米の飯より思し召し

 『米の飯より思し召し』とは、ご馳走してくれたり物を頂戴したりするのも嬉しいには嬉しいが、それよりもそれをしてくれたという気持ちのほうがずっと嬉しいということ。


 私が群馬県に嫁いだとき、義実家のほうはちょっとした騒ぎだったようです。

 夫は四十をとうに過ぎていましたし、ずっと独身でいると宣言してきたので、「まさか本当に結婚するとは……!」と周囲を驚かせたのでした。

 ある親戚の家では「うちの娘も四十過ぎてまだ嫁に行ってないけど、なんだか希望の光が見えてきたよ!」と喜ばれたそうです。


 姑は私が実際に挨拶に行くまで結婚話を信じていなかったそうです。

 初めて会ったときの目をまん丸にした姑の顔、忘れられません。玄関で数秒、言葉を失って突っ立ってましたね。

 あのときはどうしてそんなに驚いているのか不思議だったんですが、「本当に嫁がきた!」という事実を必死に脳内で処理していたのですね。


 挨拶に行った日、姑は張り切ってご馳走を用意してくれ、『結婚おめでとう』と書かれたホールのケーキまで食卓にあがっていました。

 夫は生クリームが苦手だし、舅も姑もケーキを食べないので、つまりはそのケーキは私一人で食べるために用意されていたのです。甘党なので嬉しいし、美味しかったけれどなにせ量が量でしたから驚きました。でも、その気持ちを思うと、まさに『米の飯より思し召し』ですね。


 そしてちょっと離れた街に住む夫の妹夫婦もお祝いしてくれたのですが、彼らが夕食に予約してくれた店がカニ料理専門店だったのです。

 北海道から来ると聞いて「北海道の人ならみんなカニが好きだろう」と考えたそうなのですが、実は私……カニが大の苦手。

 『北海道暮らしなのに、魚介類もカニも苦手なの?』と目を丸くされましたが、それって『インド人は毎日カレー食べてるんじゃないの?』とか『北国育ちなのに寒がりなの?』とかそんな思い込みと同じですからね、と思わず脳内で突っ込んでました。

 しかしながら、彼らも心から歓迎してくれて、夕食の店もあれこれ悩んで選んでくれたんだなぁというのが伝わって、本当に嬉しかったです。


 結婚っていろんな形があると思います。けれど、どんな結婚にしろ、結局は周囲の人々に祝ってもらえる、笑顔の溢れる結婚であればいいんじゃないかなとしみじみしました。

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