黒槍の救済者

レジ袋

第1話 成りたいもの

時は平成。何気ないある日にあれはやってきた。

突如地球の公転の軌道上に小惑星が飛び込んできたのだ。

世界中が注目し、二年後、調査隊が送られた。

するとそこは人にとって、まるで天国のような場所だった。

澄み切った大気、栄養価の高い水、豊富な鉱産資源および地下資源。

そして未知の物質や遺跡もあった。

人々はこの星を楽園と呼び、学者たちは「理想郷」と歓喜した。

が、

ーそれだけではなかった。

その星には、独自の進化を遂げた生物が生息していたのだ。

話が通じず、獰猛な種が多く、とてもではないが移住は不可能であった。

そこで人類はこの星に移住するため、各国が協力し、殲滅組織「センラ」を設立。

その惑星と地球をエレベーターでつなぎ、移住のためのせん滅を決意した。


それを聞いた人々は、恐怖しただろう。が、それ以上に期待しただろう。

未知への好奇心と、冒険の気配にー






ジリリリリリリリリ。ジリリリリリリリリ。

けたたましい音が鳴り響き目を覚ます。

不快な音を響かせる時計のアラームを止め、身を起こす。

そして大きく伸びをした。

「んっく・・・はぁ~・・・・・」

伸びをし終えると、さっきまで気持ちよく眠っていた少年は、

いつものように洗面台で顔を洗った。

だんだんと意識がはっきりとし始めたところで、

ピリリリリリ。ピリリリリリ。と着信音が鳴り響き、電話を取った

「よう槍哉そうや。起きたか?って電話出たんだから起きてるか。」

という朝っぱらから元気な友人の声に黒髪の少年ー


天星あまほし槍哉そうや」はけだるげにこう返した。


「朝から元気だねぇ・・・・・何か用?」

「いやさ、今日バイトの予定だったんだけどさ、店長が腰いためて休日になっちまってさ?」

「暇だから遊ぼうってこと?」

「そうそう!いつもの4人であそびたいなって、確認とって内のあとおまえだけだからさ」

「べつにいいけど・・・」

「よっし!さすが俺の友人!・・・じゃ、10時前までにゲーセンの前でなー!」

ブツッ と電話を切る音がした。

「・・・・・あ」

読みたい本があるんだった。と早くも少し後悔しながら準備を始めた。



ゲームセンターに行くとすでに3人がいて、

さっそくゲームをやりつつ、

左だ右だと激励をしあったり、勝った負けたで笑いあうような

何気ないいつもの日常を楽しんだ。


その帰り道。

「アッチィ・・・・」

と友人の一人が言った。

「そんなことわざわざ言うなよ・・・・・真夏だし、30度越えだぞ?」

「うっそ!?」

「あそこにかいてあるじゃん?」

と友人が電光掲示板を指差した。


そこには、端のほうに気温、湿度が書いてあり、

画面に大きくTV番組が映っていた。内容はー


例の事についてだった。

『~などという点から今回は98番~』

『~ではこの周囲には~』

と学者か何かが話している様子が放送されている。


「・・・もうあの惑星が現れてから10年近くたつのか・・・・」

と思わず口走ってしまった。

「あれな~。来た時すっげーわくわくしたよなー・・・」

「だよなぁー。ゲームみたいにこう・・・

ビシッと戦うようなこと妄想してたよな。」

「子供のころの夢は男子全員センラだったしな。」

と友人達が話している。


10年ほど前、僕らがまだ6つのとき、あの惑星が現れた。

モンスター、未知、冒険。

そんな言葉が好きだった子供たち、もちろん自分も、

そんな世界に触れることに強くあこがれていた。


ーだが、世界が滅ぶだとか、全く歯が立たないなんてことも、

救世主が現れて、なんてこともなく。


いつのまにか

モンスターは当たり前に、

冒険心は僕らの心から消えていった。


昔は何か注意勧告があれば、すぐさま反応していたが、

今ではもはや「近くにサルが出た」程度の物になった。


・・・そんなことを考えていたからだろう。

自分は何がしたくて生きているんだっけ?

何になりたいんだっけ?

と、似合わないような哲学的なことを考えていると―


携帯がなった。

・・・メールだ。

「寮長です。

今回寮での夏季休暇の過ごし方のお話があります。

外出している方はすぐに戻ってきてください。」

というメールだった。


「悪い、ちょっと用が出来たから先に帰る。」

と言うと

「お?なんだなんだ?」

「女か?ついにokしたのか?」

「かーっ!これだから金持ちのスポーツマン様はよーッ」

とからかわれた。

「うるさいなぁ、大体実家にはあまり帰ってないし、スポーツも軽くできる程度だってお前らが一番知ってるし、彼女作ったらお前らもう知ってるだろ!」

と小突く。

ははははは。という笑いが起こった。

「んじゃ俺、帰るな。またなー」

と挨拶をした。


「・・・・困った。」

寮へ帰る途中時計を見ると、どうにも間に合いそうになかった。

「仕方ないな・・・」と言って、

ふだん通らない、工事中の物が多い98番通りという名前の路地を通ることにした。



走っていると、見慣れない建物やビルが多く、

まるで知らない町のようだった。

・・・なんか子供のころを思い出すな。

よく何人かでこういうとこに言ってしかられたっけ。

なんてことを考えていて、ふと、気付いた。


「あれー」

・・・なぜ?


なぜ、誰一人としていないのだ?と。


ーこの時俺は気付いていなかった。

ちょっとふだん行かない道を通るだけ。ただそれだけのつもりだった。


さっき見た電光掲示板の番組で、


「今回は98番道路で入隊試験をするんですよ。」


と、あの学者風の人が言っていたことなんて知る由もなかったー


Gruuuuuuuuuuuuuu・・・・・


聞いたこともないような、地の底から這い上がってくるような音が、


ー近づいてきていた。



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