一回戦第二典礼『黄昏ノ少女/忘却惨歌』
一回戦 第二典礼
罪状:穢血罪
対
罪状:穢血罪。脱獄罪。過剰防衛。不敬罪。大逆罪。大量殺人。貴族殺人。強姦罪。死姦罪。拷問罪。
寂紅・ウルクスは居住まいを正し、ずくずくと疼く掌を握り込んでいた。使い手の緊張に反応して、猛っているのか。
五歩の間合いを置いて、一人の男と対峙している。
帝国臣民の平均を逸脱した長身。
体の線を隠すためにゆったりとした道服を着込んでいる寂紅とは対照的に、上半身をまるごと露出している。浅黒い肌ごしに、無数の剣を凄まじい力で束ねて引き絞ったような筋肉が浮き出て見えた。全身に絡みつくかのように、黒い茨の刺青がびっしりと彫り込まれ、筋肉の凹凸を強調していた。
その顔は――若い。というか、幼いとすら言っても良い。造形だけを見れば寂紅より一回り年上の青年だが、浮かべる笑みがあまりに屈託なく、子供を相手にしているような気分になってくる。
左右に体を傾けながら、面白そうにこちらを眺め回している。
目が合うと、にっこりと愛嬌たっぷりの笑顔をくれた。
寂紅は眉をしかめ、睨み返す。
変わり果てたな――と、失われた歳月の重みを感ずる。
最後にこの男を見たときは、ここまで隆々とした筋骨を持ってはいなかったし、こんな禍々しい刺青を彫り込んでもいなかった。
戦意と殺意を言葉に乗せようと口を開きかけたその時、浅黒い腕が急に上がった。
指をぴんと伸ばし、まっすぐに天へと伸びていた。
「……と言ったところで質問です!!」
頓狂な声。
若く、ともすれば少年的といってもいい顔が、にかっと笑う。
「少年、キミ悪い人?」
小首をかしげながら、無邪気に問いかけてくる。
強面とは程遠い。
だが――その顔も黒い刺青に覆われていた。表情筋の流れや、血管をなぞるかのように、禍々しい意匠の鯨印がびっしりと刻み込まれている。口の端から頬にかけて線が引かれ、耳まで裂けた口をかたどっている。
そのせいで、どんな友好的な表情も、凶悪な色を帯びて見えた。
「若いよねぇ、キミ。兵役に引っかかるかどうか微妙な線じゃん? つぅかほぼ子供じゃん? そんな歳でアギュギテムに放り込まれるってけっこう尋常じゃないよねぇ。何した系? 何した系のクズなの? ねえねえ」
「このっ……!」
吐き出してやろうか。この悪鬼がかつてしでかした仕打ちを、洗いざらい。
だが――すんでのところで自制。
言ってはならない。今は、まだ。
身を焼く憤怒に震える唇を、噛み締める。
沈黙が、あたりに垂れこめた。
「……なー、答えてくれよー、と言ってもきっとこの子は答えてくれない。アタシわかる。そんな気配出してる。人と人は多分わかりあえない。オレはお前じゃないしお前は
こちらに一歩足を踏み出した。
「寄るな、外道め」
掌の疼きが強まる。
瞬間――
こつ、こつ、と足音が聞こえてきた。異様に規則正しく、人がましさを感じられない歩調である。
そちらを見ると、緋色の如法衣に身を包んだ男が歩み寄ってくるところだった。
こちらも長身だ。偉丈夫と言って良い。
その顔には、異様な仮面が嵌っている。黒い甲殻のような質感の突起が三つ、楕円形の顔面をぐるりと囲む位置から伸びている。それぞれの突起は幅広い両刃剣のような形状で、仮面全体の輪郭は逆三角形に近い。
餓天法師。
〈
「これより、八鱗覇濤が一回戦、第二典礼を執り行う」
荘厳な声が、仮面の奥で発せられた。
人の声というよりは、もっと巨大な存在が人間の口を借りて語りかけてきているような、深く遠い響きであった。
「双方、五歩の間合いを取り、心機臨戦せよ」
寂紅は無言で手袋を外した。これでいつでもザン=クェンができる。
奴を……殺せる。
寂紅はすり足で立ち位置を調整する。ここ至聖祭壇に差し込む日差しは、いまだ東天にある。太陽を背後にする形で刃蘭と対峙すれば、その眩さゆえにこちらの挙動が読みにくくなるだろう。
刃蘭は、動かない。それどころか、手袋すら外さない。
「えー、ちょい待ちちょい待ち! オレっちまだこの子との話が済んでないんスけど!」
――この期に及んで何を血迷ったことを。
ここは「典礼」の名を借りた殺し合いの場だ。「至聖祭壇」と呼ばれる闘技場で、知勇の限りを尽くして殺意を交わす。そんなことなどこの男とてわかっているはず。
案の定、餓天法師は刃蘭に応えることなく、腕を天に差し上げた。
「寂紅・ウルクス。並びに刃蘭・アイオリア。
「うわーい、ガン無視だー! え、うそマジで? マジでもうやんの? 相手子供だよ? わかってんの? え、ちょ、待、えぇー!?」
餓天法師に向かってあわあわと宙を掻く刃蘭。
そして、餓天法師の手が勢い良く振り下ろされる。
「――始め」
瞬間。
刃蘭の膝が唸りを上げ、寂紅の右手首の関節を粉砕した。
「ぎぃっ!?」
折れ砕けた骨の切っ先が、皮膚を突き破って露出する。
防御は、間に合ったのだ。もし手首を犠牲にしなければ、今の一撃で頭蓋を陥没させられ、即死していたことだろう。
直後、刃蘭の巨大な手が寂紅の頭に喰らい付き、万力のように締め上げた。視界が掌で覆い尽くされる。
浮遊感。片腕の力だけで、こちらの全身を持ち上げている。
「さーてー……」
反射的に相手の脇腹を蹴るが、鋼のような腹筋に阻まれ、何の意味もなかった。
「質問のつづき、しよっか」
満面の笑みを含ませた声。哀しみを押し隠した狼淵の口調とは異なり、この男の声色はまったく陰がない。
寒気を覚えるほどに。
「話し合わないとね。話し合うって重要だよね。これマジマジ。知ってるかい? 話し合いをちゃんとすると争いを避けられるんだぜーすっごいよねー!」
能天気な繰り言が右から左へと流れてゆく。
状況の変化に、思考が追いつかない。
そのうち、砕かれた手首がだんだんと熱を発してきた。心臓の鼓動に合わせ、ずくん、ずくんと。
一拍ごとに、圧迫されるような感覚が強くなってゆく。それが脳を刺す痛みに変ずるまで、それほど猶予はないだろう。
「じゃあもう一度聞くねっ! キミ、いい人? 悪い人?」
「どうでもいいだろうそんなこと! だいたい何をもって善だの悪だの……」
「はい出ましたよ正義も悪もないとか言っちゃう人ー! あのねえもうちょっと会話の機知的なアレをアレするとかそういうアレはないアレか? お主アレか? 冷徹気取っちゃいたいお年頃かこのクソボケが? そんなことはともかくご質問にお答えしたい所存でありますればぁ、」
ぐっと顔を近づけてくる。
視界全体に広がる薄ら笑い。
「正義と悪の定義付けなんてマジ簡単だよマジマジ。ブッ殺したら悪人で、救ったら善人ね。冷徹気取っちゃいたいお年頃のクソボケでもこの理屈はわかるよね? エッ、わかるよね?」
何が言いたいのかまったくわからない。
「そんでね、そんでね、ひとり救ったら一点加算、ひとり殺したら一点減算っつー計算で最終的に
ウルクス家は獄中医の家系である。父を手伝って囚人たちの治療に携わった経験は数知れず。
加えて、寂紅は人を殺めたことなどない。
「……
ぱっ。
と。
頭蓋に食い込む指が離れ、寂紅は地面に落下。
「……ぐっ」
尻餅をつく。
「なあんだ」
刃蘭は肩をすくめ、溜息をついていた。
「
右手を胸に当て、左手を空へ差し伸ばす。
「だけどオレっち正義だから。間違いなく圧倒的な実力で優勝する感じの星の下に生まれついた超絶美形正義すなわちオレだから。いい人は殺さないの。殺すのは悪い人だけなの」
にっこり笑って寂紅の前にしゃがみ込み、労わるように肩を叩く。
「さっきはごめんね~。オレっち命の危険感じたら体が勝手に動いちゃうから。動いちゃうからついキミの手首ブッ壊しちゃったから。多分二度とマトモに動かないと思うけど許してくれるよねっ! はい許した! 今キミの心はオレっちを許した! 言葉はなくともオレっちわかる! なんかキミそういう目してる! いやぁ、心優しい少年でよかったなぁ! ありがとうね! じゃあね! もう行っていいよっ! さいなら!」
手袋を付けたままの手をぱたぱたと振る刃蘭。
そして立ち上がるとこちらに背を向け、餓天法師の方に歩み寄ってゆく。
「はい、というわけでね、見ての通りあの少年は降参したからね、オレっちの勝ちってことでいいよねっ? ねっ? ねっ?」
「認められない。八鱗覇濤に参加した時点で、典礼の執行に同意したと見なされる。これを覆すには双方が中止に同意している必要がある」
「えー、したじゃーん? あの少年今同意したじゃーん? オレっちわかる。完全に降参って感じの目してる。もう見ただけでわかる」
「認められない。八鱗覇濤に参加した時点で、典礼の執行に同意したと見なされる。これを覆すには双方が中止に同意している必要がある」
なにやら言い争っている。
鈍く鋭い痛みが、手首を襲っている。それはもはや無言の悲鳴とも言うべき、無視しがたい苦痛の波涛であった。
「ぐっ……」
歯を食いしばる。目尻から雫がこぼれ落ちる。
――このまま。
痛みに耐え、何もせずにじっとしていれば。
刃蘭の望む通り、こちらの降参と見なされて、不戦敗、ということになるのだろうか。
命は、助かるのだろうか。
今の一瞬のやりとりで、自分と刃蘭との間には、戦士としての力量が天と地ほども開いていることがわかった。
「うぅ……」
今はわけのわからぬ理由で、なんだかこれ以上戦うつもりがないようであったが、いつどんなきっかけで奴の気が変わり、こちらに襲い掛かってくるかわかったものではなかった。
……怖かった。
暴力を振るう人間というものは、目を剥き、顔を歪ませ、怒声を発しつつ向かってくるものだと思っていた。
――その笑顔のままで。
「父さまと兄さまも、殺したのか……」
そう、小さく呟いた。
刃蘭はいまだ餓天法師と不毛な言い争いを続けている。こちらのことを何ら脅威とは見なしていないようだった。
歯を、食いしばる。立ち上がる。
眦を決し、そして意志を固める。
「〈不信〉の八鱗よ……穢れなき白を装い、凝固せよ……」
祝詞。口の中でそっと嘯く。
瞬間。
「……っ」
手首の苦痛が爆発した。
声を上げなかったのは、奇跡といってよい。
がちがちと鳴りそうになる歯を食いしばり、悲鳴がひり出て来そうになる喉を必死に塞ぐ。
刃蘭の膝蹴りで破壊され、あちこちから折れた骨が飛び出ている寂紅の左手。
そこから、眩く白い何かが、伸びてきていた。
寂紅の血に濡れ光りながら、脈打つように。
それは、剣の切っ先であった。
両刃の直剣である。
結晶質の透明な刀身。内部には血管のような樹状構造が見える。
ひくひくと蠢動しながら、なおも伸長。同時に絡みついた寂紅の鮮血を、その刀身が吸い始める。
純白の結晶が、紅く染まった。
血の色彩は見る間に刀身の中央部に集ってゆき、そこから根元へ、そして寂紅の体内へと戻っていった。
内部の樹状構造が、歓喜に蠢き身悶える。
その奇怪な刃の名を、知らぬ人類はいない。それらは餓天宗の至宝として、神話の時代より受け継がれる奇跡の具現であるから。
●
――かつて、神代の混沌の最中。
世界は無色の虚無であった。意味のあるものなど何一つなく、ただひたすら未分化の可能性だけがうねり、渦を巻くばかりであった。
そこで
光の三原色(紅、蒼、翠)と、その補色(黄褐、藍緑、紅紫)と、白と黒。この世のあらゆる彩りの根源たる光を宿した、神遺物を。
地表に落下した衝撃によってそれらの色彩は世界にばら撒かれ、豊かな恵みをもたらす大地や、底知れぬ謎を秘めた海淵や、ありとあらゆる生命が誕生した。
鱗そのものは、八枚それぞれが二つに割れ、十六の結晶と化して定命なる人の子の手に渡った。
人々は
白き鱗からは、追憶剣「カリテス」と忘却剣「オブリヴィオ」が鍛造された。
紅の鱗からは、起源槍「イニティウム」と終極槍「フィーニス」が。
黄褐の鱗からは、演繹棍「インケルタ」と帰納棍「リガートゥル」が。
翠の鱗からは、虚構鎌「フォルトゥム」と形象鎌「ウェリタス」が。
藍緑の鱗からは、因果鎖「ノドゥス」と矛盾鎖「エブリエタス」が。
蒼き鱗からは、相似斧「アナロギア」と対称斧「アドウェルサス」が。
紅紫の鱗からは、陰陽爪「クルトゥーラ」と太極爪「コグニティオ」が。
黒き鱗からは、無謬刀「アルビトリウム」と迷妄刀「メルギトゥル」が。
それらは苦痛と快楽の織り手。
それらは八鱗覇濤を執り行う祭具。
それらはますらおを選別せし者。
それらは咎人の悔悟を引き出せし者。
それらは、宇宙蛇と人類との、約束の証である。
●
十六振りの神聖八鱗拷問具が、使い手を選ぶ基準はさまざまである。
そのほとんどは殺戮の技に秀でたる者を好み、普段は人間の血中に融けている。
だが、中には特定の血筋の者にのみ力を貸す拷問具も存在する。
号して「忘却剣」。銘は「オブリヴィオ」。
ウルクス家は代々、忘却剣オブリヴィオの寵を受けたる一族であった。望んだわけではないけれど。
寂紅は歯を食いしばりながら、意識を集中させる。
――御剣よ。かしこみかしこみ嘆願奉る。
――我が苦痛を、『忘却』せしめたまえ……
白い結晶質の刀身がひときわ大きく脈打つと、それまで寂紅を苛んでいたあらゆる痛みが、嘘のように消え失せた。
忘却剣の真骨頂。その刀身に触れた者の意識から、特定の何かを『忘却』させる。
記憶、感情、感覚など、人の頭の中でうねる何らかの情動を選び、自在に消し去るのだ。
ゆえに、忘却剣。
ほっと息をつき、寂紅は前方を睨みつける。
刃蘭は、こちらが体勢を整えたことに気付いてもいない。餓天法師を相手に無意味なダダをこねている。
――見ていろ。
左手から忘却剣オブリヴィオを生やし、右手はいつでもザン=クェンができるように指を軽く屈伸させる。
片手武具と素手の組み合わせは、〈帝国〉の戦士の最も一般的な戦闘態勢であった。
呼吸を落ち着け、ゆっくりと歩みを進める。完全なる無音の歩法。
至聖祭壇をぐるりと囲む参列席では、アギュギテムの囚人たちが各々の心積もりで寂紅と刃蘭の典礼を観戦していた。
が――誰一人として寂紅の動きに反応を示す者はいない。
敵の命を絶たぬうちに背中を向けるような愚か者のために、わざわざ警句を放ってやる義理などない。アギュギテムの住民らしい対応と言えた。
――今は、それが、ありがたい。
歩みを、進める。
相手がこちらの手を視認してくれなければ、ザン=クェンは成立しない。だからオブリヴィオによる斬撃で不意を討つ。
無論、いかに忘却剣が鋭絶と言えど、寂紅の腕力では骨までは断てない。一撃のもとに絶命させるのは不可能だ。刺突であれば心臓を貫くこともできるかもしれないが……下手を打てば肋骨に弾かれてほとんど何の損害も与えられない可能性がある。人体というのは意外に強固な構造物である。野菜を切るのとはわけが違う。父から医師としての解剖学を叩き込まれていた寂紅には、それがわかっていた。
やはり斬撃で行くべきだろう。
しかし、問題ない。背中から斬りつけられて、慌てて振り返ったところに『
これなら腕力など関係ない。
歩みを、進める。
すでにして彼我の距離は三歩ほど。あともう半歩ほどもにじり寄れば、寂紅にとって最も効率よく体重を斬撃に乗せられる間合いとなる。
すり足を伸ばし――
「……っ」
冷たい手に心臓を鷲づかみにされたような寒気を覚え、素早く脚を戻した。
どっと不快な汗が背筋を濡らす。
――なにか、おかしい。
自分が致命的な誤りをおかしているような、嫌な胸騒ぎがした。
目を見開いて、刃蘭の様子を伺う。
別段、変化はない。刃蘭自身も特に動いてなど――
いや。
違う。
そうじゃない。
見るべきところを間違えている。
震える体を叱咤して、首をゆっくりと下に向ける。
――影。
典礼の開始前に、自分は朝日を背負う形で刃蘭と対峙できるよう、位置を調節した。
当然、今は寂紅の前方に影が延び――そして、刃蘭の前方にまでかかっている。
恐らく、視界に、入っている。
――気付いて、いる……!?
数瞬前から、刃蘭はこちらの接近を察していた。なのに振り返りもせず、餓天法師と中身のない言い合いをしている。
何故か。
――罠だ!
音高く床を蹴り、後方に跳躍。
かちかちと鳴る歯を食いしばり、相手のいかなる挙動も見逃さぬよう注視する。
舌打ちが、響き渡った。
「あっれぇ~、気付いちゃった系ー?」
ねっとりと、間延びした声。
刃蘭は右足に体重をかけ、だらけた姿勢で腰に手を当てた。
こちらを振り返りもしない。
「少年~? いますぐその犬のちんこみてえに貧相なモンをしまって、跪いて、降参しますと言えや。そしたらオレっちはキミに何もしない。ボーリョクはナシ。お互いが幸せになれる。すんばらしいねぇ」
「誰が……!」
気を抜くと後ろに下がりそうになる両脚に力を込めて、踏みとどまる。
「言っとくけど――」
刃蘭の声が、不意に穏やかなものとなる。
「これ、最後通牒だから。マジ、よく考えた方がいいよ」
優しげに寂紅の耳朶を撫でていった。
そこには真実の哀れみがあった。この男は、本気で、寂紅の身を案じている。
多分、嘘は言ってない。従えば、にっこり笑って許してくれるのだろう。
「う……ぅ……っ」
寂紅の膝から、力が抜けそうになる。
涙が零れ落ちてきた。止まらなかった。
刃蘭の笑顔が、そのまま殺意と共に向かってくるさまを想像する。
その圧倒的な恐怖が、寂紅の骨身にまとわりついて、離れそうになかった。
――狼淵。
救いを求めるように、少年の悲しげな笑顔を思い出す。
「ろい、どぉ……」
脳裏に浮かべるたびに、このちっぽけな胸に、いつも勇気と、温もりと、甘い痛みをもたらす、その顔。
いまはひどく遠い。
――たすけて。
――こわいよ。
すんでのところで、口に出そうになる。
「ぅ……く……っ」
目をきつく閉ざしながら、首を振る。
助けを求めたところで、何の解決にもなりはしない。
一人で、なんとかしなければならないのだ。
――それが、おれの命の、責務なんだ。
●
実際のところ、広大なる獄都アギュギテムは、外から想像されるような血塗れの庭というわけではない。
むろん、危険人物の隔離施設である以上、〈帝国〉の理不尽な法に反発する血の気の多い無頼漢がそこかしこを闊歩しているのは違いないが――そこには一定の秩序があった。
高い志や、巨大な野望を抱いて〈帝国〉に反抗した大人物たちが、それぞれ獄中で《幇会》と呼ばれる互助組織を立ち上げ、取引や抗争を挟みながらも拮抗状態を作り上げることに成功したのだ。今やアギュギテムにおいて大規模な殺戮や戦闘などはほとんど勃発しえず、ただ餓天法師の立会いの下で決闘典礼が頻繁に行われるばかりとなった。戦うつもりのない者が、無法にも殺される――そんな悲劇は、まぁ、あまり起こらない。
それゆえ、寂紅・ウルクスは、自らの生まれをことさら不幸と感じたことはない。
獄中で生まれ、獄中で世代を重ね、獄中で死んでゆく。
そういう血筋の家系に生れ落ちた。
別段、自分が罪を犯したわけでもないのだが、先祖の誰かは重罪人だったらしい。「罪人の穢れた血を外に拡散させることまかりならん」というわけで、アギュギテムの外に出ることは許されなかった。『穢血罪』というよくわからない罪が定められ、しっかり法的な根拠を持って獄中生まれの出獄は規制されている。
まぁ、別段どうでもいいことだ。ウルクス家は代々医者の家系であり、《幇会》の一つである《藍鬚幇》の庇護のもと、穏やかな暮らしを続けていた。
――母さまは、おれを産んだ時に亡くなったという。
だから、幼少の寂紅のそばには、父と兄しかいなかった。
父は、アギュギテムの強面どもから「先生」と呼ばれ、一目置かれていた。医師として、戦士として、確かな腕前を持ち、肝の据わった硬骨漢であった。
――父さまからは、大切なことをたくさん教わった。
兄は、対称的に細身の青瓢箪であった。いつも寺院の蔵書院に入り浸り、書物を紐解く毎日であった。
――兄さまの語り聞かせてくれるお話は、面白かった。
二人の間をとてとてと行き来しながら、寂紅はそれなりに幸せな毎日を送っていた。
父の医術は実践を重視し、「出たトコ勝負でドン! よ」が口癖であった。治療は荒っぽかったが、実際それでなんとかなっていた。彼にしか真似の出来ない天性の勘のようなものがあったのだろう。
兄の医術は理論を重視し、父のやり方には眉をひそめていた。「誰にも真似が出来ないんじゃあ、技術じゃないよ」と常々公言してはばからなかった。父もそれには理があると思っていたのか、太い笑みを浮かべるばかりで特に反論はしなかった。
ある日、暇を持て余した寂紅は、兄にお話をせがんだ。
兄はいつものように難しい本を読んでいたが、幼い妹のわがままには勝てず、苦笑しながらある物語を語り始めた。
――ひとりの若き戦士が、諸邦を旅し、弱きを助け、強きを挫き、この世に正義の歌を響かせる。
たくさんの友と、たくさんの敵に出会いながら、力なき人々に笑顔を蘇らせる、冒険譚。
寂紅は目を輝かせ、兄の語る物語の世界に入り込んだ。
あくる日も、あくる日も、兄にお話のつづきをせがみ、そのたびに兄は英雄の新たな活躍の様子を語り聞かせてくれた。
――その英雄の名を、刃蘭・アイオリアと言う。
もちろん、この世のどこにも実在しない人物だ。
兄が妹にせがまれて、その場しのぎにでっち上げた、単なる妄想である。
●
「えっ? なんだって? お兄さんよく聞こえなかったなぁ。もっかい言ってくれる?」
後ろを向いたまま、猫なで声で語りかけてくる。
寂紅は、その声色に、吐き気を催すほどの濃密な期待と歓喜を感じた。
至聖祭壇の石畳を、意識して力強く踏みしめた。そうしないと、逃げ出してしまいそうだったから。
「何度でも、言ってやる! 降参などしない! 貴様を止めるのは、おれの義務だ……おれが、やらなきゃ、いけないんだ……」
恐らく、この男には意味の分からぬ言葉なのだろう。虚構の産物に過ぎない、この男には。
それでも言う。半ば以上、自分に言い聞かせるために。
「えぇー、まっじでぇ? 降参しないのぉ? うっわぁー、まっじかー、うっわぁー、まいったなぁ~オイオイ」
怪物は、うへへ、と締まりのない笑いをこぼした。
こちらに背中を向けたまま、口元を拭う。涎でも垂らしているのか。
そして、手袋を、外した。
「殺さなきゃなんねーじゃねーかよォ! オイ! オレっちこの小さくてか弱くてかわいくてなんにも悪いことしてないガキをブッ殺さなきゃなんねーじゃねーかよォ!」
身をひねり、肩越しにグーを突き出してきた。
振り返った瞬間、目の前にチョキを突きつけられるという展開に対する予防策か。
「くっ」
寂紅は慌ててパーを出す。刃蘭がこちらの手を見ていないので、まだじゃんけんは成立しない。
――刃蘭は勢いよく振り返った。
同時に、逆の手でチョキを形作っている。
右手にグー。左手にチョキ。
対する寂紅はパーのまま。
この場合、右手に対する勝利を左手との敗北で相殺された形となり、何も起こらない。
「……っ」
やられた。じゃんけん勝負において「相手が背後を向いている」という有利な状況を無傷で切り抜けられてしまった。
敵の最初のグーに釣られず、冷静にグーを出して待ち構えていれば勝てたはずなのに。
――いや、違う……!
敵の視界に、こちらの影が入っているのだ。最初から、こちらが何を出しているかなど筒抜けだったということ。
「哀しいなァ、おい! 殺し合いって哀しいよなァ!! オレっちマジ泣きそうなんですけどォ!!」
充溢した殺意が、口の端を吊り上げさせている。
歓喜の痙攣が、刃蘭・アイオリアの肉体を包み込んでいた。
怪物は、今ようやく、戦闘体勢に入った。
生きてるって、素晴らしい――そう、全身で主張しながら。
●
――もう、無理なんだ、寂紅。
兄さまの、最期の言葉を思い出す。
泣き笑いの表情で、忘却剣オブリヴィオを手に携え、兄さまは静かに肩を震わせていた。
――僕はウルクスの医学を受け継ぐに値しない人間だった。
そんなこと。
――いくら座学に励んだところで、生まれ持った才能の差はどうしようもなかった。
そんなことないよ!
――父さんのやりかたを否定してたのは、本当は怖かったからなんだ。いくら理論武装したところで、自分には絶対に真似できないってこと、心の底ではわかってた。
父さま言ってたよ! あいつはあいつの道を行けばいいって。俺の後を追う必要なんかないって!!
――違うんだ、寂紅。そうじゃないんだ……
兄さまは、震える手で、そばの寝台にかかっていた布を取り払った。
目を閉じた男の人が、腕を組んで、横たわっていた。
その肌は、青白かった。
――重い病に侵されて、遠からず死んでしまう人だった。だけど、助けられると思っていた。理論は完璧だった。すでに確立された外科技術で、過去に何件も成功例は挙がっていた。
震える己の指を凝視しながら、兄さまは続けた。
――耐えられると思っていた。人の命を預かる重圧に、自分では耐えられるつもりだった。そして何もかも上手くいって、父さんに自慢してやるつもりだった。僕だっていつまでも半人前の青瓢箪じゃないんだぞって。
ゆっくりとくずおれ、自らの体を抱きしめた。
忘却剣オブリヴィオの刃が、腕を軽く切り裂いた。
――この人はね、《藍髭幇》の勘定頭……偉い人なんだよ……
ひ、ひ、と悲鳴のような笑いがこぼれる。
――こんな失態を許してくれるほど、《藍髭幇》は甘くない。きっと父さんやおまえにも累が及ぶだろう。
兄さま?
――赤の他人の命ですら、僕には重すぎた。この上、自分や家族の命まで失われるなんて耐えられない。
な、なら、逃げようよ……
――どこに!? 僕らは獄中生まれだぞ!? どこに逃げ場があるんだ!?
でも、でも……
なにか、あるのではないか。すべてうまくいくような、なにかうまい手が。
――寂紅、おまえはまだ幼い。ひょっとしたら命くらいは目こぼしが貰えるかも知れない。そうなったら男のなりをして、男として生きていくんだ。女の子が何の後ろ盾もなしに生きていくには、ここはひどく惨い世界だから……
腕が伸びてきて、寂紅の頭を優しく撫でた。
――そして武術を磨け。アギュギテムで人間扱いされようと思ったら、それ以外にない。僕には……できなかった。だけどおまえには才能がある。
兄さま……やめてよ。どうしてそんな……
――幸せに、なっておくれ。僕にはもう、祈ってあげるくらいしかできない。
そして兄さまは立ち上がった。
忘却剣オブリヴィオの刀身を額に当てる。
――さよなら、寂紅。僕は逃げるよ。弱い兄さまを許しておくれ。存在するということに、耐えられないんだ。
まって! 兄さま! やめて!
――御剣よ、かしこみかしこみ嘆願奉る……
まってよ! いやだよ! まだ何かあるかもしれないよ! きっと父さまがなんとかしてくれるよ!
――我が意識のすべてを、『忘却』せしめたまえ。
言い終えた瞬間、ゆっくりと、床にくずおれた。
こちらを向いた瞳から、何か大切なものが抜け落ちていた。
いくらゆすっても、何の応えもなかった。
……こうして、兄さまは、この世から去った。
その意識も、記憶も、優しく繊細な心根も、外で生まれていれば大成したかもしれない優れた頭脳も、すべて根こそぎ忘却剣は消滅させた。
そうして、脳髄の中に、刃蘭・アイオリアだけが残った。
●
――いったい、誰が悪かったのだろう。
兄さまは、たしかに弱かったかもしれない。
だけど、弱いということが、あんな絶望に満ちた最期を迎えねばならないほどの罪だなどと、寂紅には到底考えられなかった。
彼に責を問おうというのなら、必要以上に苛烈な制裁を行う《藍髭幇》はもっと悪い。
そして、自分とは違う才能を持つからと言って、「己の道を行け」と突き放すばかりで親身に導こうとしなかった父さまも悪い。
だけど、一番悪いのは。
一番重い咎を負うべきなのは。
――おれだ……
寂紅は、呆然と、見上げていた。
宙をゆっくりと舞う、自分の腕。
上腕の中ほどで、すっぱりと断ち切られ、回転しながら鮮血を撒き散らしている。
哄笑を上げながら駆け寄ってくる刃蘭に対し、恐怖を堪えきれず、うかつなチョキを突き出した。
突き出そうとした。
とっくに読まれていたと言うのに。
何が起こったのかは、よくわからない。
明らかに攻撃されるような間合いではなかったはずなのに。
放物線を描いて跳んでゆく寂紅の腕を、浅黒く逞しい手が捕らえた。
「はァい、いただきました~」
ぐぎゅごぎ。
異様な音とともに、刃蘭は腕の肉と骨を握り潰し、一瞬でへし折った。
その握力は異常の一言である。
――いや、当然か。
寂紅の兄は、刃蘭・アイオリアを「無敵の英雄」として設定した。
だから何も不思議ではない。設定どおりの身体能力だ。奴はそのようにしか在れない存在なのだ。元の人格が欠片でも残っていれば発狂は免れぬほどの常軌を逸した修練を積み、積み上げ、積み尽くし、ついには自らの設定を実現させるにふさわしい肉体を手に入れたのだ。
――この怪物を生み出すよう、兄さまにせがんだのは、おれだ。
――おれが、なんとかしないと、いけないんだ……
「ごっめんね~! 両腕とも使いものにならなくなっちゃったねェ~!」
刃蘭の顔は、かつて優しく微笑むばかりの顔だった。
その鍛え込まれた手は、本来は紙をめくり、書き物をし、寂紅の頭をなでるための手だった。
その頭脳は、本当なら人々を助けるために回るはずのものだった。
――たくさんの人を、幸せにしてあげられるはずの人だった。
だから。
あぁ、だから!
「おぉ――!」
怯まず、踏み込む。
止める。この悪夢を。
幼い頃あこがれた、物語の英雄。それが今、目の前にいる。
だけどその全容は、怪物としか呼びようのない存在だった。兄は、幼い寂紅に対して、比較的穏健な部分しか語ろうとはしなかったのだろう。目前にいるこれこそが、真の刃蘭・アイオリアなのだ。碩学の青年が、この世と我が身に対する鬱屈のすべてを叩き込んで脳内に育て上げた、暴威の化身。
砕かれた手から生えるオブリヴィオを、刺突の型に構え、突撃する。
さすがに、右腕を失いつつも意に介さず踏み込んでくるとは、刃蘭も予想していないはず。
狙うは、心臓!
貫
突如、視界一面に青空が広がった。
あぁ、自分は宙を舞っているんだな、とぼんやり思い当たった。
背中と後頭部に、衝撃。
床に落ちたようだ。もうすでに痛覚を『忘却』しているので、現状の把握に時間がかかる。
口の中に異物感があったので、吐き出してみると、血まみれの歯だった。
「だからさぁ、オマエ、呼吸がバレッバレなんだよ」
鳥肌が立つほど冷たい声が、投げつけられた。
ゆっくりと、身を起こす。
刃蘭は、膝を突き出した体勢で、片足立ちをしていた。膝頭は血で濡れている。
「ふ……ぁ……」
口が、まともに動かない。
いったいどんな破壊を受けたのか。
徐々に、徐々に、さきほどまでの決意と覚悟が、醒めていった。
変わりに、毒液のような恐怖が、全身の骨身を蝕んでゆく。
「あ……あぁ……」
今まで無意識のうちに視界から外してきた、右腕。
否、右腕があるはずだった場所。
血が噴出し、凍えるような冷たさが広がってゆく。
「うああ……ああ、あ……いや……だ……」
首を振り、この恐怖を追い払おうとする。
――御剣よ、かしこみかしこみ嘆願奉る……
「ひっく……ひっ……」
――我が恐怖を、『忘却』せしめたまえ……
ふっ、と。
恐慌に荒れ狂っていた心に、鏡面のごとき静穏が戻った。
ひどくぼんやりした心持で、寂紅は立ち上がった。
そんな動作にすら、計り知れない疲労を感じた。
もはや、寂紅は、恐怖を感じることなどない。
オブリヴィオによる『忘却』は、永遠だ。しばらく待っていれば回復するなどということはありえない。
万が一この戦いを生き延びたとしても、残る一生を心の機能の一部が欠落した状態で過ごすことになる。
それが何を意味するのか、寂紅にはわかっていた。
ひとの心は、いくつかの要素が互いを支えあうことで形を保っている。
痛覚を消し去るだけならば、それほど問題はなかった。それは生理的な反応に過ぎず、消し去ったからと言って心の働きに致命的な影響はない。
だが――恐怖は違う。心の機能の整合性に直結したその感情は、取り払われれば心全体が主柱を抜かれた建物のごとく、徐々に崩壊してゆく。
廃人と化すまでに、ひと月もあるだろうか。
ゆっくりと、歩き始めた。
どこか遠くから、なつかしい声が聞こえてきたような気がした。
狼淵の声だ。
少しだけ、視界を横にやると、至聖祭壇から一段降りたすぐそばに、狼淵の姿があった。
必死に、なにかを呼びかけている。もういい、とか、やめろ、とか、帰ってこい、とか、そんなことを叫んでいるようだった。
胸の中に、静かな寂愁が降り積もった。
――さよなら。
唇に、その名を乗せる。
――さよなら、狼淵。
たまに出会って、馬鹿なことを言い合って、ただそれだけの関係だった。でも、楽しかった。
――わたしも、あなたのもとに帰りたかったよ。
ふわりと微笑む。目尻から、透明な雫がこぼれ落ちる。
そして、刃蘭に向き直る。走り出す。生涯の敵手に向けて。
勝算は、実はなくもない。
忘却剣オブリヴィオの御力は、自分以外の生き物にも有効だ。
刀身が触れさえすれば良い。それだけで、刃蘭・アイオリアという人格を、消しつくすことができる。
「ろい、ど……」
――あなたと出会えたから、生まれてきたことを後悔せずに済んだ。
もっと話したかった。もっと触れ合いたかった。もっと笑いあいたかった。もっと……かわいいって、言って欲しかった。恥ずかしくて彼の顔を直視できなかったけど、飛び跳ねるかと思うほどうれしかった。
鬨の声が、腹の底よりあふれ出る。全身に不思議な力が沸いてくる。
――でもね、もうすぐわたし、あなたのことがわからなくなる。
原初の活力。運命と向き合い、打ち克つために、
この世を幾度も変えてきた力が、今、寂紅の痩身に横溢していた。
――だからね、そうなるまえに、そうなるまえにね……
それは、過去の清算のためではなく、今生きている大切な人のために戦い始めたから。
すでにどうしようもないことへの責任を取るためではなく。
狼淵のために、戦い始めたから。
――ありがとう。わたしのいるこの世界に生まれてきてくれて。
――ありがとう。わたしと出会ってくれて。
――笑顔を、くれて。
ここで、刃蘭と、刺し違える。
この男は、あまりにも、あまりにも危険だ。
狼淵と当たらせるわけには、いかない。
――だから、どうか、生きてね。
――そして、幸せを、掴んでね。
剣術の型どおりに、踏み込みを伴った斬撃を叩き込む必要はない。
ただ、こうやって体を投げ出し、目一杯伸ばして、触れさえすれば。
ただそれだけで。
――大好き。
瞬間、寂紅は正中線から断ち割られた。
まず頭蓋が砕け割れ爆ぜ脊髄が連続してヅブヅブという音を立てて歪み潰れ左右の肉に食い込み信じがたいほどの剛力によって強引に左右へと切開され少しも勢いは留まることなく股関まで斬り砕いて通り抜け、
血飛沫とともに色とりどりの臓物とともに奇妙に歪んだ骨片とともに、肉が。
命が。
彼女の両脚の間に撒き散らされて。
湯気を立てて。
湿った音と同時に、生命の残骸がその場にぐちゃりと崩れ落ち、
二、三度の痙攣を最期に、静止した。
永遠に。
寂紅・ウルクスは死んだ。
見事なまでの無駄死にだった。
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