煤だらけ

 二年前の冬。

 長女と次女が、クロスカントリースキーの全国中学生大会に出場した。会場ははるか遠い青森県。だけど、二人そろって出場しているんだからと奮発して応援に行くことにした。

 二人は大会の数日前から現地入り。当然、団体行動。

 大会前日に行った私は気ままな一人旅。


 うわ~。なんて解放感! 子どもが誰もいない~!


 ってなわけで、大会以外の時間はレンタカーで青森を観光。目一杯楽しんだ。



 帰りの飛行機は同じ便にし、バスで地元まで帰ってくる。家に到着したのは夜の十一時。

 寝ないといけない時間なのに、二人は旅先でのことをペラペラしゃべりまくる。同じ場所に行っていても違う行動をしていたから、話したいことが山のようにあるようだ。

 そしてそれはこちらも同じこと。一人旅のことを話す。


 女子トークに盛り上がってふと時計をみると、とっくに一時をまわっている。


 うわ、もう寝なきゃ!


「明日も普通に学校やし、はよ寝な!」


 二人ともパタパタと二階へあがっていく。


 その直後。


「うわ~! お母さ~ん!」

「大変! ちょっと来て~!」


 なんで帰った早々大変? この真夜中に?


 慌てて見にいくと。


 二人の部屋がそこら中煤だらけになっている!! 真っ黒というのではないけれど、ふわふわした黒いのが部屋一面に!

 布団から机から壁に天井まで。


 うわ、普通に歩いてたけど床もだ。何が一体どうなって?


 とりあえずこの部屋では寝られないので、一階の和室に客布団を敷いて寝かせた。きっと犯人は長男。でも明日にならなきゃわからない。私もすぐに布団に潜りこんだ。




 結論から言うと。


 犯人は予想通り長男だった。

 随分手の込んだ犯行。こんなことができるのは長男以外にいないというのに、口を割るまでずいぶんかかった。その手口にはあきれるばかり。



 私たちが帰ってきたとき、その部屋は鍵がかかっていた。ひっかけるだけの簡単な鍵。チビすけが勝手に入らないようにとドアの上部に取り付けたもの。外側からしかかけれない。


 犯行が行われたのは金曜日の夕方。

 長女たちの部屋は鍵がかかった状態。長男はその部屋の鍵を開けて中に入り、ベランダから隣の部屋へ移動。廊下側から長女たちの部屋の鍵を閉め、もう一度ベランダを通って部屋に戻った。

 家の内部から見た密室の完成。

 何度か廊下を通ったおじいちゃんもおばあちゃんも、まさか鍵のかかった部屋の中で火遊びをしているとは思わない。

 長男は薄暗い夕方の部屋で、食品トレイを燃やしたそうだ。暗いため、煤が出ているのには気づかなかったらしく、十枚以上燃やしたと。

 火事にならないようにと一応は考えて、ブリキの塵取りの上でしたそうだけど!


 下手したらホントに火事になるじゃないか!!


 こればっかりは繰り返されたら困るからと、丁寧に丁寧に、火事になったらどうなるのか教えたけれど。


 なかなか火の誘惑には勝てないらしく、ときどき焦げたブロックや、鉛筆が転がっていたりした。


 一年前までは。


 ようやっと理解してくれたのか、やっとこの頃隠れての火遊びはなくなったようで一安心だ。


 バーベキューや薪ストーブの火の管理等はやっぱり大好きで、必ず火の番をしてくれるけれど、それくらいで満足できるようになってホントに良かった!


 それにしても密室を作ろうとするとは、なんてやつだ。


 ・・・トリック考えさせたら面白いかも?






 




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