1-2契約の力

パァン!乾いた炸裂音が飛来し、脇をすり抜けていったのを感じた。それと同時に男の小さな悲鳴が聞こえ、遠ざかる気配がする。

「……?」

ぱちり、と再びいくらか瞬きをすれば、ようやく視界に輪郭と色が戻り始めた。視線の先には、こちらを見て、いやユスラの背後をみて怯えている男がいる。先ほどの音の先をみると、地面に銃弾がめりこんでいた。それをみて、ああそういうことかと納得する。

「ありがとう椿」

後ろを見もせずに礼を言うと、軽い笑い声が返ってきた。

「どういたしまして。…相変わらず変な奴に絡まれてるな」

カツカツ、とこちらに歩み寄る音がする。それと同じくして、目の前の醜男はぶるりと怯えている。カツン、足音が隣でとまった。見ると、黒光りする物騒なものを構えている姿が並んでいる。黒髪に藍色の縁の眼鏡、そしてユスラと同じ学園の制服。それをはためかせながらこちらをちらっと見て笑っている。

いつもユスラはこの姿をみると、頼もしいと思わずにはいられない。そのユスラに椿と呼ばれた少年は、未だ銃を構えたまま、男に向かって微笑みかけた。

「申し訳ありません先輩、僕もまだまだ未熟者でして…。」

パァン!再び銃が発砲し、男の足元に打ち込まれた。あともう少しずれたら男の足の甲に当たっている位置に、だ。

「力が上手く扱いきれないんです。…ね?」

逆にすれすれ当てないことの方が難しいのだからそんなものは脅しだ。

椿がにっこりと笑って銃を構える姿は、さぞかし恐ろしかったのだろう。男は顔を真っ青にして慌てて逃げていった。

男の後ろ姿を見送り、銃の実体化を解いてこちらをみていた椿とその隣に現れた女性に礼をいう。

「ありがとう椿、それから西王母も」

そうすると二人は顔を見合わせて、ちょっと笑った後二人してとぼけた様に口を開いた。

「全くだ。…まあ、今のは?未熟な俺の些細な事故だからいいけどな」

「そうじゃそうじゃ、私もそろそろ耄碌してきたからのう」

「まったくよく言うわ。天花者ともあろうものが」

僕、なんていっちゃって。と椿につっこむと、椿も西王母も面白そうにわらっていた。

さて、そろそろ帰ろうか。椿の言葉に、ユスラと西王母は頷いて三人で歩き始めた。


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花契~ハナチギリ~ かぐら祭 @namahage_03

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