む僕に細野さんが声をかけてきた。
「悠が何かするなら手伝う。気になるなら調べればいい。必要だって言うなら、協力する」
「そうね。私達の影のリーダーが気にするって事は、何かがあるんでしょうし」
「そうそう。頼りないって言われたらちょっと悲しいけど、遠慮してるんなら水臭いよー?」
「なんなら、その男に取り憑かせて精神的に追い込むのも手よ?」
「ぷりんちゃんで呑み込んじゃうのも大丈夫だよっ」
「瑞羽も美癒も、発想が極端すぎだから……。ともあれ、真治くん以外は全員手を貸すわけね」
「ちょっと待て。俺だって何かあるなら手伝うぜ。ただ、お前がなんつーか、責任みてぇの感じて助けようってんなら、そこまでする必要ねぇんじゃねぇかって話をしたかっただけだしよ」
西川さんと橘さんが続いて、追従するようにみんなが口々に声をかけてきた。
加藤くんは渋く力強く頷いてみせるだけみたいだけど。
「みんな……」
「お、なんだ? 悠に似合わず感動して声も出ないってか?」
「いや、暇なんだなぁって」
「人の好意なんだと思ってやがる!?」
「あはは、冗談だよ。ありがとう」
感謝してるのはしてるんだけどね。
そうやってからかわれると天邪鬼したくなるのが僕だよ!
「あぁ、そういえば悠くんが持って帰ってきた幾つかの謎素材なんだけど、色々調べてみてあるけど、どうする?」
「ん? なんだっけ、それ?」
「悠くんが三階層で持って帰ってきたフルーツとかいっぱいあったでしょ? 食べられるか食べられないかとか、色々調べてほしいって言ってたじゃない」
そういえば、佐野さんには色々お願いしてるんだった。
彼女は薬師ギルドとも関わりがあるし、最近は調味料も作っているから食材を専門的に取り扱う商会とも付き合いがあるみたいだし、三階層の調べ物なら彼女が適任だしね。
「一応レポートはまとめてあるから、後で持って行くわね」
「うん、目を通してみるよ、ありがと。食材になるものだったら自由にしてくれていいよ」
「でしたらユウ様、いくつかアムラ様の体調回復に差し入れをしてあげてはいかがです? いくら薬のお金が必要なくなったとは言え、完治するまでは時間もかかりますし……」
「まぁ乗りかかった船だからね、あげるならあげてもいいよ」
エルナさんも気になっているみたいだし、このまま放っておくのも後味が悪いのは僕も同じだしね。気味の悪ささえ除けば、ハッピーエンドを迎えられそうな流れなんだし、ここでわざわざ断る理由もない。
こうしてお互いの情報を交換していく中、一応は僕とエルナさんの状況報告が終わったと考えたのか、赤崎くんがコホンと咳払いして場の流れを途切れさせた。
「そういや、俺達もレベルが四十五超えてきたんだ。一応、五十を越えればそれなり以上には戦えるらしいし、そろそろ勇者として本格的に前線に移動しようと思ってる」
「え、気持ち悪い早さだね」
「ひどくねぇか!?」
一般的には、レベル五十になるのに、常人ならば数年はかかると言われているんだもの。けれど、『異界の勇者』であるおかげか、僅か数ヶ月にまで短縮されているのかな。
かねてよりの目標――最前線へと出ても安全と言われる程度のレベルを確保したのは大きい。
魔族に万が一遭遇してもあっさりと負けるようなレベルを超えたって事だからね。
「そうね。私はお店の方が忙しいから、しばらくは町から離れるつもりもないけれど、そろそろそれぞれの道を進む頃かしらね。朱里もそろそろ始まるんでしょ、ツアー」
「えっと、うん。アシュリー様の紹介で、私はまずは王都に戻って初コンサートの予定。まだ先だけどね」
「私も楓と同じような感じね。この町でようやく仕事らしい仕事が軌道に乗ってきたから、しばらくは移らないつもりだけど、近い内にこの屋敷を出て大きな工房のある家を借りる予定」
それぞれがそれぞれの道を歩き始める。
ここは異世界。
確かに僕らは元の世界では学生で、毎日をただただ流れるように過ごしていたけれど、異世界に来た以上はそれぞれの道を歩くのもおかしな話ではないんだ。
僕が魔導具を作り始めたように、みんなもそれぞれの道を歩いているのかと、今更ながらに実感させられるような気分だった。
「悠、お前はどうするんだ? 魔導具作り、うまくいってるのか?」
「うん、順調と言えば順調だよ。今度のコンテストに受かれば、僕も職人としての日々が始まるからね」
「そっか。じゃあ、そのコンテストとやらが終わったら、その時は……」
「うん。――それぞれ、新しい生活を迎える事になるんだろうね」
僕らはそれぞれの道を、それぞれに進む。
他人であった僕らが異世界にやってきて家族のように過ごし、また他人に戻るかのように。
それはそれでなんだか寂しく思えてしまう辺り、僕は意外と懐に人を入れやすいのかもしれないと、そんな事を実感させられたような気分だった。
翌朝、僕は佐野さんから受け取ったレポートを眺めながら、自分なりに知識を纏めているメモ帳に色々な名前を写し込んでいた。
トロピカルというか、色鮮やかな南国系のフルーツを思わせる果物類のほとんどは食用として知られているらしいけれど、三階層の僻地に自生しているせいか、町にはあまり流れないような品もあるらしい。
そういったものは高価で買い取ってくれるらしいし、佐野さんも調味料に使えそうな素材の幾つかを挿絵付きでピックアップしてくれたので、今後はそれらを採集すれば結構なお金になりそうだ。
どうやら三階層は資金調達に向いているみたいだ。
さて、その報告の中に一点、気になる代物が存在していた。
赤崎くん達が高熱を出した時に採集した、アルミット草に酷似しているようで僅かに異なる植物だ。
佐野さんが持つツテで調べても正体は不明だったらしい。
この世界の植物は魔力を含むものが多い。加工方法や組み合わせ次第では効果が劇的に良くなるものもある。元々は雑草として認識されていた草が魔法薬の素材になるなんて事は珍しくもないらしい。
そんな背景があるからこそ、佐野さんもアルミット草もどきに関しては色々と調合方法を変えてアプローチしてみたりと、継続して調査を続けてくれるそうだ。
そうなってくると、やはり僕がやるべき事は『魔力計測器』の改良だろう。
迫るコンテンスト期日ももちろんだけれど、僕はこの「魔力を計測する」といった能力を持つ『魔力計測器』には、多くの可能性を感じている。
まず有用性がありそうな魔族への嫌がらせだけれど、これについては方向性が決まっている。
魔力が持つ固有のパターンを割り出し、それを感知したら警報が鳴るように改造したり。あるいは結界系の魔導具と連動させて、結界で町への侵入を防いでしまおうと考えていたりと、用途は多岐に渡る。
次に、「鑑定系のスキルもどき」として使えないかという発想が僕には生まれているのだ。
先述した通り、この世のありとあらゆるモノには魔力が含まれている。
それらを精密に計測して、魔力数値を割り出せるような魔導具を作ろうと考えているんだ。
ゆくゆくは魔力に含まれると言われている属性色を浮かび上がらせる事ができれば、今回のような珍しい草などがどういった方向の薬に向いているかなどを割り出せるようになると思う。
そうなれば、もっと安価で自生している雑草だと思われているような草が、魔法薬の素材として使えるようになるかもしれないしね。
他にも色々作ってみたいものはあるけれど、当面はこれが僕の目標になる。
今度のコンテストでは、『魔力測定器』を提出すれば合格は貰えそうな気がするけど、それだけじゃ物足りない。
一応、今現在テストしてる魔導具もあるし、そっちも確認しておかなくちゃ。
「――ミミル、出ておいで」
ログウィンドウから光と共に飛び出したミミルが、僕の座る机の上へと降り立った。
何やら文字を読んで納得した様子で顎に手を当てながらうんうんと頷いてみせたりとしているけれど、頭上へと移動させたログウィンドウには『現場検証中』と書かれた文字。
あぁ、読めてるわけじゃないんだ……。
殺人事件か何かのドラマの記憶でも覗いてたのかな。
「さて、始めようか」
手を上げて返事をするミミルを他所に、冒険者の腕輪を使って用途不明と判断された数種類の草が入った鞄を召喚する。
アムラさんの魔力を吸い取った、自動吸魔型とも言える魔導具を使って、すでにシアル草やポポリの実、それにアルミット草だったりという用途が判っている素材の魔力は吸魔させ、細かく情報を書いてある。
「今日は魔導具そのものをいじる前に、先に素材の魔力の含有量を調べてみようと思ってるんだ。興味ないならまた後で改めて喚ぶけど、どうする?」
『見たいからいる!』
しゅびっと効果音が鳴りそうな程に片手をあげて強調してみせるミミルに苦笑しつつ、素材と魔導具を並べてみた。
昨日は突然魔力を吸い上げるような形だったけど、普通の素材に関してはそんな誤作動はどうやら起きないみたいだ。
――だとしたら、一体何がきっかけでアムラさんの魔力を吸い取ったんだろう。
そう思いながら首を傾げていると、ミミルが突然僕の前に飛んできて、何やら慌てた様子で一種類の素材と魔導具を指差した。
「ん? ……あれ、魔導具が発動してる?」
昨日に比べればあまりにも弱い光を放っているけれど、それでも確かに、魔導具はほんのりと光を放っている。
白く薄っすらと見える可視化された魔力を辿ってみると、一種類の素材から魔力を吸い上げていた。
それを手に取ってまじまじと眺めてみるけれど、やはり正体は相変わらず不明だ。
「これ、一体どんな効果を持ってるんだろう」
僕が手に取ったのは、アルミット草と酷似していたため一応回収した素材だった。
魔力に対して鋭敏化している僕の目でも注視しなければ分からない程度だけれど、どうにもこの草、他の素材に比べると圧倒的に魔力の含有量が多いみたいだ。
「ミミル、何か分かる?」
『わかんなーい』
「だよねぇ。僕もこの草の正体はさっぱりだ」
同じ知識を共有しているミミルと僕が出した答えは、やっぱり該当情報が皆無だというものだった。
ルファトス様に一度訊ねてみたいけれど、僕に加護を与えてくれた時に凄く疲れきってる感じだったし、しばらく休むって言ってたからなぁ。
図書塔に行ったとしても応じてくれるか怪しいんだよね……。
「こうなってくると、やっぱり特性を判別できるような仕掛けが必要になってくるね」
結局、今はまだ魔導具の改良を優先する必要があるらしい。
そんな結論に至って、僕とミミルはいつも通りの熱論を繰り広げ始めたのであった。
◆ ◆ ◆
迷宮都市アルヴァリッドの大通りにあるザーレ商会の本店では、毎日のように大量の荷が行き来し、一般人なら目眩がするような金額が慌ただしく動く。
下働きの若い丁稚や、独特な魔紋線が描かれた『隷属の首輪』をつけた奴隷達が忙しなく動きまわり、買った荷を運び、売る荷を運び、ただただ機械のように行き来を繰り返す。
そんな奴隷達を見下ろすように、倉庫と事務所を繋ぐ階段の上には若く小奇麗な服に身を包んだ金髪の青年――ロークスが立っていた。
彼の表情は、悠の前で見せたような柔らかな好青年らしさは露と見れず、ただただ無機質な何かをじっと観察しているかのように、感情すら排した無表情を浮かべている。
何を思っているのかを周囲に悟らせない無表情を貫き、ロークスは何も言わずにくるりと踵を返して事務所の中へと足を踏み入れると、自分専用の執務室へと戻って扉を閉めた。
「――何を考えているの?」
誰もいないはずの執務室に響いた、甲高い少女特有の声。
さながら嘲るような物言いにロークスは小さく嘆息しつつも声の方向へと視線を向けた。
「ここには来るなと言っておいたはずですけどね……」
「あら、心配ならいらないわよ。おおかた、あなたが幼女趣味に思われるぐらいじゃないかしら?」
「……それが問題なんですけどね」
咎めつつも事を荒立てるつもりはなく、ロークスは苛立ちを冷たい視線に乗せて声の主が座る椅子と対面に置かれた椅子へと深く腰を下ろした。
「それで、どういうつもりです?」
「どういうつもりも何も、なんの話かしら?」
「とぼけないでください、薬の件です。何故いきなり使用を禁じるような真似をしたんですか?」
「あぁ、その事ね。エキドナ姉様を倒したような連中を相手に、あの薬を調べられるのはマズいのよ。もっとも、薬の効果は順調みたいだし、試験的に使うのはここまで。ちょうどいい頃合いだったのもあるけど」
「それはそうかもしれませんが……だったら尚更、何故あんな真似をしたのですか?」
ロークスはそこで一度言葉を区切り、対面に座る少女を睨めつけるように見つめた。
「わざわざ洗脳してまでこの町に入り込み、家族のフリをするなんていう手の込んだ真似をしているのに、何故あそこで勇者を相手に薬の情報を与えるような真似をしたのですか? ファムさん」
ロークスの指摘に、少女――ファムは笑みを浮かべた。
「あら、見ていたの? 私の迫真の演技はどうだったかしら? あのユウって勇者の方は表情一つ変わらなかったけれど、メイド服を着た侍女の方はすんなり騙されてくれたと思うのだけれど」
「そんな事までは知りません。ただ、現に勇者があなたの入り込んだ先にいる、アムラさんから薬の効果を消してしまったそうではありませんか。表立って動かれてしまっては、そちらの計画が頓挫しますよ」
「それはないわ。だって――あの勇者達は、あなたの開催するコンテストで謂れのない罪をあなたに被せてしまい、信用を失うのだから。表立って動くなんて、できないまま終わるもの」
口元に指を当てて、にこやかに告げてみせるファムの姿は悠達が知るおどおどとした気弱な姿とは似ても似つかない、堂に入ったものであった。
それを見たロークスは、今更ながらに自らの取引相手である
冒険者ギルドでファムが悠らと接触し、その後にどんな話をしていたのかもロークスは理解している。
あの話は有り得そうで、しかし実際ならばまず確実に有り得ない。
滑稽な作り話だ。
何故なら、目の前の少女――ファムはそもそも、エキドナよりも早くこの町にやってきていた魔族の少女なのだから。
ファムの誘導によって、悠らにはファムを陥れているのは自分だと思われているだろう事はロークス自身も理解しているが、それは違う。
自らの利益の為に彼女と取引をしているだけに過ぎず、彼女を陥れようとしているわけではない。
――むしろ他者を陥れる事を愉しむのは、この少女の方だ。
ロークスは向かいに座るファムを見つめた。
エキドナからの手紙をわざわざ大声で、恥をかかせるように手渡したのも。
今回、悠達が義憤に駆られるように仕向けてみせたのも。
全てはファムのタチの悪い趣味によって齎されているものだ。
「あの二人はあなただけが悪だと決めつけて、私を被害者だと思っているわ。コンテストの日にでも、何かしらの手段であなたを糾弾するつもりでしょうね」
――その時になって、悠達が義憤に駆られて暴走した瞬間に裏切り、絶望の淵へと叩き落としてやるつもりなのだろう。
どこか恍惚とした表情で実に愉しげに笑みを浮かべるファムを見て、ロークスはファムの狙いを悟り、深くため息を吐いた。
「その性格の悪さには敬服しますよ」
「ふふふっ。そんな私とこうして取引をしているあなたに言われたくないわね」
「私は商人です。利益になるのなら、当然ながらになんでも売りますよ。例えその商品が「死」という代物であったとしても、です」
お互いの利益が一致してさえいれば、敵に回す必要はない。
あくまでも損得勘定によって構築されているお互いの関係は、ファムのタチの悪い趣味さえ除けばロークスにとっても好ましい商売相手であると言えた。
だが、ファムが魔族である以上、いずれは敵対する可能性もある。
ロークスは今、密かにファムから渡された薬を解析し、解毒薬を作り、対抗策を得ようとしている。
それを知っていて泳がせているのか、それとも興味がないのか、ファムはそれについては一切触れようとはしないが。
――一体、何を狙っているのやら。
ふとそんな事を考えながらファムを見ていると、ぼろぼろの貫頭衣然とした服装にはどうにも似つかわしくない、銀色のチェーンが首元に見えて、ロークスは小首を傾げた。
「ファムさん、そんなペンダントを持っていましたか?」
「あぁ、これ? これはあのユウって勇者がお守りにってくれたのよ。こんなものまで渡してくれた相手に裏切られるなんて……あぁ、いい顔で泣いてくれそうね」
首元から下げられたペンダントは、悠を陥れた際の絶望を更に色鮮やかに染め上げてくれるだろう。
それがいっそ楽しみだと紅潮した頬を緩ませながらペンダントトップにある緑色の宝石を撫ぜて笑う姿は、まるで恋する乙女のようで――明らかな残虐性を露呈させている。
ファムが浮かべている表情は、いくら利益にしか興味がないロークスであっても、思わず悠へと同情を向けてしまいたくなるような気さえした程に残酷な笑みであった。
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