ドクターヘリ

 つい最近、ホントにひやりとした出来事があった。


 四月半ば。あったかくなったり寒かったり乱高下する寒暖差に主人と私、そして長女は体調を崩していた。


 微熱。

 寝込むほどではないけれど、頭が重く身体がだるい。それでも家事は待ってくれないので、午前中に四男を連れて買い物へ。昼前に帰ってきて買ってきた食材を片づけ終わり、ちょっと一息と座りこんだらそのままうとうとしてしまっていた。


 その間10分ほど。



「お~い。こんなところで寝てしまってるぞ」


 とのおじいちゃんの声で目を覚まし行ってみると、四男が玄関に転がって寝てしまっている。遊び疲れて帰ってきて玄関先で寝込むのはよくあること。


「あ~あ、またこんなところで寝て」


 よく見ると顔は涙でぐちゃぐちゃだ。兄ちゃんに苛められての泣き寝入りか。と思い、ひょいっと起こしながら声をかけた。


「兄ちゃんにやられたん? 何されたん?」


 うぇ~んと泣いて答えない。お昼寝時だしなと思って手をひいて和室へ連れて行く。その前に洗面でどろどろに汚れた顔をぷるりぷるり。

 

「起きたら何があったか教えてね」



 昼食の用意をしていると。


「なんか様子がおかしいんと違うか?」


 とおじいちゃんが呼びに来た。

 見にいってみると、薄眼をあけて黒目はどこかにいっている。


 !?


 慌てて起こそうとするも、意識がない状態。

 よく見ると髪の生え際より少し奥に小さなコブがある。頭を打ったのか? 目撃者がいないのでなんとも言えないが、玄関は吹き抜けになっている。……まさか二階から?


 わからないけれど、尋常ではない様子なのですぐさま救急車を呼んだ。


 数分後やってきた救急隊員いわく


「ドクターヘリを要請します」


 ヘリ!?


 肝が冷えたことは言うまでもない。



 搬送先の病院ですぐさまCTスキャン。

 結果は硬膜外血腫と頭蓋骨骨折。


 二時間後にもう一度CTを撮り、その結果血腫が大きくなっていれば開頭手術、変化なしまたは小さくなっているなら吸収されるので問題なしだという。

 待ち時間の二時間はとても長く感じたが、祈るしかない。


 検査結果は良好だったので胸をなでおろした。


 

 夕方目を覚ました四男。名前や年齢をきちんと応えることもでき一安心。翌朝には通常通り……。

 看護婦さんの質問への返答が微妙な様子なのは、どうも自分がやらかしたことの大きさにちょっと様子見しているようだ。


 さらに翌日。

 血腫の血が顔の方におりてきて、目の周りが真っ青になり痛々しいものの全く元気になってしまい、ベッドでじっとさせるのが大変なほど。食事も病院の幼児食では足りない。

 念のために一週間入院したが、後遺症も何もなく退院できた。


 神様に感謝である。



 本人が話せるようになって確認すると、やっぱり吹き抜けの二階から落ちたのだそう。兄ちゃんがおもりを外してしまい天井へ上がってしまったヘリウム入りの風船をとろうとして柵によじ登ったそうだ。


 後から聞いてもぞっとする。



 これに懲りて高いところには登らなくなってくれるかと思ったけれど、そんなことは全くなかった。

 相変わらず箪笥の上から飛び下りたり、車の屋根によじ登ったりする四男である。


 懲りない奴だ。


 親は内心ハラハラしているというのに。


「トラウマになってしまうよりいいでしょう」


 能天気な脳外科の先生の一言。


 まぁ臆病で何もできない子になるよりはいいのかもしれないけれど。

 

 親の心配は尽きない……。

 

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