あちら立てればこちらが立たぬ

 『あちら立てればこちらが立たぬ』とは、物事をどちらにも都合よくいくように、うまく両立させるのは難しいものだということ。


 北海道では、薬局の仕事についていました。

 そのとき、人との距離のはかり方を掴みかねて、精神的に疲労していた時期があります。個性の強すぎる同僚や上司とも、お客様とも距離感を保つのが難しく、更に職業柄、生死にかかわる出来事を見聞きしたり、カウンターの向こうの「痛い・辛い・苦しい」を勝手に背負ってしまって重苦しく感じたり。


 そんなとき、人と顔をつきあわせたくなくて、パチンコやパチスロをしていたことがあります。

 ギャンブルといえば雀荘などもあるでしょうが、とにかく人を相手にしたくなかったのです。顔を合わせるのも、話すのもしんどかったのです。SNSも気晴らしにはなりません。だって向こうでやりとりしているのはやっぱり人間ですものね。

 趣味はたくさんあったのですが、当時一番何も考えず、簡単で、人にも向き合わずに済むと思いついたのが、パチンコやパチスロだったのでした。

 最初は抵抗がありましたが、一度入ってしまうとスリルや損得はそっちのけで、相手は機械だから遠慮も何もいらないし、隣の話し声すら聞こえない騒音の中、誰も自分を気にしない奇妙な空間の中でぼうっとしているのが精神的に楽だったのです。


 ギャンブルをする人々を観察するのも興味深かったです。

 賭け事をする人の心理とか、パチンコ店の流れとか、見てみないとなかなかわからないものですからね。

 食堂のパートさんと仲良くなったりもして、ちょっとしたほっとするやりとりもありました。

 それに、ギャンブルの様子を小説に書こうと思えば書けるようにもなったのは収穫だったと思います。


 でもねぇ、時々はお金は増えたりもしますが、もちろん当たり前のように減りますし、煙草臭くなるし、騒音で耳鳴りはすごいし、そのうち肩こりや腰痛もしてくるし、目は疲れて、最初の頃は目を閉じるとリールという図柄が描かれている部分が回る残像まで見えていましたね。


 いいことばかりだったら、みんなギャンブルしますよね。

 ギャンブルってあちらを立てたら、絶対にこちらが立たないものの一つだと思います。

 今は執筆することが一番の心のよりどころなので、あの頃のように追い詰められた精神状態になっても、ギャンブルをすることはもうないと思います。web小説に出会えて本当によかったです。

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