正義感
小さい頃から長女は愛着を持った物をものすごく大切にした。
幼稚園の頃、お気に入りの靴に穴があいてしまったとき、捨てるのを嫌がって泣いて泣いて大変だった。思い出にと、マジックテープ部分についたビーズを切り取り残しておくことでやっと納得したほどだ。
大好きなウサギのお茶碗を私が手を滑らせて割ってしまった時も大変だった。
「ウサギさんが死んじゃった~!」
・・・殺したのはお母さんか。ごめんねしか言えない。
それほど物を大切にする長女が、お店で気に入っておねだりして買ってもらった靴を初めて履いていった日のことだ。
大事な大事なその靴をたった一日でどろんどろんにして帰ってきた。いつもの長女なら考えられないことだ。
「どないしたん! それ!」
両足は足首まで泥んこ。靴も泥色。
それなのに、何故か満面の笑み。
「いいことしてん!」
「いいことって・・・なにしたん?」
「友達がな、帽子が風に飛ばされて田んぼに落ちてしまって泣いちゃってん。だから私が取ってあげてん」
自慢気に言う。
『私は偉い?』
と顔に書いてある。
なんと言おうか迷っていると、キラキラした目で見つめてくる。
『ほめてほめて』
と尻尾を振っている子犬のようだ。
とりあえず、友達にしてあげた行為についてはほめてあげる。
取ってあげたのは偉いよ? でも、新品の靴は脱いでからでも良かったのではないのかな?
口まで出かかったその言葉はなんとか呑みこんだ。そのときは。
長女の興奮がもう少し冷めてからじゃないとね。せっかくの高揚感。しっかり味あわせてあげよう。
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