第二章 B棟廊下

「嘘…暗すぎない?」


出だしから震えは止まらないし、もう廊下ついちゃうし…

綾香はケラリと笑うとまた先生の写真をちらつかせた。


「今あげてもいいんだけどな~♪」

「え!本当に!」

「ちょ、ちょっと!静かにしないと怒られちゃうよ!」


綾香はあたふたとしながら私の口を塞いだ。

そして口元に人差し指を当ててしーっと言った。

よくよく見ると夜野先生がいる保健室は電気がついている。


「ごめんて。写真かしてよ。」

「もー!しかたないなぁ。」


綾香がこちらに渡してくる写真を私では無い誰かが後ろから受け取った。


「はい、ぼっしゅー…」

「「…え?」」


「何これ?不要物は持ち込み禁止だよ…」


私ははっと息を呑んで固まった。

…が、綾香はぷすぷすと笑っている。

ぜんぜん可笑しくなんかない……


だってこの声は、

この匂いは、

このしゃべり方は、


「ちょっと…?ごめん、驚かせちゃった…?」


「よ、よ、夜野先生!?」

「まなみんってば顔~www」


綾香が盛大に笑い転げる。

恥ずかしさで顔が溶けそうだ…

先生は私の様子を伺いながら大丈夫?という台詞を繰り返している。


「ごめん…いやちょっと、え?その…」

「先生てんぱりすぎ!落ち着いて!」


綾香の声で先生は一息つくと落ち着いた。


「ごめん、でも、もう暗いし…送るから帰りな?」

「ねぇ、綾香…」

「そうだねぇ~…せんせーが言うならしょうがないか!」


綾香はこちらを向いてウインクをすると一人かけていった。

え…?え?かけて…?


隣におそるおそる向くと先生がこちらを見ている。


「君、確か二年三組の…」

「は、はい!!神辺愛美であります!!」

「……そっか。お友達の方は…?」

「あ!あれは、浅田綾香ちゃんです!」

「う、うん、分かったから声……下げていいよ」


先生は淡々とそう言うと長めの白衣をはおい直してゆっくり歩きだした。


そして、ぽかんとしている私のほうを向いて、

「…おいで。」

とだけいうとまた進みだした。


赤くなる顔は暗闇のおかげで隠せている…はずだ。


ところが問題はここでおきた。

いくら進んでも一階に続く階段が見つからない。

その上、さっきかけていった綾香と合流する始末だ。


「なんでぇ~!!なんでつかないのぉ~!!」

「わからないよ!どうなってるの!」


慌てる私たちに先生は静かにこう言った。


「落ち着いて。たまにあるんだ…こんなこと。」

「ふぇ?え!?」


逆に落ち着けなくなった。むしろ恐怖だ。


「せんせってばもっと怖くなっちゃったじゃん!!」

「う…ごめん。」

「そ、それで綾香、追い討ちをかけるようで悪いんだけど…」


私が見えているものはどう考えても…


「な、なに…?なになに!?」

「あれ……女の子…だよね…」


私が言い終わると女の子はひひひと笑いながら早足でこちらに来る。

とても早い…こっちにくる!


「うそ……でしょ?」


それと同時に先生がため息をついた。


「お願い…二人とも暴れないでね…っ」

『ヒョイッ』

「「え?」」


いきなり先生に抱きかかえられる。

そしてもうダッシュ!?

こんなに細いのに二人も持ち上げられるの!?


「せ、先生!あのロッカー!あれって掃除のロッカー!?」


何メートルも先に小さなロッカーが見える。


「あ、ああ!でも、どうするつもり!?」

「箒!入ってますよね!?」

「もうここ最近使われてない!入ってるかわからない!!」

「…っ、一か八か!あそこで私のこと降ろしてください!!」

「まなみん!?本気なの!?」


もう綾香は訳が解っているらしい。

やってみるしかない…!


「先生!お願い!!」

「…解った!」


もうここしかない!!

私はロッカー前に下りてロッカーをぶち破った。


「ラクロス部!なめんなぁぁぁぁああ!!」


勢いよく箒で女の子を跳ね飛ばした。


「やった!!」


でも。

『つんつん…』

ロッカーと私の間、人が一人入れる程度の間からつつかれる。

確かにさっき手ごたえがあったはず…


「うそ、やめて…」


そちらをゆっくり振り返ると…


金髪の女の子がこちらを見上げながらわらった。

『あははははっ』


「まなみん!!こっち!!」


ぐいっと綾香に引っ張られる。

それと同時に先生が私を抱き上げ、女の子をぐっと押し倒した。

女の子は何かを叫んでいた。


『……だよ…!』


「……なにあれ…」

「まなみん!よかった!もう無理しないでよ!!」


腰がぬけて動けない。

綾香は青ざめた顔で汗だらけだった。


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mariiva @satotyannkku

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