序章2 私たちは光を求めた


 私たちが住むこの世界には名前がなかった。

 皆、突然いざなわれたこの世界から元の世界へと、すぐに帰れると信じていたから誰もつけなかったのだ。ただ、《この世界》……と呼び続けていた。信じて待ち続け、もう数十年も経ってしまっている。


 里の外れにある女神の洞窟の前で私は、私と同じ里を守る戦士である三人と共に、女神様に認められたただ一人の人間であるババ様が出てくるのを待っていた。

 ババ様が洞窟からゆっくりとした足取りで出てくる。その身体に洞窟の内部から連れてきた神聖な空気を纏って。


「女神様がお告げを下さったよ」


 落ち着いたババ様の声に、私たち四人は彼女の周りを囲んだ。ババ様は私達の中の誰を見るでもなく正面だけを見据える。


「私がこれから言うことは、あんたたち四人の中だけにしまっといておくれ」


 洞窟の中に祭られ、長年私たちを見守りつづけてくれ、七十年に一度、私たちに道を示してくださる女神様の声は、女神様に認められた人間にしか聞くことができない。女神様のお告げの内容を知らされるのも、女神様に認められたババ様が決めた人間にだけだ。


「以前からも言ってあったが、女神様にお訊ねしたことは、この世界から光のある世界へ帰る方法だ。実行する者は一人」


 ババ様は、私たち四人を順番に眺めていき、最後に視線を私で止めた。


「そして、この任務はお前が適任だ、ルティ」


 私はババ様の言葉に強く頷く。そうして空を見上げた。

 何度見上げても、いつも黒い空。どこまで飛んでも終わらない、黒い空。

 私の一番大事な人は帰りたいと言った。青い空がある世界へ。太陽の光がある世界へ。私も見てみたいと憧れた。

 腰に下げている剣の柄を、そっと大事に、握り締めた。


 ――父様。私がもうすぐ見せてあげるよ。



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