西方大陸

■概要と地理

 〈幻想世界〉に存在する文明圏の一つで、非常に大きな大陸(その名はまだない)の西に位置する。

 西方大陸という名は、かつて文明の中心であった地方から西にある地方がゆえに付けられたもので、絶対的な方位の概念を持っての命名ではない。またエウロペイアという呼び名も、かつての文明中心で信奉されていた多神教の「西の女神」から付けられたものである。

 西方大陸の陸地は東西に長く南北に短い。地勢的に見ると巨大な半島であり、北は多島海、南と西は大洋に囲まれている。

 陸地を東西に分断するように巨大な山脈が走っている。大陸の東側においては特に山脈が険しくなっており、山の南北で大きく季候が異なる。南側は南西の海から吹く暖かい風のため温暖湿潤、北側は寒冷で乾燥した気候となる。西側にはあまり高い山が無く、中原と呼ばれる緩やかで温暖な平野が広がっている。



■文化と文明

 文化的には二つの源流が存在し、一つはかつての文明中心からきた南方系の文化。もう一つは北方の先住民に端を発する北方系の文化である。

 南方系の文化は洗練の度合いが高く、その影響はロマヌス地方に色濃く残っている。また大陸の主流宗教である一神教「西方正教」は南方系である。

 一方、北方系は洗練の度合いは低いものの、亜人を中心に根強く残っており、多少の差こそあるがおおむね独自の「多神教」を信仰している。特に亜人の一種である巨人が多数を占めるノルトガルド海王国は北方文化を強く継承している。

 中原以西ではこれら二つの文化が混じり合って、独特の風土を形成している。

 文明に関しては西方大陸全域を通じてやや後進的であり、特に産業と冶金についてはまだまだ発展途上と言える。ただしそれらを補うように独自の〈魔法〉技術が発展していて、そこから派生した〈魔導工学〉や〈錬金術〉の恩恵は至る所で見ることができる。見方を変えると〈魔法〉があるがゆえに〈物理工学〉が発展していないとも言える。



■亜人

 西方大陸に限らず幻想世界ではその全域で〈亜人〉、つまり人ならざる人を見かける。彼らの出自については未だ系統立った研究はされておらず、人と共に神に作られたという神話的な解釈があるのみである。

 西方大陸に住む亜人は三種類。

 体格が大きく、力に秀でる〈巨人〉。体は小さいが〈魔法〉の素質に富む〈小人〉。そして山地を好み、森と共に生きる〈森人もりびと〉である。

 このうち巨人と小人は人間(彼らの言うところの中人なかびと)と共存関係にあるため、おおむねどこでも見かけられるが、森人は迫害を受けた過去から隔絶された場所に里があることが多く、めったに見ることはない。

 彼らは互いに混血が可能で、もちろん人間とも交配できる。ただし体格差の面から巨人と小人の混血は難しく、事実めったにいない。

 最後になるが、亜人というのはあくまで人間がかつて差別のために作り出した造語であり(人もどきという意味なので)あまり良い意味では使われない。

 今日の西方大陸では、亜人も人であるというのが一致した認識である。



■国家

 古い時代の共和制政治が終焉を迎えて以降、長い間西方大陸では封建政治が横行していた。共和制は近世になってロマヌス地方で「再発明」されたが、その広まりは遅く、まだ一つの国がそれを採用したに過ぎない。

 封建制の強い影響下では、司法権は多数の代表によって細分化され、無数の都市国家が乱立する。

 しかし国家間の利害調整のために地方単位や、さらに上の単位での同盟が繰り返された結果、今日においてはおおむね七つの大国による統治の形に落ちついている。

 これを西方大陸七国家とも言い、西方大陸にある国家はほとんどそのどれかに属している。

 以下に七国家を解説する。

 

 ・イニス・プリダイン連合王国

  西方大陸北洋の島「イニス・プリダイン」全土を治める連合国家。

  スォイゲル、エル・アルバン、ケルニュウ、カムリの四つの大州からなり、国としての規模は中~大。やや寒冷な国土を持ち、主要産業は水産業と牧畜業。二次産業として林業と農業も盛んである。

  大州のうちエル・アルバンとケルニュウはもともと亜人国家であり、エル・アルバンじは巨人、ケルニュウは小人の一族が代々その宗主を務めている。

  西方歴1639年から12年間にわたる内戦を経験しており、長らく大規模な戦争がなかった西方大陸においては、軍事的能力が高い国として知られる。ただし内戦の影響で国内の統制や経済には混乱が残っており、情勢はやや不安定。

  さらに1656年からは〈黒の霧事変〉と呼ばれる非常事態の渦中にあり、戦後復興はあまり進んでいない。

  北方国家の常として文化は独自色が強い。

  特に宗教に関しては「プリダイン多神教」があり、これは精霊信仰や英雄信仰が混ざり合った独特の宗教である。プリダイン出身者の多くが奇妙なミドルネームを持っているが、これはプリダイン多神教で〈聖名〉と呼ばれるもので、その多くが過去の英雄、英傑の名前に由来する。


 ・ロマヌス連合共和国

 西方大陸南岸に突き出すロマヌス半島を統治する共和国。

 かつて西方大陸のほぼ全てを支配した「ロマヌス統一帝国」の末裔が彼らである。時代が過ぎるにつれ版図を失い、今では一つの半島にまで縮小したものの、未だに文化と商業においては大陸に並ぶものの無い影響力を持っている。

 ごく最近まで、ロマヌスの名は一部の連盟に残るのみであった。しかし近年、都市国家が相次いで共和制への回帰を宣言、半島全体を統一する巨大な共和国の象徴として、かつての栄光はその名に刻み直されたのだ。とはいえ完全共和制への道はいまだ半ばであり、現在のところ単なる都市国家同士の寄り合い所帯であるというのが共和国の現状である。

 特筆すべきは都市ごとの特色ある商業的性質である。 産業としてはほぼ農業しかないこの半島が、海運や金融、芸術、さらには教育などの方面で商業的成功を収めているのも、都市ごとに自立した商業的アプローチがあるからなのだ。


 ・ライツェン魔導帝国

 西方大陸の東の雄であり、東部雪原地方を統べる大帝国。

 古くは軍事国家として知られたこの国は、近年の〈魔法〉発展の中心地として西方大陸にその名を轟かせている。

 領土全体が中央山脈の北という厳しい気候にありながら、農業や鉱業、さらに工業分野においてもこの国は大陸の最先端を行く。その原動力は全て〈魔法〉であり、一部の森人勢力を取り込んで発展した〈魔導技術〉は、厳しい気候風土をして国民に好敵手と言わしめるほどの余裕と発展をこの国にもたらした。

 しかし若干以上に国交に関しては閉鎖的で、特に〈魔導技術〉における〈国外禁〉や〈門外不出〉の多さについては諸国から批判の声がたびたび上がっているが、帝国は頑として開示を拒んでいる。

 統治機構は独特で、七つの大州を治める七人の選帝候によって「大帝位」を持つ者が選ばれ、全権統治者に任命される。大帝位は任期制であり七年ごとに改選される。

 しかし実際はここ50年ほど〈アイレグニル家〉によって大帝位は独占され続けている。というのも〈魔導の中心地〉としてライツェンの発展を推進したのは他ならぬ〈アイレグニル家〉なのである。繁栄は〈魔法〉によって成る、〈魔法〉の優れた血筋こそ支配者に相応しい、という国を挙げての姿勢を一から作り上げた彼らは、今や改選を経ずして大帝位をほしいままにできるのだ。

 いまのところ幸いにも大帝位を悪用するような指導者は現れていないが、未来においてもそうあり続けるかはわからない。


 ・イスパニア聖導王国

 西方大陸の西端に位置する海運国家。

 (以下加筆予定)

 

 ・聖ガリア王国

 中原全てをその領土とする、西方大陸最大の農業大国。

 (以下加筆予定)

 

 ・サンクト・ペテルス大帝国

 西方大陸の最東端に位置する氷原の国。

 (以下加筆予定)

 

 ・ノルトガルド海王国

 唯一現存する亜人の大国。大陸北部の多島海を支配する。

 (以下加筆予定)



■都市国家および主要な都市

 都市国家とは、西方大陸の基準によると一つの都市とその周囲の領地を基礎とする小規模な国家のことである。

 西方大陸の政治形態を最小単位に分解すると、全てはこの都市国家に行き着く。いまだ領土は面積ではなく集合であり、人間の領域は点と線で結ばれているというのが西方大陸の実情なのだ。

 統治機構の最小単位として、都市国家はその領民に対する司法権を握っている。形態は様々で、君主制、合議制、共和制など枚挙にいとまがない。

 特色ある都市の集合、それこそが西方大陸の真の姿である。

 

 ・〈学校〉

  正式には〈ユニベルス自由市〉というのが都市名であるのだが、もはや〈学校〉という通名の方が一般的となってしまった。ロマヌス連合共和国に属し、政治形態は合議制。〈執務〉といわれる議会と付属組織によって統治され、都市国家としては異例の常備軍を持っている。

  この都市がその異名を大陸に轟かせる最大の理由は、その主要産業にある。教育、それも軍事教育こそがこの都市の最大の産業なのだ。

  平和の世に軍事教育というと場違いも甚だしく感じるが、実は西方大陸の平和はこの都市によって支えられていると言っても過言ではない。

  実は〈学校〉が成立する以前は、西方大陸は軍事的緊張の絶えない世界であった。大国同士が限られた領土を巡って絶えず小競り合いを繰り広げ、それが全体を巻き込む戦火に発展したことも一度や二度ではない。

  〈学校〉は最初、特にロマヌス地方の軍事安定を目指して創建された。小規模な戦闘が容易く発生するのは、敵も己も知らない軍事指導者が多いためであると考えた初代の総督により最初の軍学校が誕生したのだ。

  その教育方針は一貫して「完全に護れ、されど侵すな」であり、専守防衛を推し進めるために〈諜報〉による情報収集と、そこから得られた成果の広い拡散が図られた。

  最新の軍事成果が高い練度で得られると周辺国の評判を呼び、〈学校〉は数十年で大きく成長を遂げる。他の国と対等に渡り合うためにと〈学校〉へ生徒を留学させる国家が増え、いつしか大陸全てが〈学校〉の顧客となったのだ。

  今の〈学校〉は創始者の思い描いた軍事の有効使用ではなく、むしろ軍事均衡を保つための場として西方大陸に不可欠の場所となっている。

  軍事技術が平均化され、戦争で一方的勝利を収められなくなった諸国は、外交での解決を至上命題とした。〈学校〉は軍事教育の名目で留学生を分け隔て無く迎えるがゆえに、平等の保証された外交の場という希有な地位を獲得するに至ったのである。

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銀の腕のダイタンオー 設定備忘録 じんべい・ふみあき @Jinbei

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