白いイチゴ

 五月のうららかな昼下がり。子供たちは気ままに走り回っている。そのうち四男を残して三人の兄はどこかへ行ってしまった。


 私が畑でのんびり草むしりをしていると、四男がご機嫌な様子で駆け寄ってきた。


「見て見て!」


 小さな掌に乗っているのは、まだ真っ白なイチゴ……。

 満面の笑みを浮かべる四男。


「イチゴ、大きくなってた!」

「もう少し待ったら赤くなるのに」

「でもおいしいで」


 もうすでに食べたのか。困ったさんである。


「赤くなった方がもっとおいしいから、もうとらんとってね」

「わかった~!」


 元気に返事をして駆けだしていく方向は、イチゴを植えている辺り。見ているとこちらをちらちらと窺っている。念のため一言声をかけておく。


「とらないでよー」

「わかってるー」


 ほんとにわかってるのかなぁ。返事だけはいいけど。


 でもずっと見張っているわけにもいかないので草むしりを再開。

 しばらくして腰が痛くなって伸びをしたついでにふと目をやると、イチゴの近くにまだ四男がいる。前かがみになっている姿は何か物色している模様。


「何してるのー?」

「見てるだけー」


 元気な声が返ってくるが、こちらを向こうとはしない。


 あやしい。


 よっこらしょと立ち上がって近づいてみると。思った通り、お口がもぐもぐ動いてる。


 赤いイチゴはまだひとつもなかったんだけどなぁ。


「お口に何入ってるの?」


 柔らかいほっぺをつんつんとつついてみる。


「うふふん」


 笑ってごまかすつもりのようだ。


「赤くないとおいしくないやん」

「おいしいよ。ちゃんとイチゴの味するもん。食べてみる?」


 手には白いイチゴがたくさん握られていた……。


 あちゃ~。大きくなってたの、全部取っちゃったのか。



 赤いおいしいイチゴが食べられるのはいつだろう。

 四男は年長さん。もうそろそろわかってもいいと思うのに。

 食欲が勝つのか、兄ちゃんに取られる前に取らなきゃという気持ちが勝つのか。

 おいしくなるのを待って、みんなで分けることができるのはいつになることやら。


 兄ちゃんたち怒るだろうなぁ。

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