柿の木

 登校班の集合場所に、一本の柿の木が立っている。

 その持ち主は近くには住んでおらず、本来なら柿の実は毎年実っては落ちて朽ちていく・・・はず。



 長女や次女が小学校に通っていた頃。

 集合場所での待ち時間に、まだ青い柿の実をとってはみんなでサッカーをしていたようだ。

 初めて見たとき、


「食べ物でそんなことして!」


 と注意したけれど、毎日見にいっているわけではないのでその後も続けていたのは知らなった。後から聞くとず~っとやっていたらしい。

 登校についていってくれている民生委員のおじいさんも、落ちているものだし何も言わなかったようだ。

 子どもたちが遊ばなかった実は、落ちて朽ちる。



 それが、長男が小学校に入学した年から変化した。


 長男は渋柿にもかかわらず、熟した実から順にとっていっていたようだ。

 渋柿も渋を抜けば食べられることを知ったからだった。とった実は私が着く前にランドセルに忍ばせて持って帰っていたらしい。

 一度持っていこうとしていたのを「学校には持っていきません」と注意したから隠していたのだ。


 ある日、かなり遅れてしまった私は自転車で追いかけた。もう学校に入ってしまっていておかしくない時間。ちゃんと行ったのかどうかを見届けるために一応行ってみたら。長男はまだ学校の手前にいた。


 よく見ると、えっちらおっちら大きなスーパーの袋を持って歩いている。数歩歩いてはその重そうな袋をおろし、また数歩歩いてはおろし。


「何してるん?」

「!!」


 慌てて隠そうとしている様子だけど、そんな大きな袋、隠せるはずもなく。


「何が入ってるん?」

「・・・柿」

「・・・・・・」


 スーパーの袋に詰めこまれた柿。

 持って帰りたかったのはわかるけど。


 集合場所から学校まで約一、五キロ。そんななんとか進める程度の重い荷物を持て歩いてきて、帰りは更に距離が伸びて二キロになるのにどうするつもりだったのかなぁ。


 学校に行く時にはとって持っていかないことを約束して、持って帰ってあげた。


「もうとったら駄目だよ?」


 一応よその木だし。


「おっちゃんはいいって言ったのに」


 なかなか納得しない長男。

 すでにこんなにたくさんとっているのに、まだ欲しいのか。


 なんとか約束をして、しばらくとらなくなったと思ったら。



 秋の終わり。

 民生委員のおじいさんが、箱入りの渋柿を家まで持ってきてくれた。

 どうやら毎日少しずつとっては、持って帰ってもらっていたらしい。

 渋を抜いた状態で持ってきてくださって・・・。


「持ち主の方もいらっしゃるでしょうし、とらさない方がいいと思ったんですけど」

「ああ、持ち主はよく知ってるし、とりにくる気もないからとってもかまわないよ」


 と許可を頂いてしまった。

 隣で聞いていた長男は、にこにこ顔。


 ・・・駄目って言ってくれた方がよかったんだけどな。母としては。


 

 本人もいる前で許可をもらってしまったので、とることは禁止できなくなってしまった。仕方なく、登校時は駄目。帰りならオーケーと約束をした。




 あれから毎年秋になると、毎日毎日柿を持って帰ってくる。

 長男がそうだから勿論次男、三男も。

 早めに集合場所に行き、待ち時間に木に登ってとっては根元に集めて帰りに持って帰ってくるのだ。




 朝から木登り子ザルたち。


 サザエさんみたいに、「こら~っ」って怒鳴ってくれるおじさんがいたらいいのになぁ。

 



 

 

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