迷子
女の子二人しかいなかった頃。動物園で初めて迷子防止紐を使っているお母さんを見た。
リュックのように背負った背中には天使の羽。そしてそこから伸びる紐を持つお母さん。
犬や猫じゃあるまいし。子どもがかわいそう。
それが率直な感想だった。
そのときは。
だけど実際じっとしない男の子が三人も四人もになってみると、あの感想は間違いだったことに気づいた。
大人しく親のそばにいてくれる子ならいい。けれど、後ろを全く省みない無鉄砲な子には・・・必要かも、と思った。
実際には買わなかったけど。
人はその立場になってみないとわからないことがたくさんあると思った。
ところで、迷子になってもうちの子どもたちはなかなか見つからない。
百貨店などに行くと、よく迷子放送がかかったりするのを耳にすることがあるけれど、あれは本人が迷子なったと自覚して泣いているのを保護されるから放送されるのだ。
うちの子は・・・どの子も迷子になったという自覚なく遊び続けるので、一度見失うと中々発見できない。
やっと発見できたと思ったら、知らない人と仲良く手を繋いで歩いていたりする。
・・・簡単に誘拐されるよなぁ。
特に長男はそれが顕著だ。人見知りがないのはいいけど、限度ってのがあるよなぁ、と思う。
長男が二才の頃。
ホームセンターの外部に展示してある花を私が見ている間に、知らないおばあさんと手を繋いでいる。仲良くおしゃべりしている様子は本当のおばあちゃんと孫のよう。
「すみません」
と声をかけに行くと、
「可愛いねぇ。うちの孫みたい。この子、店の中に入りたがっているんだけど、一緒に買い物してきてもいいかしら」
品のよさそうなおばあさん。長男は手をはなしそうにないがやっぱり気がひける。
「いえ、ご迷惑でしょうから」
「大丈夫よ。孫みたいでかわいいから。うちの孫はなかなか会えないしね。お嫌でなければ連れていってもいいかしら。お花をゆっくり見ててください」
繰り返し頼まれては・・・確かに私もゆっくり花を選べるし。疑うわけではないけど、出入り口はここだけだし。
そうして戻ってきたときには、お菓子を買ってもらっていた。
う~ん。長男の人馴れを助長してしまったかも。やっぱり断るべきだったのか。
三才の頃にはこんなこともあった。
公園で下の子のおむつを替えている間にいなくなった。ついさっきまで、すぐとなりのブランコにいたのに。
ぐるりと見回すと、誰かと手を繋いで公園から出ていくようだ。
慌てて追いかける。
「すみません。うちの子が何か?」
声をかけると。
「ああ、お母さんですか? この子がう○ちだって言ってるんですよ」
振り返った年配の女性が安心したように言う。
ひゃ~。申し訳ない!! なんで通りすがりの他人に言うかな。
とりあえずお礼を言って近くのトイレへ駆け込んだ。
そんなお兄ちゃんと育ったからか、次男三男も似たようなことをする。
住んでいるのが別荘地なので、週末にはいろんな人が来ている。家にいないと思ったら、よそのバーベキューにしっかり入っていたりするのだ。何度注意しても馬耳東風。
まいるよなぁ・・・。
そんな中、唯一末っ子だけはちょっとカラーが違って、自由に迷子にはなるけれどよその人についていったりはしない。
それにスーパーなどでふらりと消えて迷子になっても彼だけはすぐに見つかる。
なぜ末っ子だけ居場所がわかるかというと・・・彼はぷらりぷらりといろんな場所を歩きながら、大きな声で歌を歌うからだ。
一人でもこういう子がいると助かるよ。兄ちゃんたちがあんなだから。
それにしても。迷子の心配をしなくてよくなるのは、あと何年先なのかなぁ・・・。
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