千里も一里
『千里も一里』とは、恋しい人のもとに行くときは、たとえ千里の道のりでも一里くらいにしか思われないほどで、どんなに遠かろうとまったく苦にならないということ。まぁ、ロマンチックですね。
遠距離恋愛で『千里も一里』だったなんて胸を張って言えていればいいんでしょうが、私の場合、恋しい人のもとへ行くことよりも、飛行機に乗りたいあまり、まったく遠距離恋愛が苦にならなかったのでした。
夫は大の飛行機嫌いです。それはもう、筋金入りの。
北海道に住む私の両親への結婚の挨拶は、結婚してからでした。本当なら結婚前に行かなければならないのですが、どうしても飛行機に乗れなかったのです。
たった一度だけ北海道に行ったわけですが、行きのフライト中はずっと隣で目を閉じ、まるで心の中で念仏を唱える修行僧のような顔をしていました。もちろん、一言も喋る余裕はなし。ただし、機体が上昇したときだけ「うわわわわわ」という小さな呟きが聞こえてきましたが。
私は彼とは正反対に、飛行機に乗るのが大好きなのです。
空港にいるだけで、すごく心が躍ります。といっても、機体が好きなわけではなく、『ここからどこへでも行けるんだ』という世界への道が開けているような開放感と自由さが心地良いのです。もっとも、「お金があればの話だけど」という考えもよぎりますがね。
遠距離恋愛中、夫は一度も北海道に来ていません。毎回、私が群馬県に行っていました。たまには彼が来てくれてもいいのに、という考えはなし。むしろ私が飛びたいんですからねぇ。
土曜日はお昼で仕事が終わる職種でしたので、急いで仕事を片づけ、決まって土曜日の午後にフライトするんです。そして空港からリムジンバスに乗り、夜中に群馬県へ着きます。
仕事は休めないので、帰りは必ず日曜か、祝日の月曜でした。夕方に空港へ行き、夜のフライトで帰っていました。
周囲の人は「慌ただしいね」と呆れていましたが、私はフライトできるならまったく苦にならなかったのですね。そうでなければ結婚してないかも。
でもね、そんな夫も、帰りだけは空港まで見送りに来てくれました。今考えると、空港で別れてから、とぼとぼと電車に乗って群馬県まで戻る道のりは侘びしかっただろうし、出不精の彼にしては頑張ってくれていたんだなぁと思います。
面白いのは、彼が群馬県に戻った頃に毎度、「北海道に着いたよ」という私からのメールが来るんですって。そのたびに呑気な私の様子に拍子抜けするやら、「飛行機早いな、すごい」と感心するやら。
彼は今でも北海道に行って魚介類をたらふく食べたいけど飛行機に乗りたくない葛藤を抱えているそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます