カメムシ

 カメムシと一口に言ってもものすごくたくさんの種類がいるらしい。その中で悪臭を放つのはほんの一部なんだそうだ。


 私が子どもの頃、カメムシの大量発生が一度あって、マンションの壁がカメムシだらけになったことがある。そのときのカメムシがカメムシなんだと思っていた私は、田舎に引っ越してきて別のカメムシに遭遇した。


 私がカメムシだとずっと思っていたのは、マルカメムシという体長五ミリくらいのコロンと丸い虫だったが、田舎にやってきて出会ったのは、その倍以上のサイズ。

 クサギカメムシという種類だ。体長十三~十五ミリのそいつは、秋口になると越冬のため窓から家の中へ侵入してくる。


 引っ越ししてきた当初は家族全員大わらわだった。

 

 掃除機で吸って退治してしまい排気口からの臭いに辟易したり、窓のサンにびっしりついているのを発見して絶叫してしまったり。


 田舎の家屋に住むでっかい蜘蛛をも素手で触り、「蜘蛛にだって家族がいるんやから」と逃がしてやっていた長女でさえも、このキョーレツな臭いを発するカメムシには冷たかった。



 ところがそんなカメムシを、食べた奴がいる!


 当時一歳半だった三男。目についたものをなんでも口に入れるお年頃。


 にこにこ愛らしい笑顔でお口をもぐもぐさせている。


「あー、また何か食べてる。何でも口に入れたらダメだよ。べーして」


 いくら言っても出そうとしないので、人差し指をつっこんで出してみると。


 なんと! カメムシの半身だったのだ‼


 ひぃ~~~!!


 思わず自分の指を見つめて叫びそうになったのだが、恐怖はその後からやってきた。


 口がまだ動いてる~!

 もしや残った半身がまだその中に?


 嫌だ~! もう一回アレを触るのか!


 しばらく逡巡してしまったが、やっぱり出さないわけにはいかない。

 覚悟を決めて指を突っ込んだ。



 後から落ち着いて考えると、二回目は何も素手じゃなくてもよかったんだよな。ガーゼを指に巻くとか、ビニール手袋をするとか。

 でもあの時はテンパっててとてもじゃないけど思いつかなかった。


 あの時の恐怖は今も忘れない。

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