初物七十五日
『初物七十五日』とは、その年はじめて取れた季節の食べ物を食べると、寿命が七十五日延びるということ。初物のうまさ、新鮮さを珍重することば。
夫は野菜直売所が大好きで、『大人の駄菓子屋』と親しみを込めて呼んでいます。群馬県に来るまではほとんど野菜直売所に縁がなかったので、あまりの安さと新鮮さに驚いたものです。
あちこちに無人の直売所もあるんですよ。野菜がどんと置いてあって、『ここに代金を入れてください』という箱が設置してあるだけの。あのシステムを初めて見たときは「勝手に代金を支払わないで野菜だけ持っていく人っていないの? そんなに人を信用していいの?」と、目を丸くした記憶があります。道徳観念の美しさに感動しました……。
野菜直売所で一番の利点は、今何が旬なのか、出始めなのかわかるということ。
もちろんスーパーに通っていてもわかるんですけれど、基本的に通年出回っている野菜がどんどん増えていますからねぇ。ありがたいことですが。
それに直売所の野菜は、枠にはまっていないというか、エネルギッシュなものを感じます。
宮部みゆきの作品に『初ものがたり』がありますが、初物のいいところはやっぱり季節を感じることですね。
小説では鰹、鮭、柿などが登場しますが、言われてみれば北海道でも鮭が遡上する川のそばに住んでいたので、川面に光る背びれに季節を感じたりしました。
けれど、北海道にいた頃は薬局に勤務していたくせに不摂生だったもので、あまり初物を食卓にはあげていませんでしたね。
というより、ほとんど自炊していなかったと言えます。
当時結婚していた相手はバーテンダーでしたから、完全にすれ違い生活で、一緒に家で食事をすることがまったくといっていいほどなかったのです。
彼は商売の付き合いもあって、店を経営する友人たちの店で食事をすることを優先していましたし、作り置きしても家では食べません。
そうなると、自分一人のために作るのも面倒で私もつい簡単に済ませたし、そこらじゅうに外食の店が溢れていたし、それなりにお給料もいただいていたので好きに食べたいものを食べたいときに食べていた感じでした。
ところが群馬県に嫁いでからは、夫の夕食を用意しなければならないし、外食も減ったので、毎日料理をする生活になりました。そうなると、必然的にスーパーに並ぶ食材や野菜直売所で季節を感じることが増えます。
春夏秋冬の初物を見かけると、心が躍りますね。どう料理しようかワクワクしますし、食卓にあげると華やぎます。それに、夫も「お、もうそんな季節か」という顔をします。
菜の花、うど、山椒、新タマネギ、銀杏……いろいろありますが、食材で季節を感じることができるようになったのは嬉しいです。
今までは一年中変わり映えのない食卓だったのに、そうやって変化をもたらしてくれる初物を楽しむことができるようになったのは、こちらに来て良かったことのひとつです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます