0-2 【固有術技】――《オリジナルスキル》
僕らが与えられた【
さらに、ステータスに書かれた称号には、誰一人として勇者なんていう仰々しいものがついている人がいなかった。
僕らだって人間だ。
まさか『異界の勇者様』なんて言われているというのにこうなってくると、ついついジト目になったりもする。
僕らと王女様達の間に流れた、どう見ても気まずい空気。
この状況を払拭するべく、兵士に守られた朗らかな人達――どうやら宰相さんとからしい――に言われ、ともあれ僕らは『召喚の間』と呼ばれたその部屋から移動し、広い円卓のある部屋へと案内された。
王女様はなんだか泣きそうな顔をしたままぎゅっと口を結んでいて、何かを話せるような状態じゃないみたいだ。
そう判断したのは僕だけじゃなかったらしく、王女様の隣に腰を落ち着けた宰相さんこと、ジーク・エル・オルム侯爵さんが口を開いた。
「我々は今、魔族を率いる魔王との戦いに苦戦を強いられている」
そこでようやく、僕らが召喚された理由についてあらましを語られる。
「『異界の勇者』を召喚するというのは、女神アルツェラ様からの神託に従ったものであった。曰く、異界からやって来る者は多彩なオリジナルスキルを持ち、きっと魔王討伐に役立ってくれるであろう、と」
「ちょ、ちょっと待ってください! 急にこんな所に呼び出されて魔王討伐に役立てなんて言われても……!」
「いや、落ち着いてほしい。そもそも我らとて、そんな身勝手な願いが聞き入れてもらえるなどとは思ってはおらぬ。このような拉致紛いの行いをしてまで戦いに身を投じさせるなどという非道な真似をするつもりもない」
橘さんの悲痛な訴えは、あっさりと勘違いだと告げられた。
おかしい、テンプレだとそれでも戦ってほしいとか、そういう懇願が入ると思ってたのに。
どうにもジークさん達は、僕らを戦わせるつもりはあまりないみたいだ。
「なら、どうして私達を召喚したんですか?」
今度は西川さん。
さっきから質問するのは女子ばっかりだ。
男子の僕らよりよっぽどしっかりしてるなぁ……。
「アルツェラ様が仰るには、どうやら勇者召喚によって喚び出される者達は”異界で命を落とす瞬間にいる者達”に絞られるというのでな」
「お、俺達が、命を落とす瞬間にいた……?」
「そういえば……、あの時凄い音がして、それで……」
動揺するだけの男子勢。ガンバレ男子。
いや、さすがに女子勢の中にも唖然としてる子もいるみたいだけど。
口々に疑問の声があがるけれど、一体何が原因だったのかは皆も判然としないみたいで、曖昧な言葉しか出ていない。
僕も半分寝てたから、当然その原因なんて思い当たる節もないけど。
でも、アルツェラ様っていう女神様が言うには、僕らは日本であの瞬間、死ぬ運命だったって事なのかな。
この召喚は感謝するべき内容だったのか。
良かった、あの涙目の王女様とか嫌いになれそうになかったし。
僕――を含めないみんなの動揺は予想されていたものだったらしく、しばらくジークさんは続きを口にはせず、落ち着くのを待ってくれた。
「私達を、助けてくれたんですか……?」
「結果はどうであれ、我々にとって益のある行いであるというのが前提だとも。拉致紛いの真似をしたのは事実だ」
「でも、戦えっていう訳じゃないんですよね?」
「それはもちろん。貴殿らが戦に身を置いているような者には見えぬ上に、アルツェラ様からもそう聞かされておったのでな」
「じゃあ、どうして私達を召喚なんてしたんですか? 戦えない私達じゃどうにも力になれそうにないですし」
「――しかし、貴殿らには【
それが本題だったみたいだ。
「そ、そうなんです! それに、異界の勇者しゃま方は…………あうぅ……」
が、ガンバレ王女様!
心配ないよ! もう噛む事について、僕らは萌えを感じている!
思わず熱い声援を送りたくなる僕らを他所に、細野さんがぐっと親指を突き立てた。
「萌え王女、グッジョブと言わざるを得ない」
「っ!?」
ぼそっとした一言で他人の心を抉った。
相変わらず容赦ないね。
王女様もすごく恥ずかしそうだよ。
アメリア王女様が黙りこんでしまって、また微妙な空気が流れた。
――――さて、今のうちに改めて僕らの状況を纏めておこうかな。
僕らの内訳は、女子が六名、男子が僕含めて五名。
こうして見ると、女子が全員勇者だったら辻褄が合ったんじゃないかな。
それにしたって、平和なクラスの中でも一際平和なグループが召喚されたらしい。
発言勇者こと【調味料配合】を持つらしい佐野さんのグループ。
橘さんがムードメーカーで明るい背の低い子で【天使の歌声】を持ち、ちょっと大人びた雰囲気の西川さんは【人間ミシン】。
細野さんと、さっきからプルプル震えて泣きそうな小島さんに、そんな小島さんを励ましてる佐々木さんはスキル不明。
あのグループの子達は、たまに少しだけ話す。
主に用事があると声をかけられる程度には。
続いて男子は、ゲーマーグループこと【嘘付き】というオリジナルスキルに絶望している加藤くんグループ。
その愉快な仲間たちの安倍くんに小林くんは加藤くんとよく一緒に話し込んでいるのを見かけるし、サッカー部の【センタリング】持ちの赤崎くんはたまにゲームの話題で参加するぐらいで、いつもは他のサッカー部仲間と話し込んでたような気がする。
赤崎くん、それなりには加藤くん達とは話すけど、親友らしい親友達とは一緒じゃなかったんだね。なんとなくだけど、ちょっと居心地が悪いというか、不安げな感じだ。
彼ら以外となると、ぼっちを歓迎する傍観者たる僕。
赤崎くん、がんばれ。
それにしても、安倍くんと小林くんはなんかニヤニヤしてる。
なんかちょっと変わったスキルでも手に入れたのかな。
あの二人はさっきからヒソヒソと二人で話し込んでいて、【
それと、小島さんと佐々木さん、
細野さんに関してもスキルについてもまだ一切不明だ。
まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいと思うけど。
ともあれ、僕らのメンツにやっぱり勇者らしい人なんていない。
「ところで、戦えないのに勇者様ってどういう事なんです?」
「『異界の勇者』、というのはかつてより我がファルム王国に伝わっている存在なのです。異界から突然現れた勇者様が、何百年も前にこのファルム王国を救ってくださりました。当時の書物によれば、異界から来た皆様は勇者様と同様に黒目黒髪であったとされているため、皆様もまた勇者様であると確信した次第です」
「……なんか私が知ってる勇者像とはずいぶん異なってるわね……」
ようやく会話が再開されて、問いかけた西川さんの疑問。
返ってきた答えに思わず呟く佐野さんの意見には僕も同意する。
勇者がイコールして”魔王を倒す存在”ではなくて、勇者はイコール”異界から来た人”という認識になってるみたいだ。
確かに僕も思い描いていた勇者像とは少し違うなぁ。
「あの。それで、アメリア王女様。さっき何を言いかけていたんですか?」
「あ、えっと……。どうやら異界の勇者様は私達に比べるとレベルが上がりやすく、すぐにでも強くなれるとかで……。スキルももちろん大事ですが、魔法や体術なんかも私達よりも早く上達するらしく……」
「そこんとこ詳しく」
「ひっ!?」
もはや王女様は細野さんに恐怖すら覚えているようだ。
ずいっと食いついた細野さんのちんまりとした見た目を相手に怯えて肩を震わせた。
それにしても、魔法……魔法ねぇ。
そういえばステータスにMPとかHPとか、王道的なステータスが載ってなかった気がするけど。
どうやら僕だけじゃなく、みんなも魔法と聞いて疑問を持ったらしく、口々にステータスを呼び出している。
「ステータス、っと」
――――――――――
《高槻 悠 Lv1 職業:〈傍観者〉 状態:良好》
攻撃能力:7 防御能力:4
最大敏捷:12 最大体力:9
魔力操作能力:32 魔力放出能力:0
【固有術技】:【スルー】
〈称号一覧〉
・〈徹底的な第三者〉・〈女神の抱腹対象〉【NEW】
―――――――――――
やっぱり魔力もMPもないんだけど……うん?
何この〈女神の抱腹対象〉って。
抱腹対象って、お腹抱えて笑ってるの?
報復だったら確実に女神様に敵対されてるし、抱腹で良かったけども。
「何この称号……発言勇者って……」
「ぶふっ」
い、いけない。
さ、佐野さんの呟きに噴き出してしまった。
そのせいで皆からいきなり注目されてしまった。
「そういえば悠くん。悠くんのスキルって何?」
「うん? 僕は【スルー】だって」
「「「あぁ、悠くんだもんね……」」」
佐野さんグループになんだか凄く納得された。
ちなみに僕が名前で呼ばれてるのは、同じ学年に高槻って苗字の人がいて、僕とは正反対のタイプだからだ。
背も高くて、男らしくて、交友関係も非常に広いらしい。
必然的に僕の高槻の苗字は彼に奪われているようなものだ。
名前で呼ばれてるからって人気があるわけじゃ、断じてない。
「【
ジーク侯爵さんとアメリア王女様の言う通りなら、そうなのかな。
異界――つまりは異世界からやって来た僕らは比較的にスキルが取りやすく、【
そう考えると、サッカー部で【センタリング】を持ってる赤崎くんは、蹴りの系統とか、味方にチャンスを生み出すようなスキルの取得が早くなったりするってことかな?
いぶし銀なキャラになるんだ、赤崎くん!
まぁ、【嘘付き】な加藤くんは……裏社会なら大活躍だね!
「さて、まずはしばらく我々の騎士団と共に近郊の魔物狩りをしながら、自衛の手段を手に入れてはいかがでしょう? レベルもせめて人並みに育てば、ステータス面で一般人に負けない程度までは伸びるはずです」
そうジーク侯爵が言った、その時。
突如頭の中に、効果音のような何かが聞こえた気がした。
何かと思ってキョロキョロと周りを見る僕に、信じられない言葉が飛んできた。
「そう、ですね。お願いできますか?」
「前線で戦えって言うんじゃなければ、私達も特に異論はないですし……」
「少なくとも人並みぐらいにはならないと、危ないよな……」
――なんだ、これ。
みんながみんな、”戦う事”について肯定的……?
僕らはしがない高校生で、修羅場らしい修羅場を潜った経験もない。
確かに騎士団がついて来てくれるっていうなら、それはネトゲなんかでもよくある、いわゆる「寄生プレイ」みたいな事ができるのかもしれない。
だからって、命懸けの戦いなんてこうも簡単に受け止められるもの、なのかな?
――何かが、何かがおかしい。
それに、さっきのジーク侯爵さんの言葉をきっかけに聞こえた音はなんだろう。
ログか何かをゲームみたいに確認できれば……と思ったら、ステータスと同じような光の四角が表れて、ログが表示された。
――『【誘導術】をスルーする事に成功しました』。
スルーって、そういう意味だったのね……。
いや、そうじゃない。
僕らは、ジーク侯爵さんに誘導されている?
そんな疑問を持ちながら、僕はジーク侯爵さんをちらりと見つめた。
そこでは、やっぱり。
ジーク侯爵は乗り気なみんなを見て、まるで生け贄になる獲物を見てほくそ笑んでいるような。
そんな笑みを――していないね、うん。
むしろほっとしているみたいだし。
ま、なるようになるだろうし、とりあえず長いものには巻かれていようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます