オタマジャクシの引っ越し

 小学校は集団登校しないといけない。地域がらなのか時代なのか。昔は自分で行っていたから遅刻しても自己責任だったけれど、今は高学年が面倒をみなくてはいけない。

 それなのに、我が家の長男は中々みんなと一緒に行けない。すぐに寄り道して止まってしまう。連れていってくれる高学年の子たちでは手に終えないほど、止まってしまうと動かなくなる。

 仕方がないので、私はいつも学校までついていっている。片道二キロ。朝から家事が進まない。

 それも毎日となると大変で、下の子がぐずったりして後から追いかけて行くこともしばしばある。


 あれは長男が一年生のときのこと。


 その日も幼稚園児の弟がごねて出発が遅れた。子どもたちだけ先に家から出す。

 集合場所で集まってからの出発なので、十分くらいの遅れなら後から走れば大概途中で追いつける。


「後から行くからちゃんとみんなから遅れないで行くんだよ」


 一応ひとこと言っておく。多分聞いていないだろうけど。


 

 ぐずぐずいう次男をなんとかなだめておばあちゃんに後をまかせ追いかける。走っていくと前方にあざの子たちの集団が見えた。


 が、長男がいない。

 

 きょろきょろと辺りを見回すと。


 いた。


 田んぼに下りて何か一生懸命にやっている。


「ちゃんとみんなと一緒に行きなさいって言ったでしょ!」


 背中に声をかけるもまるで聞いていない長男。黙々と何か作業している。


 何をしているのか見ていると……。



 ちょうど田んぼは中干しの時期。

 ほとんど水のない田んぼの数か所に水たまりがあり、そこには行き場を失ったオタマジャクシたちがひしめき合っている。すでに干上がったところには白いお腹を見せたオタマジャクシたちの死骸。


「死んでしまうからかわいそう」


 と小さな掌ですくっては広い水たまりへ引っ越しさせている。


 いや、そっちの水たまりもそのうち干からびるんですけど……。



 可愛らしいといえば可愛らしい発想だけれど。


 でも今は登校中。

 手はドロドロ。靴もドロドロ。


 ……つまみだして登校させました。


 この日から数日長男の帰りが遅かったことは言うまでもない。



 いろんな生き物を捕まえてきては死なせてしまっているくせに。

 かわいそうという気持ちと自分が殺してしまっていることは心の中でどう同居しているんだろうか。不思議だ。

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