ケーキと紅茶のマリアージュ

愛すべき、古典・伝統・郷土菓子

ピーチ・メルバ

 すっかり、夏らしくなった7月

 スーパーに行く人は知っているでしょうが、瑞々しい白桃の季節がやってきました

 青果コーナーを横切るだけで、鼻をくすぐる甘い香り

 たったそれだけで、人々は決して安くもない白桃に手が伸びてしまう

 だからこそ、非常に痛みやすく、デリケートな果物と知っていながらも、お店はたくさん、たくさん並べるのだ

 だって、桃の花言葉は「天下無敵」なのだから――


 と、そんな桃をふんだんに使ったデザートがある

 

 Pecheピーチ Melbaメルバ(仏語だと、Pêcheペーシュ Melbaメルバ


 時は1892年、ロンドンのホテル・サヴォイのシェフであったエスコフィエが、ある歌姫に捧げた冷たいアントルメ

 

 構成としては難しくなく、ガラスのクープにバニラアイスクリーム、その上に半割りにした桃のシロップ煮コンポートを乗せ、仕上げに木苺フランボワーズのピュレを注いだもの(ピュレとは、果物などをミキサーにかけて裏ごしたものです)


 これをいたく気に入った歌姫がデザートの名前を訊ねたところ、

 「ピーチ・メルバと呼ばせて頂ければ光栄です」

 と、シェフが答えたのが名前の由来とされている


 その歌姫の名前はネリー・メルバ

 そう、これは彼女の名前を模したスペシャリテなのである


 しかし、現代においても料理に著作権は存在しない(特許が取れるような、特別な製法を用いている場合は別)

 その為、このピーチ・メルバという名前は紅茶やリップクリームなど、至るところで見られてしまう


 それどころか構成レシピまでも勝手に変えられ、様々なアレンジが加えられてしまっています

 

 一番多いのは、お持ち帰りできるようにアイスクリームの部分をババロアやムースに変え、白ワインか桃のジュレをかけたもの

 基本的にはバニラムースだが、お店によってはチーズや桃のムースといったアレンジも見られる


 次に多いのは、桃の氷菓グラニテと白ワインか桃のジュレを足した、より涼しげに、より豪華に仕上げたアレンジ

 また、触感のアクセントにメレンゲやチュイールといった焼き菓子を敷いたり、添えたものもある

 他にも、アイスクリームまで白桃にした桃づくしなど(白桃のコンポート、白桃のアイスクリーム、白桃のグラニテ、白桃のジュレ)


 まぁ、白桃のコンポート、アイスクリーム、フランボワーズがあれば、個人的に文句はない

 ただ、スポンジケーキ、生クリーム、白桃のコンポートでピーチ・メルバを名乗るのは止めて欲しいです

 


 さて、ここからは本題のマリアージュ

 このピーチ・メルバに合わせる紅茶は何がいいだろうか?


 まず、無難なのは桃のフレーバーティーでしょう(ピーチメルバの紅茶も可)

 これなら喧嘩することなく『桃』を堪能できます

 また、桃のフレーバーティーは定番ですので、多くのお店でお求めいただけるかと(F&Mフォートナムメイソンといった、イギリスブランドでもある)


 次に、アールグレイなどの柑橘系

 これは良いアクセントになる

 また、フランボワーズの酸味とも相性がいい

 

 他にも、ライチのフレーバーも悪くない

 それとジャスミンティーも意外に合う

 どちらも、桃と相性がいいのだから


 ノンフレーバーなら、ダージリン、キームン、ヌワラエリアをストレートで合わせていきたい

 やはり、フランボワーズの酸味だけでは、桃とアイスクリームの甘さにやられてしまう

 かといって、桃の上品な甘さを殺してしまうような強い個性の紅茶はいただけない


 そして、肝心なことだがアイスティーかホットティーかも重要である

 

 個人的にはアイスティーがいいと思うけど、ピーチ・メルバを堪能できるお店はカフェかレストランと空調が効いた場所という点が見逃せない

 実体験ですが、私はライチフレーバーのティーソーダと合わせてピーチ・メルバを楽しんでいました

 最初の内は暑い外から来たものだから快適だったんだけど、紅茶を半分くらい飲んだところで、ホットにすれば良かったとちょっぴり後悔


 そういったパターンもあるので、いちがいにアイスティーが良いともいえない

 それにピーチ・メルバを出しているお店がどれほど紅茶を用意しているかという、現実的な問題もあります


 少なくとも、ダージリン、アールグレイはあるでしょう

 キームン、ジャスミンは……怪しいかな?

 フレーバーティーも桃はあっても、ライチは……ないかも

 

 それでも、ピーチ・メルバにコーヒーを合わせるのはないでしょう

 食後に飲むのならともかく、一緒に飲んでは桃の風味が台無しです

 

 

 ※今回は自宅で楽しめるデザートではなかったので、曖昧な回答をさせていただいました

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