羽化登仙

 『羽化登仙うかとうせん』とは、酒に酔って、うっとりとした気分になることのたとえ。体に羽が生えて仙人となり、天上の仙界に登っていくような気分の意から。出典は蘇軾そしょくです。


 なにせ一番最初に書いたweb小説がバーを舞台にしたものですから、私は大の酒好きです。母は普段滅多に飲まないし弱いけれど、父はあればあるだけ飲んでしまう人ですので、彼に似たのでしょう。


 ただ残念ながら私は彼のように酒豪ではなく、カクテルやウイスキーなら三杯が限度。不思議なことにビールだとジョッキ二杯で充分。

 それ以上いくと世界が回ってしまうので、羽化登仙になるためにどの酒を選ぶかが勝負なのです。厳選したその夜の酒は、いつもの一杯だったり、初めて試す味だったり様々ですが「次は何を飲もう」と考えるのは本当に楽しかったです。


 『羽化登仙』と聞いてまず思い出すのは、夢枕獏さんの小説『陰陽師』でしょうか。

 作中で安倍晴明と源博雅が毎度二人で酒を酌み交わすのですが、これがものすごくいいのです。

 自然に近い庭を眺め、四季と、旬の肴と、そして月明かり。そういうものを酒に映して飲む姿には、本当に憧れます。会話がなくても、いえ、むしろないのがいい。酒に酔うのではなく、酒のある瞬間に酔うっていいですねぇ。


 カクテルやウイスキーなど、酒そのものをよく知らなくても、結局は酒と一緒に楽しめるものを好きになれればいいんじゃないかなと思います。

 飲んでいる時間そのものを愛でてもいいし、一緒に楽しむ料理にこだわるのも楽しいですし、飲みながら観る映画や聴く音楽でもいい。誰と飲むかにこだわってもいい。


 酒を飲んでも本当に辛いことは忘れられないし、むしろもっと惨めになるものですが、逆に幸せなことがあったときは、これ以上ないくらい天上に連れていってくれますからね。うん、だから私は酒が好きなんだと思います。


 現在、第二子の出産を控えているところですが、卒乳したら最初の一杯を何にしようか、今から楽しみです。

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