第11話 岡崎めぐると僕の一日……。
「どうしたの?どこ見てるの?」
「べ、別に……」
「なにしに来てるの? 勉強見て欲しいんでしょ」
「エアコン効いてる?なんかすごく暑い」
「話逸らすな環! 期末どうすんのよ。また追試受ける気!? 留年なんかしたら許さないから。野良犬になるの嫌でしょ? 違う?」
怜悧はさすがだ。i-podのイヤホン耳に当てながら僕に数学を教えてるんだから……。
岡崎はキッチンでなにか作ってる。
怜悧の家で学年五番の岡崎と、九番の怜悧に勉強教えて貰える僕はなんて幸せものなんだ。
それに二人ともめちゃくちゃ美人だし、可愛いいし。
しかしだ、怜悧の、お気に入りのGAPのしもふりのショーパンから覗く脚をじーっと見てたらついさっき怒られた。
「はい、出来たよ。ペペロンチーノとコーン・スープ」
美味しそうな匂い。空きっ腹がヒクヒクする。
一口食べた。めっちゃ美味しかった。
「岡崎ってなんでもできるんだね。勉強もできるし、面倒見もいいし、最高」
怜悧が睨んだ。口元に不敵な笑い。
「なんでもはできないよ。できることだけよ」
岡崎、それどっかで聞いたことあるセリフ、ははは。
「にしても、大きなお家ね。迷子になるわ」と岡崎。
「うん、築百年。有形文化財級だよね、このお屋敷」
怜悧は黙ったままパスタをパクついてる。胸元が開いたポロシャツ。胸の谷間がやたらに目立つ。
怜悧と視線が合う。口元が「どこ見てるのよ」と怒ってる。
ううう、脚舐めたい。すごく舐めたい……。
携帯が震えた。怜悧のスマホだった。
『はい、あら? 倖田君? うん、いいけど……分かった。うん、三十分くらいかな……』
「えええ? 出かけるの怜悧?」
「うん。ちょっとね、すぐ帰ってくるわ。環はそのままめぐるに勉強教えてもらってなさい」
***
「いっちゃったね怜悧ちゃん。相川君、いつも置いてきぼり食らったりするんだ」
「うん? うん、まあね。それより岡崎、この二次方程式詳しく教えてください」
「はい、はい。なんか不思議ね。怜悧ちゃんの部屋で相川君と二人っきりなんて……」
「中学の時はよく庇ってくれたよね。いじめっ子からさ、唯一僕がちゃんと話せる女子だったからね岡崎って、昔から面倒見がよかったよね」
「うん。不思議とね、相川君は嫌じゃなかったの。同性みたいな感じでいられたの。普通の男子は近くに寄られるのさえ嫌悪いっぱいで我慢するだけで冷や汗出てたってのにね……だから、そういう異常なとこ、知られたくなかったから、率先してね、務めてクラス委員とか、先生に気に入られるようにしてたわ。いい子を装うってけっこう大変なのよ。フラストレーションたまってリスカってたし」
「……怜悧に話してすっきりした?」
「うん。なぜだか、怜悧ちゃんは拒否らないと思ったの。なんでだろうね? こくって拒否られたらなんて考えもしなかった。ただ、言わなきゃいけないって、スキだって言わなきゃっていつも思ってたことだけは確か」
視線が交差した。僕も岡崎も怜悧のこと思ってたのは確かだ、多分。
「わたしね、今、思ったんだけれど相川君とならね、その、あの、キスとか出きるかも……」
「ふぇっ? どういう意味? キ、キス、できるって!?」
「いつまでもこんなんじゃヤバいでしょ。免疫つけるためにも男子に慣れとかなきゃとか思うわけ。で、相川君なの。神様の息がかかるくらい近くにいても、嫌じゃないってわたしにとっては、なんていうか、その、特別なのよね、相川君って……」
「……ってことはさ、男子に免疫つけたいってことはさ……その、あの、岡崎の肌に触れてもいいみたいな意味なのかな? いきなりキスっていうのも岡崎、拒否反応起すかもだよ。男が苦手なんでしょ? 」
じっと睨む岡崎の顔が赤みを帯びる。身体が硬直してるのが分かる。
「相川君が触ってみたいって言うなら……そうね、いきなりキスっていうのもなんだか思慮に欠けた発言よね。わたしらしくないよね……」
なんでだろう。しめたと思った。岡崎のその素敵な脚をね……。僕はやっぱりかなりなヘンタイだ。そう思う。触媒は怜悧だ、間違いない。僕にも素質があったことは認める。怜悧は知ってたんだ、僕がそういうやつだってね。
「岡崎さ、ちょっとそのソックス脱いでみてよ」
僕をじっと見つめる岡崎。小首を傾げる仕種……なんか疑ってる。仕方ないって感じでソックスを脱ぐ岡崎。
「そのソックスちょっと貸して」
「ええ? まあいいわよ。相川君、なにするつもり?」
僕は受け取ったソックスを迷わず鼻先に押し付ける。
「あ、相川君!? なにしてるの?」
驚いてる岡崎に構わず脚を掴み、舌を這わす。
必死で逃げようとする岡崎を力ずくで押さえつけて僕は足指を舐め続ける。
「相川君! 相川君! や、止めて!」
「止めないよ! 岡崎。僕ってこういうやつなんだよ……慣れたいって言ったのは岡崎だよ」
「はうう……」
足指を一本ずつ舐め続けた。岡崎は身を捩って抵抗する。お陰でスカートが捲れ上がりパンツがむき出しになった。
「い、いや! 相川君、お、お願い! 止めて! はあぁ……」
朗かに岡崎の身体から力が抜けていくのが分かる。抵抗が徐々に弱まる……。
「怜悧と僕はね、こういう関係なんだ……岡崎の前でなら僕も自分を曝け出させる。だから、脚を舐めるのは絶対止めないんだ」
「な、なによ? おかしいわ、その論理、絶対、破綻してるじゃない……」
「男ってのに慣れたいんでしょ岡崎。黙って……我慢することっ!」
「酷い! 酷いんだから相川く……ううう」
岡崎はほんとに我慢していた。身体が小刻みに震えていた。卑怯なやつだ僕って……自分の欲望を適えるために、素直な岡崎を巻き込むなんて……。
「あ、あ、相川君? ど、どこまで我慢すればいい? なんだか身体が変になっちゃいそうなんだけれど……」
「ぼ、ぼ、僕もね、岡崎。すごくね、すごく興奮してる……」
いつもなら怜悧に支配されてる僕が、この場だけは真逆の立場で岡崎を支配していた。岡崎の耐えた顔や、捲れ上がったスカートや、ブラウスから覗く胸の谷間、お互いの汗や、二次方程式や、その他、いろんなものが怒涛のように僕の頭をいっぱいにした。
「ふわあ!」
「ど、どうしたの相川君?」
固まったのは僕のほうだった。いっちゃったのだ……なんてことだ、いったい。
「……ええと、どう説明したらいいのか……男って、せ、生理現象ってやつが……こう、色々……」
「ばかね、そのくらいわたしだって分かるわ。中一の保健体育で習ったもの、男のメカニズムなんて。ああ、なんだか、身体が変になっちゃいそうだった」
「だいぶ慣れた、男に?」
「さあ、どうだろ? 相川君にはだいぶ慣れたけれどね、うふふ」
岡崎がじっと僕を見つめる。なんだかドギマギした。パンツの中が気持ち悪かった。
岡崎の唇が近づいてきた。
唇が触れた。
「なんだかね、この半月でずいぶん、色んなことが分かってきた、そんな気がするの。怜悧ちゃんが進んでるのか、わたしがウブすぎたのか……なんにも知らなかったでしょ、わたし。異性が怖かったしね。自分も大丈夫なんだって思えるようになってきたわ」
僕は無言。岡崎との初キスの余韻に浸っていた。
「少なくとも、わたしは異常なんかじゃないってね、ただね、そういうことに慣れてないだけじゃんって思えるようになってきたの。怜悧ちゃんのお陰、それと相川君のお陰でね……」
「あのね、岡崎……ちょっと頼みがあるんだけれど、いいかな?」
「なに?」
「このソックス貰っていいかな……」
岡崎が本気で僕を睨む……。
「バカ! ヘンタイ!」
だよね。やっぱ僕ってヘンタイだよね、あはは……。
どこまでも優しくて、どこまでも残酷な君 @natsuki @natsuki
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