酒は飲むべし飲むべからず

 『酒は飲むべし飲むべからず』とは、酒には人それぞれ適量がある。適度になら飲んだほうがいいが、飲み過ぎると体をこわしたり、とんでもない失敗をするから、決して飲み過ぎてはいけないという戒めの言葉。


 『酒は飲むとも飲まるるな』という戒めの言葉のほうが耳にする機会が多いでしょうか。昔から、多くの人が酒の失敗をしてきたようです。


 うちの夫も若い頃は酔って田んぼに落っこちたり、コンビニで展開されていたワインを袖にひっかけて割ってしまったり、色々やらかしたらしいですが、私の父は二度ほど死にかけてます。

 本日のお話はあまり綺麗ではないので、お食事中の方は閉じてくださいね。


 父は子どもに言葉で諭したりしつけたりするような人ではなく、背中を見て学べというタイプでした。

 その父から言葉なしに教わったのは、それこそ『酒は飲むべし飲むべからず』ということ。


 彼はとても無口で声も低く、普段は愛想がないのですが、お酒を飲むと本当に楽しげになります。毎日のように晩酌をする人でしたが、そういうときの父はとても生き生きしていました。

 父は仕事の話を決して家庭に持ち込まない人でした。辛いこともたくさんあったと思うのですが、酒を飲んでも愚痴一つ言わず、常に嬉しそうにビールを手酌する姿を思い返すと、よほど酒が好きで生き甲斐だったのか、精神的にタフなのか……。


 ところが、そんな彼も時々は飲み過ぎて失敗したこともあり、その『時々』を目の当たりにしてすっかり反面教師になりました。


 幼い頃、酔っ払って帰宅した父が仰向けのままマーライオンと化していたときは、泉のように溢れる吐瀉物に「こうなってはいけない」と強く誓いました。というか、今考えるとこれって窒息の恐れがあるので危険なんですよね。

 

 あのときの印象が強すぎて、私は20歳を過ぎるやいなや、自分の適量を知り、どうすればスマートな飲み方で酒を楽しめるか急いで取得しました。

 そのうちバーに通うようになったために、なおさら酔い方の善し悪しを目の当たりにする機会が増えたせいでもあります。バーって、飲み方の格好良さ、格好悪さが、やたら目立つんですよね。


 父は老後になると、飲み方も大人しくなりましたが、年に一度くらい派手に失敗をやらかすようになりました。

 数年前は真冬に酔って帰って家の前の階段で転び、頭を打って流血したのですが、そのまま一階のリビングの隣にある和室(誰も使ってない部屋なのです)でごろ寝した父。

 翌日の昼まで爆睡していたようですが、なかなか起きてこない父が頭から流血していることに家の人が誰も気づかず……。発覚したときには頭がナメック星人のように腫れ上がっていたという……。数日入院となりました。


 別の年には、ほろ酔いのままお風呂に入り、うたた寝して頭を打ったらしい父。

 傷は小さかったのですが、アルコールを摂取した上に湯船に浸かっていたため、たらたらと血が流れ続け、湯船を茶色く染めたこともありました。

 あまりに遅いので様子を見に行った私の驚きたるや……。「飲んだらお風呂に入るな、血があれだけ出たんだから少しは水分をとって寝て」と叱ったのですが、彼は「平気平気」と小さな絆創膏をぺたんと貼って就寝したのでした。


 今では離れて暮らしているのできちんとスマートに飲んでいるか心配です。

 本当、適量でお願いしたいですねぇ。

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