野菜すくい

 農協のお祭りで、”野菜すくい”というのを見つけた。金魚すくいのポイで野菜をすくうというものだ。水槽に入っているのは、ミニトマト、なすび、きゅうりといった夏野菜。

 ミニトマトは別としても、なすびやきゅうりは、どう考えても簡単にすくえる。ポイの直径よりも長いのだから当たり前だ。なぜこんなゲームがあるのかわからない。絶対にすくえるだろうに。


「これやりたい!」


 夏野菜の大好きな我が家の男の子たち。そろってこれをやりたがる。


「じゃあ、一回ずつね」


 ポイを受け取り、みんな真剣に野菜をすくう。

 そうして全員すくい終わると。


「あ、その野菜はまた戻しておいてね。はい、持って帰るのはこっちね」


 店員さんが袋に入れた野菜を渡してくれる。


 なるほど、野菜すくいに使った野菜はみんながいじくりまわしているからそれ専用になってるのか。量もすくったぶんだけ無制限にもらえるのではなく、一回でこれだけと決まっているわけだ。


 それぞれ野菜を受け取り、次は何をするか相談する子どもたち。


「かき氷食べたい」

「ぼくはたこ焼き」

「スーパーボールすくい!」


 みんなバラバラ。


「はいはい、一人五百円ね。順番に行くよ~」


 下の二人と手をつないで歩く。

 しばらくすると、長男の姿がない。


 またか~。


 彼が自由奔放なのは今に始まったことじゃない。帰るまでに見つけたらいいか、と残りの三人と一緒に店をまわる。



 帰る頃になって、ひょっこり長男が戻ってきた。探しに行く手間がはぶけたな、と思って彼を見ると。

 両手に重そうな袋を二つずつ持っている。お金は渡していなかったはずなのに。


「・・・何それ?」

「もらった!!」

「もらったって誰に? 何を?」


 見せてもらうと、袋いっぱいに詰まったなすびやきゅうりやミニトマト。


「お店が終わったから、使ってたこの野菜もういらんねんて。捨てるっていうからもらってきた」

「・・・・・・」


 生活力があるというかなんというか・・・。食べさせてもらってない子みたいだな。

 確かにね、別に傷んでいるわけじゃないし食べられるけど。無茶苦茶食べまくる君たちの腹のたしにはなるかもしれないけど・・・。


 どこに行っても生きていけるよ、君は。

 勉強ができなくても大丈夫!!


 

 だけどそれをもらうとき、一緒にいなくてよかったと思ってしまう私は薄情者だろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る