6人姉弟のハチャメチャな日常
楠秋生
山の中の田んぼ?
「田んぼつくってるから、田植えの後あまった苗ちょうだい」
日曜日の午後、ドロドロになって帰ってきた長男が言った。
「田んぼ?」
「うん、秘密基地に作ってるねん」
秘密基地って……たぶん山の中なんだろうけど。そこで田んぼを作るって?
「稲は水がいるねんで」
「知ってる。ちゃんと水あるし」
「ずっと水張ってないとあかんし、途中干さなあかんけどそんなんできるん?」
「ちゃんと水路作ったし、流すのもできる」
「まぁたぶん苗は余るし好きにしたらいいけど、山の中ではたぶん育たへんとおもうよ?」
「大丈夫!」
あんまり自信満々に言うので、好きにさせることにした。
何日か経って、準備ができたから見にきてほしいと言う。普段どこに基地を作ってるのか知らないので、いい機会だし見にいくことにした。
「案内して」
弟たちも一緒に行く。
自衛隊の敷地のすぐ脇をフェンスに沿って歩く。幅は三十センチあるかないか。左手は急な斜面で、その三十センチも草だらけででこぼこしている。
途中長男が振り返り、「ここからは見つかったらあかんから静かにして。しゃべったらあかんで」と小声で言う。いつもは騒がしい四人が無言で歩く。
何が駄目なのか? と思って後に続くと、フェンスの中の敷地が急に開け、芝生が広がっている。ちょっとした休憩スペースなのかいくつかのベンチがあり、その奥にガラス張りの建物が見える。
……静かに歩いても、そこに人がいれば丸見えなんですけど。
とは思ったけど口には出さず、黙ってついていく。
とりあえず今は人がいないし。いや、見つかったところでフェンスの外なんだから問題はないのだけれど。
そのままどんどん突き進んでいくとやがてフェンスの角に行きつき、そこからは枝を払いつつ山へと入っていく。蜘蛛の巣が何度も顔にかかるのを、手に持った枝で払いながらの行進。だんだん急こう配になるもものともせず、子供たちはどんどん下っていく。迷子になりそうな山の中を「こっちこっち」とずんずん先へ行く。尾根筋を降りていくと、今度は竹やぶに入る。
「お母さん、気をつけて」
声をかけてくれるのは嬉しいけれど、君たちはいつもこんなところで遊んでるのか。
ころころと転がりそうな山の斜面。
そのうち遭難しそうだな。
登山に連れて行ってあげたいけど中々行けずにいるというのに、これなら登山なんて必要なさそうだ。
なんて関係ないことを考えていると……。
ずぼっ。
ドロドロの湿地に片足を突っ込んでしまった。
なるほど、君たちはよく靴をドロドロにして帰ってくるはずだ。
「あ~あ、お母さん。気をつけてって言ったやん」
はい。言われました。でも、これってほとんど足の踏み場がないじゃないか。君たちの立っているそこは大丈夫なのか? それとも体重が違うからなのか?
子供たちは今のところはまってないようだ。
「ここだよ!」
嬉しそうに教えてくれた“田んぼ”。
う~ん。
確かに水は張れている。泥で周りを固めた一メートル四方くらいの水場。そしてそこへ水を導くための水路らしきもの。
ちゃちいとは言わないでおいてあげよう。
でも、梅雨の長雨にもつのかな。
でもまぁやってみたまえ。何事もチャレンジだ!
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