第4話 ③盛り付け、出来上がり!


混ぜ合わせが済んだら『砂漠イカ』のイカ墨をほどよくかける。


『砂漠イカ』は砂漠に潜む巨大なイカで、意外に温厚な生き物だ。


主に水を主食としていて、体のほとんどは水で出来ているので別名『水イカ』とも呼ばれるらしい。


寿命は5年ほどで「砂漠サメ」と一緒で、死期が近づくと緑の大地で最後を迎える。


オスとメスのつがいで、年に一度交尾をして、大量の卵を生む。


卵は水分と栄養を多く含んでいて、外敵に多く狙われる為、大人になる個体はとても少ないという。


時より『砂漠イカ』が庭先でお目にかかる。


死ぬと大量の水とイカ墨だけが残る。


大量の水が大地に染み込んで、再び巡っていく様はなんだか考えさせられる気がする。


イカ墨は抗菌作用が強くて甘味成分が豊富で匂いは甘い、かつ汚れ落ちが良いから油汚れや黒ずみ掃除にも大助かりだったりするし、芳香剤の代わりにもなるから重宝している。


料理は盛りつけが済んで、ボクはリダに声をかけた。


「できたよー!」

「なんだこの匂い?嗅いだことのない匂いだ...それに美味そうだ」


リダは涎を垂らしながらボクが促す椅子に腰掛けた。



新鮮なトマトの香りは砂漠イカのイカ墨の甘味成分とマッチして鼻あたりも良い。

砂漠イカの肉は塩気とトロ味で締まっていて、口に入れると噛むまでもなく溶けていくほどの柔らかさで、触手ネギと一緒に食べるとシャキシャキ感とトロ味で美味しさは倍増だ。

これぞ『もぐもぐトマトときゅうりの砂漠サメ盛り合わせスペシャル』だ。


「よし食うぞ!私はドラゴンが何匹束になろうとコレは絶対食うぞ!!」


じゅるりと舌なめずりするリダ。


それでもボクはおずおずとリダを制した。


「ごめんリダ、その前にお願いがあるんだ」


「ん?なんだよ...またお預けか?お前も食っちまうぞ?」


ジト目でリダが睨んでくる。


うぅ、ちょっと怖いけどコレは譲れないんだゴメンよ。


「リダ、食べる前に手のひら同士を合わせて...いわゆる呪文みたいな...決まり文句を言って欲しいんだ...コレは死んだ両親とずっとしてきたことで、コレをしないと食べれない...」


「それはお前達人間にとって大事なことなのか?掟みたいなものか?」


「他の人達もドラゴンも知らないけど、ボクには凄く大事なことだよ...たぶんリダの言う掟みたいなものだと思う」


「...我々、ドラゴンの中にはこのような掟がある...『巣に入れば巣に従え』とな。早く食いたいが、掟には逆えん。言ってみろ」


リダは頭をボリボリ掻いて、面倒くさそうな顔をしていたけど根は悪い人...じゃなくてドラゴンじゃないみたいだ...本当に出会えてよかった。


「ありがとう...じゃあ手を合わせて、こう言って...『いただきます』って」


「変な呪文だな?こうか?い、いただきます!」


「うん...他の生き物の命を頂く、から『いただきます』おかげでボクはずっと生きてこれたから。『感謝は忘れちゃダメだよ』って父さんも言ってたし」


「よい言葉だな」


「え...?」


「すまぬ、無礼だったな...そのような意味合いを持っていたとは知らなかった。私は少し人間を思い違いしていたかもしれない。今日、スカイと出会えてそれを実感した...いいものだな。いただきます!」


「ううん!分かって貰えて嬉しいよ。じゃあ僕もいただきます!!」


リダはもう面倒くさそうな顔はしていなかった。


むしろ嬉しそうに笑みを浮かべていた。


その日の食事はいつもより美味しく感じた。



つづく


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ドラゴンとボク 絶望&織田 @hayase

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