去る者は追わず、来る者は拒まず

 『去る者は追わず、来る者は拒まず』とは、私のことを信じられなくて、私のもとを去ろうとする者を、無理に引き止めるようなことはしないし、また、私のことを信じてやってくる者は誰でも決して拒まない。去る者来る者いずれも、その人の心にまかせて、決して無理強いはしないという度量の広さを示す言葉です。出典は孟子なんですね。


 13歳で山形県から北海道に引っ越したとき、この言葉を思い出していました。というのも、転校への温度差がすごかったのです。


 山形県で通っていた中学校は転校というものがほとんどありませんでしたから、最後の登校日は永久の別れのようでした。

 今まで話したこともないような別のクラスの子からも寄せ書きやお手紙をたくさんいただき、担任の先生やクラスメイトが涙ながらに、校門まで見送ってくれました。一人でとぼとぼと帰りながら、周囲の景色を目に焼き付けるように帰ったのをよく覚えています。


 ところが、引っ越した先は空港と陸と空の自衛隊の基地がある街で、転校なんて日常茶飯事。転校生なんて珍しくもなく、「へぇ、あの子が転校生? ふぅん」と、あっさりと受け入れてもらえました。

 それはがちがちに緊張していた私にとってありがたいことでしたが、拍子抜けしたのも事実です。


 北海道というより、その街への印象かもしれませんが、いろんな出身地の人々がいて、いろんな文化が混ざり合い、外国人の方も山形よりはよく目にしたせいか、『ここはまるで日本のアメリカだ』という印象を受けました。


 そのとき、本来の意味合いとはちょっとずれがありますが『去る者は追わず、来る者は拒まず』という言葉を思い出していたんですね。転校していく人がいても、みんなあっさりしたもので、驚いたんだと思います。


 北海道の人は合理主義だなんてよく耳にしますが、私はそういうところが風通しがよくて、とても好きです。

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