RAPISU~神の悪戯~

玖蘭朱音

第1話 はじめに

 人は常に何かしらの願いがある。眠たい、食べたい、愛したい。人間の三大欲求がいい例だ。人はどんな時も誰かを求め、何かを求めながら生きている。

 もし仮に、神が人間という生物を作ったとするなら。神はどこまで予測していたんだろうか。人という生命が多くこの世に存在し、同じ種族であるにも関わらず、殺し合いをしたあの時代も。神には想定済みのことだったんだろうか。

 知能を持つが故に様々な考えが生まれ、衝突し武力によって解決する。これは神にとって悲劇ではなく、幼い子供たちによるただただ滑稽なお遊びにでも見えているのだろうか。

 神が何のために、どういうつもりで私たちを生み出したのか。知能を持たせたのか。それを知る術は誰も持っていない。もしかすると神が存在しているのか、存在していないのか不明瞭なものに問いかけている私こそが、だれよりも愚かで滑稽なのかもしれない。


 これは神を信じているようで信じていない人間が書いた、あったかもしれない世界のお話。


 神が本当にいたならば、人間が神の言葉を聞き、神が直接人に何かを授けることが出来たのなら。人の欲求は、『願い』は、真に形となり己の力となっていたかもしれない。

 だが、人間は力を得た人間を力のない人間の中に入れておけるほど寛容ではない。力のない人間は、力ある人間を利用する。それが自分の願いのためなのか、はたまた嫉妬にも似た感情からか。それはその人にしかわからない。



 この世界では強い願いにより、神が一部の人間にのみ授けた力がある。その名は『ラピス』。特殊な石を媒介にし、願いを具現化した神に似て非なる力。そして何時しか、ラピスを持たない人間たちはラピスを持つものを『神格』と呼び崇めた。そして彼らをこの国で一番高いと言われていた山へと集め、隔離した。神に近い位置には神格がいるべきだ、とのたまいながら。


 それから1000年。


 人間たちはラピスを持つ者たちに利用価値を見出し、神の転生者として「守護」のラピスを持つ者を『巫女』と呼んだ。当初、彼らは巫女を通じ、神に自然災害などのお告げを聞くことで平和に暮らそうと考えた。だが時が経つにつれて、彼らは「巫女」自身を平和の要とし、過去の傾向から能力が発現する時期・人間を割り出した。そうして示されたのは、能力は15歳から発現すること・能力は代々受け継がれていき、親から子へ能力ごと遺伝する可能性が極めて高いことが判明した。

 それから彼らは能力が発現する前に、結論に該当する子供を巫女として崇め始めた。それは幼いころから人のため、国のために縛り付けて置き自由をなくすことが狙いだった。そして巫女が15歳になり能力が発現すると、彼らは他国と戦争をし始めた。守護の力をもつ巫女は、戦争の守りの要として多くの命を守ってきた。だが彼女も所詮は人だ。神と似て非なる力とはいえ、人間が持つには大きすぎる力だ。守れば守るほど彼女の力は弱まり、能力の消滅と共に彼女はその命を費やしてしまった。

 それを知った力のない一部の人間たちは、巫女を不憫に思い神格の中からより強い能力者を選び出し、守護者とした。せめて同じ運命を辿る者が傍にいれば、彼女の心も安らぐだろうと。それが恐れからなのか、真実心からの思いなのか、それは定かではない。だが、確かに巫女は一人で死ぬ運命から同じ境遇の仲間を見つけ、生きる希望を見出した。


 そして半世紀後。



 巫女と守護者たちは、今も共に歩んでいる。

 


 願いとは何か。力とは何なのか。

 

 人間に利用されながら、必死に自分の願いを叶えようとする人間。誰が悪いのか、何処で歯車が狂ったのか。それはもう分らない。けれど今を生きる彼らにできるのは、自分自身の願いを形にすることだけ。




 ――ラピスによる新しい世界の話が幕を開ける。

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