花束

 次男が保育園に通っていた頃のこと。


 年中さんから年長さんになり新しい先生になった四月。何を思ったか「明日は先生に花を持っていく」と言いだした。


「なんで持っていくん?」

「昨日、お花あげたら喜んだから。先生、きれいなお花好きなんやって!」


 どうやら外遊びのときにタンポポやらシロツメクサやらをつんで渡したらしい。



「お母さん、ハサミかしてー」


 朝から張りきって庭に出る次男。

 なんでもかんでも切られたら嫌なので、一緒に庭に出て「これとこれは切ってもいいよ」と教えてあげる。

 広告でくるりと包んだ花束を持って、ご機嫌で出かけていった。



 翌朝。


「今日もお花持っていく! 今日は三つ持っていく!」


 他の先生にも約束したらしい。


 それから毎日毎日持っていくことになる。しかもだんだんぜいたくなことを言い出す。


「その花は昨日持っていったから違う花がいいな」


 いくら庭が広くても限りある花壇の花。それを全部持っていかれてしまったら悲しい。野の花をおりまぜながら、なんとか毎日続けられた。


 一緒になって花束を作るのは楽しかったけれど、時間のない朝にその時間を作るのは大変。それに遅くなってしまってどうしても時間がなかったり、ざぁざぁぶりの雨でも「ぜったい持っていく!」とごねるのが大変だった。

 どんなに時間がなくても譲らない。結局バスに乗り遅れて、車で送ることになってしまったこともしばしば。


「バスに間に合わなかったら、園まで走らせるよ?」


 園までの距離は四キロ。本気で走れるとは思ってないけど言ってみたら。


「休む~」


 いとも簡単に言う。お姉ちゃん二人は絶対に休むのをいやがったのに。

 バスに遅刻しそうになったときも、


「走っていく? 休む? お母さんは送らないよ?」

「走る~! 絶対に休まない!」


 って言ってたのになぁ。

 女の子は家よりも友達。男の子は友達より家。うちの子たちはみんなそうだった。

 女の子の方が社会性を持つのが早いんだろうねぇ。面白いなぁ。



 そして次男は結局、夏休みまでほとんど毎日花束を持っていき続けました。

 でも夏休みが終わったら忘れていたので、あえて言わなかった。思い出してまた持っていきたいと言われたら大変、大変!

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