最終話
……あれから5年後。
───西暦2302年の1月──
時は今、《銀河惑星連合》の時代である……。
いや……その時代も今や、終焉の時を迎えつつあった。
《【HOP】ゲート》への隕石衝突事件を境に、テロや暴動事件が各地で度々頻発するようになり、その後もハルカ達は、その対応に追われる日々を過ごしていた。
――そして今年、西暦2302年の3月、歴史的事変は起こる。
本来 《オーバードライブ航法》は、その航法性質上の危険性から、州合体の
その使用禁止エリア内へ、突如として、謎のステルス型 《高機動型【HOP】ゲート》3基が現れ、度々の警告を無視し強硬不正侵入を犯して来たのだ。そして、《銀河惑星連合》の首都惑星ファシスへと差し迫った。
『警告する! こちらは、《銀河惑星連合艦隊》である。直ちに、ここより退去せよ。命令に背いた場合は、速やかに砲撃を開始する。
繰り返す。こちらは、《銀河惑星連合艦隊》である』
しかし……その警告を全く無視し、《高機動型【HOP】ゲート》が持つ亜空間ゲートより、次々と光を発しながら所属不明の大艦隊が出現し始めた。更に、警告を発した銀河惑星連合艦隊の防衛拠点を全て把握していたかの様に、その所属不明の各艦より宙戦闘機UAFAが続々と発艦し、防衛側の各拠点へと向かい一斉に向かいゆく――。
首都惑星を守る、軌道上の僅かばかりの艦船と衛星から駐留艦隊が慌てて迎撃に向かうも、先制攻撃を一方的に受け、瞬く間に次々と爆沈。その日の内に、首都惑星ファシスはその支配下に置かれ、多くの民間人及び政府関係者などが人質とされた。
そうして、同日、次の様な声明が全宇宙へ向け、発信されることとなった。
『資本主義支配体制という正義の名の下に行われてきた、既得権益のある強者たちによる、合法的、経済植民政策と金融政策。
それにより、幾ら働いても働いてもそれ以上に搾取され続ける我ら貧しき惑星の同胞たちよ……。今こそ、立ち上がるべき時が来たのだ!
これまで、支配階級たる一部の知的・既得権益を持った富裕層と大多数の貧困層に分けられ、多くの《植民惑星》ともいうべき〖州合体〗を含めた我々は、ただただ搾取される側として甘んじ。長きもの間、堪え忍ぶばかりの日々を送るばかりであった……。
しかし! もはや、それは限度を遙かに超えたのだ!
富ある者らの、過剰とまで言える豊かな生活が守られ。我ら、貧困層との差別的格差は、改善されることもなく広がり続け。本来ならば、我らの権利を平等に扱うべき連合政府は、今や、力ある者達の為にあるかの如き様相である。
その典型とも言うべき、有言不実行たる富の再分配。それでありながらも、富裕層にばかり有利となる、愚劣極まる政策の数々……。
最早、我々の我慢は今、極限に達したのである!
よって、ここに新たなる連合体の発足を宣言する。
《テラ自由共和制連合》
格差なき自由。より豊かなる、社会生活。我々は、そうした母なる地球時代に立ち帰り、その実現を目差すことをここに誓おうではないか!』
その宣言後、首都惑星ファシスに住む多くの資産家達は、その財産を強制没収され。従わぬ者は、容赦なく身柄を拘束されてゆく。
代わりに、多くの住民には宣言通り、望む・望まないに関わらず、富の再分配が行われた。
しかしらその恩恵を受け入れた時点で、最早それまでの自由はなくなったことになる。何故なら、黙ってこのシステムに従うものだけに与えられる権利、再分配であったからだ。
これはつまり、軍事力を背景とした、事実上の共産主義支配体制の始まりを意味していた。まさに、自由共和制とは名ばかりの独裁的・武断政治である。
この時、首都惑星ファシスの住民を人質とされた《銀河惑星連合》所属の艦隊は、その為にどうすることも出来ず。新・連合体(テラ自由共和制連合)所属の艦隊が向かってくると、ただただ撤退を余儀なくされた。
何故なら、鎮守府を遠隔管理していた首都惑星ファシスを占領されたことにより、防衛拠点・要塞としての機能を全て停止されていたからだ。
それに遅れて、ハルカ達が居る《【HOP】エリア7:チャリアビティーポリス》へも、新・連合体所属の艦隊は迅速に攻め込んでくる。
が、その時既に《銀河惑星連合艦隊》が撤退していた《【HOP】施設郡》の占領は、即日の内に果たされ。しかし、ハルカ達を含む多くの職員はその姿を消していたのである。
《【HOP】中央管理管制室》内は、以前のような活気も賑わいもなく。静まり返り。また更に、多くのデータカードが抜き取られ。施設郡としては、全くの無傷でありながらも、HOPシステム全体を束ねるだけの機能は完全に失われていた。
事実上、《【HOP】中央管理管制》としての機能をシステム面で復旧させるのに、1年以上は掛かるだろうと技術者らによって判断され、上に報告される。
新・連合体の代表はそれを聞くなり、大激怒したという……。
しかし、それで怯むこと無く。周辺の〖州合体〗を次々とその傘下へと収めていった。
例え《【HOP】中央管理管制》が持つ運航システムが機能しなくても、《【HOP】ゲート》がそこにある限り、人によるマニュアル操作にて出入り自体は可能であったからだ。
但し、事故リスクは格段に上がる。
事実、各所で事故が多発したが、新・連合体の指導者は構わず、州合体への進撃を強硬に進め支配力を高めてゆく――。
そうして……それから、僅か7ヶ月後のことである。
《【HOP】Area65:フロンティア》から約1光日の宙域に於いて、50年程前に発見し。新たなる州合体の
その星の名は、惑星クレイドル。
最新の電脳サーバーホストを、惑星地下深くにある大型のドーム状に建設設置し、最新兵器の開発も極秘裏にここで行われ続けていた。
この惑星に今、新型のマスター級・戦略指揮艦船ラーベラを主幹とした数百隻もの艦船が大集結しつつあった。そこへ更に、6基もの超巨大な《高機動型【HOP】ゲート》が到着し、大喝采のなか戦列に加わる。
その同時刻、主幹ラーベラ艦内にある《戦略・戦術中央オペレーション・ターミナル》内にて。この艦隊の総司令官の傍らの席に座る神垣ミヤの姿があった。その瞳は今、VRモニター上に映し出される凄然と並ぶHOPゲート群へと向けられている。
そんな神垣ミヤへ、総司令官は横目に見つめ語り掛けた。
「HOPの運用次第で、戦況は、一変すると言っても過言ではない。近代戦における、亜空間ゲートの役割は、それ程までに重要であるということだ。
君が推薦したあの者は、それだけの責務が本当に全う出来るのかね?」
「……」
問われた神垣ミヤは、総司令を真剣な眼差しで見つめ、迷いも無くこう答える。
「はい。少なくとも私は、十分果たせるものと、そう確信しております」
「……」
その返答を得て、総司令は軽く微笑み満足気に頷く。
「そうか……わかった。君の言葉を、信じることとしよう」
丁度その頃、6基の《高機動型【HOP】ゲート》を管理管制する戦略級HOP用指揮艦船フロージア室内にて、1人の女性が、関係職員を前にして軽く敬礼をしたあと、真剣な面持ちで言葉を発していた。
「わたくしは、この度、6基の亜空間ゲートの運用を任された、未来ハルカです。
我々はこれより、強奪された自由を再び取り戻すが為、全力をもって、艦隊運用のバックアップを行っていくこととなった!
ついては、是非、皆の御協力を願いたい。よろしくっ!!」
そこに居る管制室内の多くは、元々 《【HOP】中央管理管制室》に居たメンバーばかりである。
ハルカの言葉を受け、大歓声と共に拍手が一斉に沸き起こった。
それを受け、ハルカは小さく肩を竦め、微笑み返した。
こうして……失われたモノを再び取り返すが為、《テラ自由共和制連合》と《旧・銀河惑星連合》。それから新型マスター級指揮艦船ラーベラを主幹とした《クレイドル惑星共同体》との間で繰り広げられる三つ巴の激しい戦いが、今これから始まる――。
《『クレイドル』 ―
【-完-】
ここまでお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
本作品に対する、感想評価などお待ちしております。今後の作品制作に生かしてゆきたいと思いますので。ご協力のほど、どうぞよろしくお願い致します。
___________________
《破棄文章》
「あの瞬間、呆れるほどに頭ン中が真っ白になっちまってなぁ~。自分でも本当に情けなかったよ。
何せあの時は、な~んにも出来なかったからなぁ~……ハハ」
「で、でも! それは仕方なかったんですよね?
フェミクさん達から聞きましたが、その時にはもうどうしようもなかったんですよね?
だったら、仕方がないじゃないですか! そこまで気に病む必要はないですよ!」
先輩らしくない重苦しい後悔に満ちた表情とその言い回しに、私はとても不安を感じたのだ。
そんな心配がる私の表情を、先輩は優しげに見つめ、私を安心させたあとまた小さく笑み言う。
「まあ、ね……あの時は確かに、頑張ったところでどうすることも出来なかったかもしれない。
でもな、ハルカ。
私はたまに、その当時のことを振り返る度、こう考えることがあるんだよ」
「あの……なにを、ですか?」
「《仮にもし、それが【対応可能】なトラブル》だったら。あの時の私は、『ちゃんと的確に対応できたのだろうか?』ってね……」
「――!?」
「確かにあの時は、対応困難な難しいトラブルだったよ。いや、確かに手遅れだったさ。今考えてもな。いや、今だからこそそう冷静に考えられるようにもなった。
しかしそれは、どこまでいっても単なる結果論というモノさ。
わかるか?」
「……」
この時、私はもう何も言い返す言葉をなくしていた。それだけ神垣先輩が仮定とした内容は、自分自身にとっても大きくのしかかってくるもはや他人事ではない問題だったからだ。
今となっては逆に私の方が落ち込み、深いため息をその場でついてしまうほどで参る。
神垣先輩はそんな私を横目に見つめ、気を遣ってくれたのか話を変えてきてくれた。
『クレイドル』─時空のハルカ─ みゃも @myamo2016
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます