ツバメの雛

 長男がツバメの雛をとってきたのは四年生のときだった。

 学校帰り、大事そうに何かを抱えている。


「何持って帰ってきたん?」

「見て見て! ツバメの雛! 育てるねん!」


 ツバメの雛って……どこから? 


 長男の抱えている箱の中を見せてもらうと、六羽の雛。こんなに落ちているはずもなかろう。問いただしてみると、棒で巣をつっついて巣ごと落としたらしい。


 ……なんて酷いことを。子どもって残酷。飼いたいという自分のエゴの方を優先させるのだ。


 けれど持って帰ってきてしまったものは仕方がない。返す巣もない。慌ててネットでいろいろ調べてみる。


 まず保温。それから餌やり。……ひたすら子どもたちで虫を取ってきて食べさせる。二、三時間おきに餌を欲しがる雛たち。


 持って帰ったのが金曜日だったので週末はよかったけれど、平日になると……みんな学校に行くじゃないか! 結局世話は私か! 


 ひたすらバッタをとってきて食べさせたけれど。


 巣から落としてとってきたのが悪かったのか、保温が足りなかったのか、餌が足りなかったのか。雛たちは四日ほどで死んでしまった。


「かわいそうなことしたやろ? もう絶対とってきたらあかんで」


 神妙な顔をして聞いていた長男。黙ってお墓を作ってあげていたけれど納得していなかったのか。

 ……翌年また持って帰ってきた。




 おかしいな、と思ったのだ。


 学校から帰ってきた長男次男三男の三人。そろって玄関にランドセルを置いたまま家の裏でごそごそ何かしている。


 そ~っと見にいくと、慌てて何か隠す三人。


「何隠したん? 見せてみ」


 しぶしぶ出してくる。小さな箱の中にはまたしても六羽の雛。


「去年死なせちゃったやん。あんなにとってかえったらあかんって言ったのに」

「そう言うと思ったから隠したのに……」

「また巣を落としたん?」

「ううん、今度は中からそうっと出してきた!」


 去年のツバメのお母さんも帰ったら巣がなくてびっくりしただろうけど、今回のお母さん……帰ったら六羽全部いなくなってるなんて。


「ツバメのお母さんがかわいそうやん」

「もう一回産むからいいやん」


 そういう問題じゃないと思うけど。でも、もう一回産むことは知ってるんだ。


「巣にちゃんと返しておいで」


 いくら言ってもきかない三人。巣の場所も言わないので根負けしてしまった。


「とりあえず、ここじゃ寒すぎるから家の中に持って入って。それとその入れ物も駄目」


 昨年得た知識と失敗から学んだことを思いだしながらあれこれ指示する。子どもたちだけじゃまた死なせてしまう。

 大人が口を出すのもどうかと思ったけど、生き物のことだし今度はちゃんと巣立たせてあげたかった。


 そうしてまたバッタとりの生活が始まった。子どもなりに考えてはいたのだろう、今回も持って帰ったのは金曜日。週末はたくさんバッタがとれる。ひがな一日バッタとり。

 一、二センチくらいのショウリョウバッタを虫かごいっぱいに集めてもらう。それでも、一羽が一日に三百匹も食べるという量にはとてもじゃないけど追いつかない。どうしても足りない分はドッグフードを水でこねたので代用した。

 夜中は暗くすると寝るようになった。けれど日中は二、三時間おきに鳴きだす。平日は朝夕とりためておいてもらったバッタとドッグフードで乗り切った。


 翌週末、無事に雛は巣立っていったらしい。長男が飛ばせたと弟たちが報告してきた。


「兄ちゃんが空に飛ばした!」

「ぼくも飛ばしたかったのに」


 それって半分無理矢理?

 それに、あんなに世話をした母には巣立たせるところを見せてくれないなんて酷い。私も見たかった。ちょっとがっかり。



 巣立たせるところまで経験して今度は納得できたのか、今年は持って帰ってこなかった。


 やっぱりなんでも最後までやらせてあげないとだめなんだなぁ、と改めて思った。

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