1-4 迷宮都市とエルナさんのお兄さん

 安倍くんと小林くんが捕まってから、三日。

 僕らはその三日の間にそれぞれの授業の続きと、スキルツリーの開拓に当てる形で時間を過ごしていたけれど、ジーク侯爵さんはなかなかに忙しい日々を送っていたそうだ。


 僕らと安倍くんと小林くんの間にあった蟠りは部屋付きの侍女さん達を通して証明され、まず僕らが共謀したという疑いを晴らしてくれた。

 どうやらジーク侯爵さんやアメリア王女様に向いていた口撃は鳴りを潜めたそうだけども、この機会をジーク侯爵さんは逃すつもりはなかったらしく、ここぞとばかりに聖教会を巻き込み、敵を潰す方向にシフトしたみたいで、そこからは形勢逆転。


 聖教会は案の定、最初は動くつもりはなかったらしいのだけれど、「僕らが謂れ無き罪と誹謗中傷を受け、責任を感じて城を出る事になった」と台本を書き換えて齎された情報に激怒し、重い腰をあげた。

 どうやら市井の民が勇者の一人と懇意にしていたらしく、悲しげに呟いていた姿を見ていたようで、いざ勇者である僕らが王都を出るという噂が大きくなり、王都の教会にその情報が持ち込まれたらしい。

 その際、たまたま・・・・礼拝に訪れていた貴族令嬢が、悲痛な面持ちで「ここだけの話ですが」と肯定したため、聖教会は情報が本物だったと確信したそうだよ。


 民に知れ渡った、数名の貴族による神への冒涜。

 その怒りは、該当貴族領地からの教会の撤退を示唆する手紙となって襲いかかったようだ。


「うまくいきましたね、ユウ様」

「んー、なんのことかなー」


 草原を貫く街道を走る、魔導車の車内。

 いい加減見飽きてきた何もない景色ばかりが続く外の光景を見つめてぼけーっと過ごしていると、同じく車内にいたエルナさんがそんな言葉をかけてきた。


 とぼけてみせる僕に調子を合わせるように、エルナさんは僕の隣に座ったまま「これは独り言ですが」と続けた。


「今回の件で、お父様はアメリア王女殿下の政敵を一斉に排除する事に成功しました。国王陛下が病床に伏した今、アメリア王女殿下は唯一直系の子です。あの御方を傀儡とするか、それとも毒を盛って害し、国を乗っ取ろうとする者は多かったのです。陛下が身罷る前に政敵を排除できたのは僥倖でした」

「独り言にしては、ずいぶんと大事な秘密ですね。まぁ僕もこれは独り言だけど」

「一人で胸の内に秘めておけるような内容ではないので、つい口を突いて出てしまいましたね。同じく独り言ですが」


 白々しく笑うエルナさんと調子を崩さず喋る僕。

 同乗している加藤くんと赤崎くんが顔を蒼くしてこちらを見ている気がするけれど、ここは一つ、スルーしようじゃないか。




 ――――僕らが今向かっているのは、オルム侯爵領だ。



 ジーク侯爵さんが治める地であり、魔王や魔族との戦いが行われている前線からは東に逸れている、肥沃な地が広がる豊かな場所である。


 この地を拠点に僕らが活動する事が決まったのは、今回の騒動がきっかけだ。

 本来なら、僕らは王都に居を構え、それぞれの【固有術技オリジナルスキル】を有効活用するという予定だったのだけれど、今の王都は今回の騒動で危険がいっぱいだからね。

 どうしても王都からは距離を置く必要ができた、というわけだけれど、ともあれ僕は個人的にオルム侯爵領に移動できる事を誰よりも喜んでいたりする。


 その理由となるのが――迷宮都市アルヴァリッド。

 ダンジョンが生み出す資源によって栄える、冒険者の町だ。


 迷宮都市アルヴァリッドは、迷宮に挑む冒険者達を相手に商売をし始めようと、多くの商人達が率先して店を出し、ついにはオルム侯爵家が許可を出して開発が完成したという、一般的な都市とは異なる背景を持つ町だ。


 本来ならば交易箇所であったり開拓であったりといった背景があって村が興り、町が形成されるのだが、この町の場合はその順序も異なっているため、少々交易路からは外れた位置にある。

 しかし迷宮の特産品の最たる魔石や、時折見つかる金銀財宝に旧文明の魔導具――いわゆるアーティファクトなどが出土するため、この町を放っておくわけにはいかず、ついには交易路として組み込まれるようになったという背景がある。


 迷宮都市の造りは特殊だ。

 ダンジョンの入り口である地下へと続く洞窟を囲うように城壁があり、ダンジョンから魔物が溢れ出す可能性もあるため、ダンジョンの入り口周辺を城壁でぐるりと囲み、その外側に町を作るという形になっている――所謂ドーナツ型なのだ。


 僕はこの世界にきて、ようやく、やっとそういう世界に足を踏み入れられる。

 騎士団を使った「寄生プレイ」紛いのレベル上げはできなくなってしまったけれど、ジーク侯爵さんのお抱え冒険者さん達を使って、僕らをダンジョンで育成する方向で決定したのだ。


「――どうやら見えてきたようですね」


 魔導車に乗って揺られること、四日。

 僕らは巨大な城壁に覆われた迷宮都市へと、ついに到着した。









 オルム侯爵家で僕らを迎えてくれたのは、エルナさんのお兄さん、シュットさんだった。

 領都はここではないのだけど、やはりこの町も侯爵領の中では主要都市となるようで、次代のオルム侯爵であるシュットさんは勉強がてらに、この迷宮都市を治めているそうだ。


「やあ、エルナ。それに勇者様がた、ようこそ迷宮都市へ」


 朗らかな顔をした貴族が多いとは思っていたけれど、この糸目とでも言うべき目で笑みを浮かべているシュットさんは、このファルム王国貴族の中でも群を抜いて人が好さそうな顔をしている。

 ぞろぞろと魔導車から降りていく僕ら一人ひとりに「ようこそ」と丁寧に声をかけている辺り、見た目通りの性格をしているらしい。


 そういう姿を傍観しつつ、最後に僕が魔導車から降りたその時、シュットさんは突然――先程までの好青年といった様子を一変させ、冷たい殺気を纏って僕の肩に手を置いた。


「――可愛い妹の事で少し話がある」

「僕には話す事も特にないのでお断りしますね」


 とりあえず腕を払って、ポカンと口を開けたシュットさんを無視して僕は歩いて行った。


 シュットさんが、エルナさんのお義姉さんであるアシュリーさんと共にエルナさんを溺愛しているという話は、僕もジーク侯爵さんから聞いていたのだ。

 どうやらエルナさんにはこの前僕に言おうとしていたような、男性に対する何か嫌な思い出があるらしく、それ以来、二人はエルナさんに対してかなりの過保護気味なのだという事も。


 ――「何故僕にそんな話を?」。


 そう訊ねる僕に、ジーク侯爵さんは笑顔で告げた。


 ――「エルナが王宮侍女長を辞して貴殿についていく、と二人に言ったからだ」。


 何を言っちゃってくれてるのかとエルナさんに問い質してみたけれど、どうやらエルナさんは大した問題だとは考えていなかったようだ。


 僕にとってみれば凄く面倒事の匂いがプンプンするんですけどね。


 まぁともかく、そうまで言われたら僕だって何かと絡まれる可能性は考えていた。

 けれど、残念ながら僕は特に何もしていないし、話があるならエルナさんに直接訊いてもらうしかないしね。

 僕は基本的には当たり障りなくスルーする方向で方針を定めているのである。


 とは言え、さすがにこれぐらいでへこたれる訳ではないらしく、シュットさんが回り込んできて、手に握っていた白い手袋を投げてきた。

 刹那、突然吹いてきた突風によって白い手袋はあらぬ方向へと飛び去り、僕の視界にはログが表示された。


 ――『決闘の申し出をスルーしました』。


 いや、スルーの定義ってどうなってるのさ……。


 そもそもその白い手袋を投げるのは決闘を申し込む合図だけれど、相手に当たらないと決闘の申し出にならないって教わったなぁとか、色々と言いたい事はあるのだけども。


「………………」

「……えっと、手袋落としましたよ?」


 白い手袋を投げて避けられるというのは、貴族にとっては凄く恥ずかしい事らしい。

 なのでフォローのつもりで口にした僕の言葉だったのだけれど、シュットさんは顔を真っ赤にしながらプルプルと震えているだけで、何も反応してくれなかった。


「お兄様……ッ! 何を考えているのですかッ! ……ユウ様、どうぞ中へ」

「あ、うん」


 激昂するエルナさんは怒りを隠そうともせずにシュットさんを一瞥し、前を歩いて行く。なんだか凄く気まずい空気が流れる中、僕はエルナさんに連れられて屋敷の中へと足を踏み入れた。


「エルナ!」


 ふわり、と僕の視界を横切って突然現れた、桃色がかった長い髪を揺らしたドレス姿の女性が、僕の横にいたエルナさんへと抱きついた。


 いや、ふわり、じゃない。

 シュン、だ。

 結構な速さだったので、あれでもし僕に当たってたら僕は軽く吹っ飛んでいた気がする……!


 エルナさんはそれを、上半身すら微動だにせずに受け止めている。

 こ、これがステータスの差……。


「お久しぶりです、アシュリーお義姉さま」

「あぁ、エルナ。急に王宮侍女の職を辞めてしまうなんて言うから、とても心配していたのですよ? シュットなんてもう気が気じゃないみたいで……」

「お兄様はどうでもいいですが、ご心配いただいて有難う存じます。ですが、自分で決めた事ですので」

「……そうね。あなたはいつだって自分で物事を決めて、自分の目で見て判断するもの。だから私達の励ましも届かなかった」

「……そんな事は、ありません」

「エルナ……」


 なんだか感動的な話題を前にしているところ悪いんだけども、僕は後ろから冷気を纏って近づいてくるシュットさんの気配に気が気じゃないんですけど……!


「あぁ、可愛い僕のエルナ。僕にも顔をしっかりと見せて――」

「アシュリーお義姉さま。すみませんが、ユウ様を案内しますので」

「えぇ、引き留めてごめんなさい。ユウ様、申し訳ありませんわ」

「いえいえ、とんでもないです。せっかくの再会ですし、僕の事などお構いなく」

「ふふふっ、お気遣いして下さるなんてお優しい方ですのね。エルナ、また後でね」

「はい。ではユウ様、まいりましょう」


 僕も気付いてはいるんだけどね、シュットさんの扱いの雑さには。

 もしかしなくても、エルナさんの男嫌いってシュットさんのあの過保護のせいなんじゃないかな……。

 もう一つの下半身直結がどうのっていうのは違うみたいだけども。


「ねぇ、エルナさん。エルナさんって、お兄さんと仲悪いんですか?」

「いえ、そうではありませんよ。同じ屋敷の中で生活を我慢できる程度には親しいです。ですが、さっきの行いには正直失望しました。もはや兄とは思いません」


 いや、それ、そもそも親しいって言わないと思うけどね……。


 オルム侯爵家のお屋敷は、地球でも十六世紀から十七世紀あたりにイタリアで広まった、バロック建築――総合芸術を思わせるような、造りの凝った建物だった。等間隔に配置された窓と白一色の外壁が、正面から見れば「凸」の字体を思わせるように広がっている。

 敷地内には本館と使用人用の館、それに客人を泊まらせる別邸があり、僕ら九人は今後しばらくは別邸でお世話になる事になっている。


 今日は本館でシュットさんとアシュリーさんとの顔合わせや親睦を深める夕食会があるため、本館の客室を借りる事になっている。今頃、僕らの荷物はこの館に務める執事さんと侍女さんによって運ばれている頃だろう。


 みんなはそれぞれの充てがわれている客室へと進んだのだけれど、そんな中、僕は何故かシュットさんとアシュリーさん、そしてエルナさんと赤崎くん、佐野さんというメンバーに囲まれて、サロンへとやって来て、お茶を一緒に飲んでいた。


 今後の話をするそうなのだけれど、どうして僕がここにいるのか。

 甚だ理解に苦しむね。


「ねぇ、赤崎くん。どうして僕までこの席に同席しているのかな? 僕もそろそろ客室に行ってゆっくりしたいんだけれど」

「お前は俺達の参謀だからだ」

「……えっと。参謀って……赤崎くん、ちょっと中二病でも患わせてるの?」

「ちげぇよ! つーか、お前の方が悪知恵とか回るんだし、もう今更お前を無関係にできるわけねぇだろ? ホントならお前がいりゃ俺達の方がここにいるべきじゃねぇぐらいだ」

「何言ってるのさ。僕らのリーダーは赤崎くんと佐野さんで決定したじゃないか」

「悠くん、面倒だからって丸投げしようとしてもダメだからね。まぁ今後は私達もなるべく受け持てるようにはするけど、私だって正直悠くんみたいに堂々となんてしてられないんだから……」

「あはは、発言勇者なのに?」

「……次それ言ったら本気で殴るから」

「ゴメンナサイ」


 佐野さんはどうやら発言勇者という称号が未だにお気に召さないらしい。

 僕にとってはピッタリだと思うんだけども。


「さて、改めて挨拶といきましょう。シンジ殿、ユーナ殿。私がオルム侯爵家の嫡男であり、今は父の手伝いという形でこの町を治めている、シュット・オルム。ご存知の通り、そちらのエルナの兄です」

「その妻、アシュリー・オルムですわ。以後お見知り置きくださいませ」


 人の好さそうな笑みを浮かべてる割に僕の名前は出さなかったシュットさんとは対照的に、アシュリーさんはにこやかに挨拶して、僕にウインクをしてみせた。

 アシュリーさんはシュットさんとは小さい頃から婚約者として仲が良かったそうで、年齢は共に二十三。エルナさんの四つ上になるそうだ。


 ちなみに赤崎くんと佐野さんは、エルナさんが侯爵令嬢だと知ったのは王城を出るほんの少し前で、まさか侯爵家のご令嬢が侍女をやっているなどとは思いもしなかったらしく、緊張のあまりに言葉を失っていた。

 王宮の侍女ともなれば、貴族の家から働きに出るなんて珍しくはないのだけど、二人はそういった情報がよく描かれるサブカルチャーには精通していなかったタイプのようだ。


「は、初めまして。えっと、今日からお世話になります。俺――あ、いえ、自分は異世界からやってきた勇者の代表になりました、赤崎ッス。あ、いや、シンジです」

「お、同じく、ユウナです」


 貴族でもなければ家名を名乗らないこの世界では、むしろ家名を名乗るという行為自体が「あなたと同格ですよ」とでも言うような増長して見える行為に取られる可能性もあるとの事なので、僕らは苗字を名乗るべきではない。

 そういう意味で、僕らは公式には苗字を名乗らない事になっている。


 辿々しく挨拶する赤崎くんと、同じく名前だけを名乗るという挨拶になんとなく少し恥ずかしそうな佐野さんを、シュットさんは笑みを浮かべて頷き、答えてみせた。


 そして、僕には冷たい視線を向けてきた。


「……名乗らないのか?」

「いえ、僕の名前呼んでませんでしたし」

「ぐ……っ、なかなか良い性格をしてるじゃないか……ッ!」

「そう褒められましても」

「褒めてないッ!」

「知ってますよ?」

「…………お、のれ……ッ!」


 シュットさんはどうにも僕を目の敵にしたいらしい。

 正直、こういうのは相手にしないのが一番なんだけども、さすがに無視だけしておくわけにもいかないし。かと言って僕が何を言っても藪蛇になりそうなので、あまり顔を合わせるべきじゃないと思うんだけどなぁ。

 なんで僕を同席させたんだか……。


「ユウです。こちらのシンジとユウナが僕らの代表となりますので、僕の事はお気になさらず」

「……フン、挨拶も碌にできないとはな。そちらのお二人とは雲泥の差ではないか」


 どうせ完璧じゃない挨拶をすれば見下されるのは目に見えていたので、僕はその評価を甘んじて受け入れる事にした。


 けれど、僕の予期せぬ方向から援護射撃が飛んでいった。


 具体的には、アシュリーさんの肘が鈍い音を立ててシュットさんの横腹にめり込むという形で。


「ぐほぉ……っ」

「旦那様、いい加減になさってくださいね? そのような態度を取るのが分かっているからこそ、ユウ様はシンジ様とユウナ様の評価を自分と比較させるよう、敢えてぞんざいな挨拶をしたのだと、本当に気付いていないのですか?」

「……うぐ、あ、アシュリー、いや、しかしだな……」

「まあっ、お義父様が可愛いエルナの同行を認めるという意味を、旦那様ってば本当に分かっていらっしゃらないのですか?」


 ニコニコとしながらもめり込ませた肘をぐりぐりと抉り込むようにしながら語るアシュリーさんが怖い。

 というか、見ているだけでも痛い。


「アシュリー様、どうかその辺で」

「まあまあ、許してくださいますの?」

「あはは、許すなんてそんな。僕は気にしてませんし、シュットさんは面白い方だと思っているだけですから」

「あら、面白い、ですか?」


 きょとんとするアシュリー様に、僕はにっこりと笑いかけた。


「えぇ。童心をお忘れではないようで、白い手袋を投げて遊んでいましたしね。こっちに飛んできそうだったのですけど、急な風に煽られて残念ながらキャッチし損ねましたけど」

「……白い手袋を、投げた?」

「おっと、間違えました。シュットさんは白い手袋を落としただけ、という事にしたんでしたっけ」


 ピタリ、と空気が止まった。

 シュットさんが口をパクパクしながら僕を指差して何かを言おうとしているけれど、その隣にいるアシュリーさんから漂う異様な気配に声が出ないみたいだ。


「……旦那様。すこーし、お話しましょ?」

「貴様……!? ま、待て、アシュリー、誤解、誤解だ!」


 微笑みを湛えたまま青筋を立てたアシュリーさんに首根っこを掴まれて、シュットさんは青い顔をしながら退場していった。


 その姿を呆然と見つめていた赤崎くんと佐野さんが、どうしてアシュリーさんがあんなに怒ったのかと首を傾げながら、僕にその理由を訊いてきた。


「なぁ、悠。なんでアシュリーさん、急にあんなに怒ったんだ?」

「シンジ様、決闘というものについては習いましたか?」

「あ、はい。少しだけなら」

「決闘は本来、両者合意の上で成立し、互いの生死すら不問にするものです。ですので、貴族に連なる者が貴族ではない者へと決闘を申し出る場合、貴族側はその代償に資産の半分を勝敗とは関係なく、相手側へと譲渡しなくてはならなくなるのです」

「なんでそんな……?」

「かつてその法令がなかった頃、決闘などという一方的な決め付けを平民相手に利用し、言う事を強制するという事件が起こってしまったのです。それ以来、王国法によってそれが定められたという訳です」


 エルナさんが言う通り、ファルム王国には決闘についての法律が定められており、そうする事で貴族の勝手な平民への暴力の抑止力として働いている。

 付け加えるなら、決闘を平民相手に仕掛けるなんて貴族としてはかなりの醜聞となり、家の信頼を貶める愚行にすらなり得るのだ。ジーク侯爵さんがシュットさんの行動を知ったら、大変な事になりそうだ。


 今回は僕の【固有術技オリジナルスキル】のおかげか、それとも偶然なのかはともかく、シュットさんの決闘申請は失敗に終わり、事なきを得ていたのだけれど、ちょっとした意趣返しにその事実をアシュリーさんにバラしてみた、というわけだ。


「いやあ、知らなかったなー」

「……お前、知ってただろ」

「ん? なんのことかな?」

「お前が爽やかな笑みを浮かべるのは大抵他人を陥れた後だって分かってきたからな」

「やだなぁ、人聞きが悪いよ。僕は何も知らなかった、そういうことだよ?」


 なんで赤崎くんと佐野さんも、ジト目でこっち見るんですかね。

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