1-3 僕らのリーダー赤崎くん

 安倍くんと小林くんがお城を脱出した、次の日の朝。




 僕らは重い空気が漂う中、朝食を食べ終えた。




「……まさか、あの二人が……」


 食後、現在の進捗やらをお互いに話し合うように、いつも僕らは少しだけお喋りするのだけれど、佐野さんが呟く通りみんなは困惑を隠せずにいる。


 それは僕だってそうだよ。


 いや、確かに城を脱出する可能性については想像していた。


 あの二人は斜に構えて裏を深読みしようとしすぎて墓穴を掘ってしまったタイプだ。

 エルナさんが愚痴るように、あの二人がそういう方向にぶっ飛んでしまった以上、きっと僕らが説得しようとしても聞く耳なんて持たなかっただろうし。




 けれど――――




「……宝物庫に侵入しようとしてあっさり捕まるなんて……!」




 ――――予想してなかったよ、こればっかりは。




 どうやら彼らは、勇者召喚のお約束とでも言うべき宝物庫泥棒をしようと考えたらしく、その挙句にあっさり捕まって地下牢にぶち込まれているらしい。


 おかげで僕ら――残りの九名にまで、実は泥棒の片棒を担いていたのではないかという嫌疑の目が向けられつつあるのだ。


 ねぇ、安倍くん、小林くん。

 宝物庫泥棒は命を奪われそうになった主人公がやる「ざまぁ!」なイベントでしかないんだよ……!

 何を血迷ってやらかしちゃってくれてるのかな……!


「私達は勇者様がたを疑ってはいません! あのお二人があまりにも特殊だったではありませんか!」

「そうは言いましてもな、アメリア殿下。我々は勇者様がたの人となりを見てきておりますが、陛下はともかく、まだ皆様に会っていないその他の者達はそうはまいりませぬ」

「ですが……!」

「私も気持ちは同じです。やれやれ、頭の痛い問題ですな」


 アメリア王女様が悲痛な叫びで訴えるけれども、僕としてはジーク侯爵さんの言葉はもっともだと思ってしまう。


 ちなみに僕らはまだ、アメリア王女様のお父さん――つまりはこの国の国王様に会った事がない。

 忙しいから、ではなく、どうにも病床に伏しているらしい。

 今回の勇者召喚の結果なんかは伝えられているそうだけれど、なかなか部外者を会わせられるような状況ではないみたいだ。

 そんな中での今回の不祥事だ。

 国は人の集合体。

 それぞれに利益を求める節があるのは当然だけれど、ここにきて安倍くんと小林くんがやらかした宝物庫泥棒未遂は、僕ら異界の勇者を保護してくれているアメリア王女様やジーク侯爵さんにつけ入る、格好の餌食となってしまっているのだ。


 アメリア王女様がああも悲痛に訴えているのは、他の貴族から早速とばかりに何かを言われたのだろう。


 ちょうど隣に僕らのリーダーである赤崎くんがいるのだ。

 ここは一つ、勇者のリーダーとしてビシっと決めてもらうしかない。


「さぁ、赤崎くん。リーダーとして何か提案するべきだよ」

「お、俺!?」

「え? 何を言ってるのさ。赤崎くんが僕らのリーダーになったんでしょ?」

「そうなの!? 聞いてないんだけど!?」

「あはは、伝達ミスはしょうがないね。って事で、どうにか打開策を提案するんだよ、赤崎くん」


 ほら、みんなもこっちを見て頼るように……あれ、なんで若干引き気味な視線を送ってるんだろう。

 別に間違った事を言ってるわけじゃないのに。

 あぁ、赤崎くんが早く発言しないからだね。

 分かってるよ、うんうん。僕も同意だよ。


「なんか自分は関係ないみたいな顔してる悠くんはともかく、どうにかした方がいいのは事実だと思う」

「というか、悠くんはいつも通りなんだね、この状況なのに……」

「悠、ブレない」


 佐野さんと西川さん、細野さんにすごく残念な何かを見るような目で見られてる気がする。

 赤崎くんのせいでとばっちりだよ、まったく。


「ユウ殿、何か手があるのですか?」

「え、なんで僕に……。うーんと、あ。とりあえず僕らは城を出た方がいいんじゃないですかね、と赤崎くんが言ってます」

「言ってねぇよ!?」

「恥ずかしがらなくてもいいじゃない、リーダーなんだもの」

「お前はむしろそのなすりつけるやり口を恥じろよな!?」

「あはは、元気だね」


 赤崎くんはいじり甲斐があって嫌いじゃない。

 でも、いつもこのテンションで来られると疲れるし、普段はこうして話したりもしなかった相手だ。

 けどこうして話している内に、平々凡々和やかな空気が戻ってきた。


「それでユウ殿。城を出るとは?」

「今のままでは、僕らを擁護しているジーク侯爵閣下やアメリア王女殿下といった、いわゆる勇者保護派を他の派閥から攻撃させるチャンスを与え続ける形になります。王城は紛れも無く国の中枢であり、そこに汚点を残すのは論外です。連帯責任といった形で僕らを追放すれば、少なくとも攻撃される事も今よりは減るでしょう。――と、赤崎くんが僕に言えって言ってます」

「いやいやいや、もう俺何も関係ねぇじゃん!?」

「照れ屋さんなんだから」

「なんだその「分かってるよ」みたいな顔!?」


 赤崎くんの肩にポンと手を置いたら振り払われた。

 酷いよ、赤崎くん。


「ふむ、確かにシンジ殿の言う通りだ。だがな……」

「宰相様!? どう見ても俺、何も言ってませんけど!?」

「――しかし、勇者を召喚しなければ良かったのではないか、とまで言われてしまってはどうしようもない、ですね。その点については、一応対抗策はありますよ」

「ほう……? 聞かせてもらおうか」

「ねぇ、ちょっと!? 聞いてる!?」

「赤崎、ちょっと黙って。うるさい」

「細野!? え、俺がおかしいの!?」


 細野さんの一言がえげつない。


「僕らは女神様の協力を得てこの世界にやって来たんですよね? つまり、言い換えれば僕らがいるのは女神様の意思でもあります。そしてここには、女神アルツェラ様の言葉を聞き、召喚を実行したアメリア殿下がいます」

「……まさか貴殿は……!」


 目を見開くジーク侯爵さんに、僕はにっこりと笑みを浮かべて頷いた。


「さて、ただ騒ぐだけの貴族と、女神様の意思を実行した巫女とも言えるアメリア王女殿下の対立。このゴシップに、この国のみならず近隣諸国にまで多大な影響力を持つ聖教会は一体どう反応するでしょうね……? あぁ、もしかしたら女神様を愚弄するのかって怒っちゃうかなぁ」


 聖教会は実際、貴族に並ぶかそれ以上の発言力を持っている世界最大の宗教であり、僕らに関係している女神アルツェラ様を信奉しているが、本来、聖教会は絶対にまつりごとには口を挟まない。

 宗教は神に奉仕すべき存在であり、国は民に奉仕すべき存在であるというお互いのルールがある為だそうで、その徹底ぶりは凄まじいのだが、それでも民から見れば宗教は心の拠り所でありその信頼は篤い。

 政に口を挟まないとは言え、影響力は無視できない、とエルナさんには教わっている。


 僕ら――女神の意思によってこの世界へとやってきた勇者を攻撃の的にする貴族がいるとなれば、それは遠回しに聖教会が信奉する女神アルツェラ様の判断を否定する事になり、聖教会はそれを見過ごしたりはしないだろう。


「……確かに聖教会を敵に回すようなバカな真似をする者はいないだろう。聖教会に敢えてこの情報を流し、聖教会を間接的な味方に引き入れれば……。恐ろしい手を考えるものだな、シンジ殿。さすがは勇者様がたのリーダーというわけか」

「失礼ってのは重々承知で言わせてもらいますけど、あんたバカなんですか!? どう見たって俺じゃないでしょ、さっきから!」

「さすがだね、赤崎くん!」

「諸悪の根源がにこやかに言ってんじゃねぇぇ!」


 頭を抱えながら叫ぶ赤崎くんをニヤニヤしながら見つめていたら、クラスのみんなはともかく、それぞれの部屋付きになって同席している侍女さん達からも何か怖いものを見ているかのような視線を受けている事に気付いた。

 アメリア王女様に至っては、なんだか恐怖に肩が震えているようにも見える。


「出たね、悠くんの……」

「ああいう事を平気で言ったりするから、悠くんなのよね……」

「……悠だけは敵に回しちゃいけない」

「あ、ああ、あの、悠くんってあんなに怖い事を考える人なんですか……? 見た目はちょっと可愛いぐらいなのに……」

「あ、そっか。小島さんと佐々木さん、去年クラス違ったもんね」

「悠は去年、一人の教師をあので社会的に抹殺してる」

「ま、抹殺……!?」


 なんかボソボソと佐野さん達が喋ってるけど、席が離れてていまいち聞こえない。

 あれ、エルナさんがその後ろですごくドヤ顔してるんだけど。


「……我々としては不本意なのだがな。我々が貴殿らに助力を願っているというのに、謂れもない罪の片棒で追い出すなど」

「それで周りの貴族とぶつかり続けるのは得策ではないでしょう」

「くくくっ、まったく……底の見えない男だよ」

「だってさ、赤崎くん」

「いや、もう、俺じゃねぇっての……」


 なんだか赤崎くんが凄く疲れた顔をしていた。

 大変だよね、とばっちりだもん、あの二人のせいで。


 ついでにそんな二人と仲の良かったその隣の加藤くんは……なんかすっごく目を輝かせて僕を見ていて、ちょっと引いた。




 早速とばかりにジーク侯爵とアメリア王女殿下は動き出し、僕らはしばらく待機する事になった。

 なのでついでに、僕が考えたオリジナルスキルの推察についても皆に教えておく事にした。


「……ログなんてあったのね。それに、私もツリーがしっかり表示されたわ」


 樹形図を思わせるスキルの絵については、僕らは素直にスキルツリーと呼ぶ事にした。それぞれにオリジナルスキルに関するツリーの開拓と、ステータスやレベルの上昇が今後の課題だ。


 そうそう、ようやく細野さんと佐々木さん、それに小島さんのオリジナルスキルも教えてもらった。


 細野さんは【不意打ち】。

 確かに不意打ちでくる細野さんの一言はかなりえげつない。

 スキルツリーはまだ全部未開放みたいだけど、ゲームで言うところの暗殺者クラスあたりになるんじゃないかと僕は踏んでいる。


 小島さんは【庇護欲増加】。

 これは小島さんを見る限り、小島さん自身が庇護対象に当たると思う。

 という事は、きっと周りからの好感度なんかが上がり易いのかもしれない。

 もしかしたらテイマー系の素質があるのではと密かに期待してる。


 佐々木さんは【亡者の声】。

 なんか一人だけカッコイイ名前なんだけど、どうやら彼女は見えちゃいけないアレが視えちゃうタイプだったらしい。僕らの中で一番主人公らしい特殊な人なんだけど、なんでもお寺さんのご出身だそうで、色々と気苦労しかなかったそうだ。

 まさかの死霊術系スキル使いになりそうだと、思わず戦慄した。


「今後は赤崎くんが僕らの指揮を執る形になるとして」

「だからなんで俺なんだよ!? 悠の方がよっぽど向いてるじゃん!」

「あはは、謙遜は過ぎれば嫌味だよ? それで、もう一人ぐらい代表になれる人が必要だと思うんだよね」

「それこそ、悠くんでいいんじゃない?」

「ううん、それはダメだよ。どうしてもダメな理由が二つある」


 佐野さんに言われて、僕は指を立てながら説明していく。


「まず一つは、女子が六人で男子が三人っていう今、統率するべき立場を確立した女子がいないといずれ波が立つと思うんだ。男子三人の内、二人が代表に収まってしまうとグループ化して派閥が生まれかねないからね。それがきっかけでもめるのは面倒だし」

「それは……ないとは言い切れないかも。でも、必然的に男女のグループで分かれちゃうと思うし、そういう意味じゃ派閥はどうしてもできちゃうんじゃない?」

「それは否定しないよ。でも、代表者がいればしっかりと意見の交換がしやすくなるからね。それに、もし赤崎くんがワンマン体制を作ろうとした時の抑止力にもなる」

「お前がいる時点で俺のワンマン体制とかまず有り得ないだろ……」

「今はそう言えるかもしれないけれど、今後どこかで政治に巻き込まれたらそうは言い切れない可能性だってある。例えば色仕掛けで籠絡させようとしてきた時、女性の目線っていうのは経験の浅い僕らにとっては大きな力になると思うし」

「俺はそんなのに惑わされたりしないぞ!?」

「僕には言い切るだけの下地がないからね。どっちにしてもいてくれる方が有り難いでしょ?」

「まぁ、そりゃそうだけどな……。俺だって女子に色々指示するなんて苦手だし……」


 手練手管を知り尽くす女性が相手になった場合、男性だけが代表ではどうなってしまうか分からない。酒と女とギャンブルは、例え異世界であっても身持ちを崩す理由になる。

 そういう意味でも、女性側に権力を分散させておかないと、いざという時に取り返しがつかない可能性だってある。


 まぁ、あとは赤崎くんも男の子だから、本人が言う通り、女子に指示するのは難しいだろうというのもまた事実だね。


「それで、もう一つは? まぁ大体想像がつくけど」

「もちろん、僕がそういう役割をするのなんて絶対に嫌だからだよっ!」

「……なんでそんなに嫌がるのよ……」


 自分がリーダーなんて柄じゃない事は、誰よりも僕自身が知ってる。

 だから僕がリーダーなんて有り得ない。総合的に見ても、赤崎くんが一番この中では


「女子陣を纏めるのは佐野さんが一番だね」

「……言うと思った」

「もしくは西川さんでもいいよ?」

「私はパス。祐奈みたいに質問突っ込んだりできないもん、発言勇者じゃないし」

「あの称号、なんかすっごく理不尽な気がする……」


 うん、僕も称号については色々物申してやりたいのは同意だよ。


「じゃあ赤崎くん、リーダーとしての抱負をどうぞ」

「なんかすっごく腑に落ちないけど、わかった、やるよ。みんな、よろしくな」

「えー、なにそれふつう」

「お前が諸悪の根源なんだからな!?」


 ともあれ、僕らはこうして一先ず体制作りを終えた。

 今後、王城を出てどう動くのかは分からないけれど、この二日間頭を使いすぎてもう面倒臭くなってきたよ。


 だらーんと机に身体を預けて、僕はまたしばらく微睡む事にした。

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