勇者召喚が似合わない僕らのクラス

白神 怜司

Ⅰ 「これは酷いキャスティングミスだ」と思わずにはいられなかった

0-1 これは酷いキャスティングミス



 僕の通っている高校は、なかなかどうして平和な所だ。




 よく取り沙汰されるイジメなんてないし、不良らしい不良もいない。

 取り立てて成績のいい優秀なヤツもいないが、どうしようもないクズもいない。


 特に僕の在籍するクラスに関して言えば、実に平和だ。


 気の合う生徒同士で固まるのは当然だけれど、別にグループ間でも仲が悪くない。


 分かりやすく言えば、「ラブコメ」によくあるクラスだ。

 いや、「主人公がいない、ラブコメの別のクラス」と言った方がよっぽど正しい。

 劇的な物語りもなく、主役が隣のクラスどころか遠いクラスにいるような、脇役は脇役よろしくそれなりに楽しんでいるクラス。


 当然、何も事件も起きない。

 誰かと誰かが付き合ったとか、別れたとか、そういう話に一喜一憂できるぐらいに。


 それはそれは、とても平凡な学校、なのだろう。


 当然ながら、不満なんてあるわけもない。

 平和な学校、平和なクラス。

 特に一人でいても孤独を感じる事もなく、適度に会話をする仲間もいる。


 もっとも、僕はそういう会話もあまりしないぐらいに一人でいるタイプだ。

 ぼっち、というものを歓迎しているぐらいに自由気ままにいるけれど、イジメなんてないから何も問題ない。






 ――――だからこそ。






「――ようこそいらっしゃいました、異界の勇者様がた」


 きらきらと輝くドレスを身に纏い、金色の髪に碧眼。

 美しい、いかにもお姫様といった彼女を取り囲む甲冑を身に纏った男女達と、そんな彼らの奥に佇む数名かの朗らかな人々。


 この状況を目の当たりにして呆然とする皆の中で、きっとこんな感想を抱いたのは僕だけだと思う。






 ――「え、このクラスが勇者とか……ちょっとキャスティングミスにも程があるんじゃないかな」と。















「私はこのファルム王国の第一王女、アメリア・フィル・ファルムと申します」


 そう言いながらカーテシーをしてみせる辺り、仕草は堂々としたものだと思わず感心させられた。


 同時に、やっぱりこれは酷いキャスティングミスだと思わざるを得ない。


 普通、こういう状況になったら誰かが声を荒げたり、率先して何かを訊ねたりするものなのだけど……、僕らのクラスは先程も言った通り平和なクラス。

 平々凡々に穏やかで和やかな、という意味で平和なクラスである。

 つまり、この状況下で混乱する事さえしない程に、


 ――しょうがない。

 ここは一つ……誰かが質問をぶつけるまで待とう。


 僕? 僕には無理だよ。

 僕はアグレッシブさを持ちあわせて警戒するようなタイプでも、わざわざ斜に構えて人を見るようなタイプでもない。

 長いものには巻かれる派の事なかれ主義だ。


 僕らが異世界召喚されたのは、お昼休みだった。

 いつも通り、ゲームで睡眠時間を削っている僕には貴重なお昼寝の時間だったんだけれど、なんだか凄い音がして、瞼の向こう側が白く染まって、気が付いたらこの部屋にいた。


 そんなわけで、今の僕は眠い。どうしようもなく眠い。

 大きく欠伸をして待っていたら、なんだか「あれ、そこに人いたの!?」みたいな目で見られた。

 影が薄くてすみません。


 それにしても、なんだかおかしい。


 ここまで来て、むしろ王女様達の方が困惑しているらしい。

 きょとんとしたまま何も騒ぎ立てずに言う事を聞いてくれるとは思っていなかったらしく、なんだか想定外の反応だとでも言いたげにおろおろしながら、兵士っぽいような人達に守られている何となく偉そうな人達に視線を送って助けを求めてる。

 朗らかな人達もおろおろしてる。


 どうしよう。

 僕、この国の人達が嫌いじゃないかもしれない。


 意を決して王女様が口火を切る――その時。


「あのー、すみません」

「えっ!? は、はいっ!」

「えっと、異界の勇者様がたって、どういう事ですか?」


 すごいぞ佐野さん!

 このタイミングで口を開けるなんて、間違いなく君は勇者だよ!


 でも王女様は王女様で、どうやら台本ではその言葉を想定したいたらしく「待ってました!」と言わんばかりの爛々とした表情だ。

 ちょっと僕でも分かるぐらいポーカーフェイスが足りないと思うんだ。


「――コホン。こうして六名の勇者様を召喚させていただいたのは、他でもありません」

「え? えっと、六名?」


 佐野さんが僕らを見回して確認する。


 ほう。

 つまりこれは、まさかの「巻き込まれ系」かな?


 一概に「巻き込まれ系」って言っても、色々ある。

 元勇者系主人公に、チート持ち主人公。爪弾きされたら実は強かった系主人公なんかも最近は多い。

 ゲームからライトノベル、アニメから映画までなんでもござれの僕に、その手の知識は抜かりなんてないとも。


 さて、僕は勇者なんて柄じゃないから、巻き込まれた側かな?

 とか、ちょっと調子に乗って周りを見回して、人数を数える。


 ひーふーみーよー……じゅういち。

 ……十一?


 おっと、これは予想だにしていない人数だよ……?


 六名様の勇者様御一行ご案内のはずが、蓋を開けてみれば十一名様。

 その数は凄く微妙な、けれど間違いなくオーバーしているという現実。


 台本通りに事を進めようとして、その異様な有様に気付いたアメリア王女様、すでに涙目です。


 もはや「巻き込まれ系」がどうとかってレベルじゃない、これはもう「間違い」異世界物語りとでも言うべきだと思う。


 それはそうだ。何せ僕らのクラスに主人公体質なんていない。

 平和――平々凡々で和やかなという意味――なクラスなんだから。


 もしこの国が奴隷にして僕らを戦闘に従事させようとする国だったら、もうすでに詰んでるレベルの遅い反応だけれども、さすがにこの事態には僕ら側としても行儀良くし続けてはいられない。


 少しずつ困惑の声が広がりつつある。


「お、おちいてください! 人数が多いことは、歓迎こそすれど否定的に捉える必要性はありませんっ!」


 おちちゅきます。

 僕らの困惑は王女様の可愛らしい失態によって癒され、沈静化した。

 王女様、あまりの恥ずかしさに耳まで真っ赤です。


「異界の勇者様は、世界を超えて召喚されますから! その際に皆様は等しくオリジナルスキルを手に入れているはずですし! と、とにかく「ステータス」と唱えてくださいっ!」


 あまりの恥ずかしさに口調が若干投げやりの王女様はともかく、その言葉にゲームで仲良くなったらしい、加藤くんらゲーマーグループが「チートきたぁ!」と叫び、意気揚々と自らのステータスを呼び出した。


 ……あっ。


 それにしても、他人のステータスって見えないんだね、うん。

 だからほら、加藤くん。

 どんまい……。


 さて、僕もそろそろ自分の弱さを確認しておこう。

 この世界に来て身体が軽くなったとか、そんな事は一切ないし。


「ステータス」


――――――――――

名前:高槻 悠

Lv:1

職業:傍観者


STR:7

VIT:4

AGI:12

DEX:31

INT:35

LUK:1


オリジナルスキル:

【スルー】

称号:

〈徹底的な第三者〉

―――――――――――


 うん……、うん?

 まぁ僕自身が弱いのは分かり切ってるけど、ずいぶん後衛職向きって感じのステータスだなぁ。


 それにしても、なんだか凄くツッコミ所が満載だよね。


 職業として成り立つのかな、傍観者って。

 職業、ギフト、称号が僕のぼっちぶりを抉るように強調してくれてるんだけど。

 このステータスの心切親切さに胸いっぱいだよ。


「王女様、この世界のステータスの平均ってどれぐらいなんですか?」

「えっと、成人――十五歳ですけど――で平均二十前後ぐらいです」


 佐野さんのナイス素朴な質問に、クラスのみんなは――一様に肩を落とした。

 やっぱり僕らのクラスに勇者はいないらしい。


「えっ、あっ! いえ、違います! ステータスはレベルが上がるまでは低いのは当然です! 大切なのはオリジナルスキルです!」


 慌ててフォローしてくれた王女様の声に、僕らの気持ちは――更に落とされた。


「……【調味料配合】って、どう見ても戦えないし……」

「【センタリング】って、サッカー部だから喜ばしいけど……けど……っ!」

「……【嘘付き】……?」

「あ、私は【天使の歌声】だって!」

「なにそれずるい。私なんて【人間ミシン】とか意味分からないんだけど」


 ……これは酷いキャスティングミスだ。

 僕らの中には等しく戦闘能力に特化したオリジナルスキルとやらを持ってる人なんていなかった。

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