パトカー

 自転車に乗れるようになって行動範囲が広がってしまった四男。

 乗れるようになった一週間後、早速問題を起こした。


 夕食の支度をしていると家の前に車がとまる音がしたので、勝手口の窓から外を覗いてみたら。


パトカーが停まっている。


何かあったのかな?


と見ていると、お巡りさんと一緒に四男が降りてきた。


 何事!?


 慌ててサンダルをひっかけて出ていく。


「あ、お母さんですか?」


 にこやかに若いお巡りさんが言う。


「すみません。どうしたんですか?」

「いや、下のバイパスの緑地帯にお子さんが自転車に跨って一人でおられたようで、通報があったので保護させてもらいました」

「バイパスに!?」


 後部から自転車を下ろし虫取り網も出してくる。


 そりゃ、発見者も驚くだろう。

 幼稚園児が自転車に乗って虫取り網を持って緑地帯で一人……。

 こわすぎるだろう。


 そういえば今日はお兄ちゃんたちみんな自転車で出かけて留守だ。ついていってしまったのだろうか。



 我が家はバイパスから300メートルほど山道を登ったところにある。どんなにやんちゃな長男も、坂の下まで一人では行かなかったのに。無鉄砲にもほどがある。事故も何も起こらなかったからよかったものの、こいつはホントに目がはなせない。


「もう一人で行ったらだめだからね」


 お巡りさんからも諭され「は~い」と元気に返事をする四男。

 

 庭に柵も何もないからねぇ。出入り自由だし。紐でもつけときたいなぁ。


 とは思っても実際には無理なので、お巡りさんが帰った後もう一度念を押しておくことにする。


「坂の下は、ポンプ小屋まで。上はそこの曲がり角まで。それ以上は大人と一緒じゃないとだめだからね」

「うん、わかった~」


 えらい軽い返事。ホントにわかったのかなぁ。


「じゃあ、もう自転車片づけて家に入りなさい」

「は~い」


 素直に車庫の方へ自転車に乗って行く、と思ったら。


 車庫を素通りしてまた坂の下へ!!


 お~い! さっきの返事は?!


「待ちなさ~い! ストップ~!!」


 と走って追いかける羽目に。


 こっちはサンダル、あっちは自転車下り坂。追いつくはずもなく……。

 

 ちょうどそこへ、さっきのパトカーがくるりと巡回して戻ってきた。走っている私に追いついてきいてくる。


「どうされました?」

「いや、また行ってしまって」


 すぐに追いかけてくれて、逃走する四男を無事捕獲。

 そして今度は怖い顔して怒った声でお説教してくれた。


「もう絶対に行ったらあかん。わかるな?」

「ごめんなさい」


 半泣きになって謝る。今度こそこれで懲りたか?


 


 そんな簡単に懲りるやつではなかった。

 恐るべしノー天気マイペース四男。


 お巡りさんが帰ったとたんに涙も引っこんで鼻歌を歌いながら玄関へ向かったのだった。




 



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