没落貴族の一景

フロウスガル

一景・路地裏の殺戮

代は中世、剣と芸術が賛美される時代


巨大な岩壁の上にはるか上にそびえ立つは貴族達の根城


かつては僕もそれの一員であったが…見事に嵌められてね…


家族は皆殺しにされ今、天涯孤独の身、そしてお尋ね者とまで来た


僕の首に金貨50枚、更に装備品は好きにしてもらって構わないそうだ


金貨1枚はあればひと月は暮らせる


みんな血眼になって僕を探し討とうと躍起になるのも頷ける


城の兵士たち…賞金稼ぎ…更に物乞いまで… 


おかげで僕にとっての安全地帯と言える場所はほとんどない


今、僕は城下町の青果市場に来ている


日中のこの時間帯なら人込みに紛れ活動がしやすい…


「店主…これ…それをこれで買える分だけ…」


金銭を渡し、品を受け取る…袋が思った以上に重い


店主にはニッっと笑う、気前の良い主人のようだ


軽く会釈し、その場を去る


袋から購入した林檎を取り出しそのままかぶりつく


シャキシャキとした食感とみずみずしい甘みと酸味が疲弊した

精神に僅かだが潤いをもたらす


~~~…… ~………


付けられている、2人組か…人ごみの中では気が付けなかったが


市場を出た後から尾行されている、恐らくこちらの隙を伺っているのだろう


2人ならいけないこともない、横道に入り路地裏で迎え撃つことする








薄暗い路地裏、日中だが陽の明かりはほとんど無く薄暗く狭い道


住民のゴミや野垂れ死んだ生物の死骸から腐臭を漂わせ思わず鼻をつまみたくなる


しばらく身を隠していると、追跡者が姿を現す


フルプレートの鎧を着こんだ衛兵と…先程の店主……なるほど


おまけに手には手斧を持っている


先ほどのオマケはさしづめあの世への手数料といったところか


2人組が口を開く


「こっちに行ったはずだ…身を隠す場所もない…どこへ行きやがった…!!」


「もっと奥に逃げ込んだかもしれやせん、奥にいきやしょう」


店主は衛兵にゴマすりながら話す、なるほどおこぼれを貰うためか


人間誰しも欲に目が眩む、相手が悪かったみたいだ…代償を支払って貰う


「!?なんだ今の音は!!」


微かだが金属音が衛兵の耳に届く、そこに僕が存在したと思っただろう


僅か、5メートルほどだ、店主と離れた 





     仕掛ける






「なんだ……ゴフォ!!??」


僕が潜んでいたのは上空、民家に間に掛けられた洗濯綱


ノコノコと1人になった衛兵の背後から剣を心の臓に向け、突き刺す


鍛え上げられた剣の前には鎧など紙に等しい、即死だったのだろう


ズシリと突き刺した剣から力尽きた人間の重量が加わる


フルフェイスの兜の淵からダラダラと吐血した赤黒い鮮血が垂れ


引き抜いた剣は紅に染まり、風穴の空いた金属からは濃厚な死の臭いを漂わせる


「ひ、ひぃぃぃぃ!!????」


突然の出来事に腰が抜けた店主、ゆっくりと近づく剣先の首元に添える


「貴方まで殺したくはない、僕の正体、今ここで起きた事も黙っていてくれれば、見逃す」


「わわわわあわわ分かりました!!どうか!どうか、命だけは…!!」


必死に頭を地面に擦りつける男


戦意の無い相手に危害を加えるのは自分の主義に反する


「分かった」


剣を男から放し、鞘に納める、そして陽の刺す方向へ歩きだ


「ヒャーハハハハ!!その首貰ったぁぁぁぁ!!!」


背後から男が立ち上がり、手にした斧を持ち、斬りつける


「ァ…!?グッ…!!」


斧の刃は肩に食い込み肉を裂く


幸い外瘻と衣服が絡み深手こそは負ってないが、激痛が全身に駆け巡る


「せっかくの大金のチャンスが巡ってきたんだ!!諦めるわけねぇだろぉ!!」」


すぐさま距離を取り、体勢を整える


血走った眼でこちらを睨み付け先程見せた気前の良さと笑顔など嘘であったように


「金ぇぇええ!!!」


男は再度斧を振り被る、剣を鞘に抜き放ち、その斬撃を食い止める


「っぐ…」


単純な重量や威力では斧の方が勝る


そして枷の外れた人間の腕力は想像を超える物だった


全身に力を込めると傷から痛みが走り、意識の手綱を手放しそうになる


「ここで…死んだら…家族に顔向けできない…!!」


「がぁぁ!?」


斧を払いのけ騎士の儀礼の構えを取る如何なる時でも相手に敬意を払うため


「この野郎ッ!!」


払いのけた勢いを殺し、再びその鉄刃を僕に振るう、力任せに単純にな太刀筋…


(見切った…)


外瘻で隠し左手に忍ばせていた丸みを帯びた小盾で男の凶器を弾く


「ぐぉ…!?」


勢いのまま腕が外へ投げ出されて胴はがら空きとなる


「ごめん」


男の腹に鉄を差し入れる、


ズプリと肉を千切り骨を貫通する感触が剣を通して伝わる


「ぐぼぉ!?」


そのまま体重を掛け押し倒し、ゆっくりと…引き抜く


泉のように血が噴き出し、茶色の外瘻を湿った赤色へ着色していく


「いてぇよぉ…いてぇよぉ…」


もはや死は免れないだろう、僕の一撃が甘かったのか


辛うじて生の綱の握りしめる哀れな店主


「今、楽に…」


このまま置き去りにしても痛みと失血から苦渋の終わりを迎えるだろう


抜きさった剣をそのまま振りかぶり、男の首を…胴体に別れを告げさせた


ドクドクと生命の血が主を失った器から地面に吸われていく


「…許してくれ…」


僕は犠牲者のために涙を流す時間は無い


店主から受けた傷口をきつく包帯で巻き止血をし、この場を去る


再び瞳を刺激する陽光、そしてその下にある貴族の街


復讐すべき相手の寝床… 燻ぶる復讐心を胸に食べかけた林檎を齧る


人殺しのあとの食事など虚しくなんの味もしなかった。


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没落貴族の一景 フロウスガル @07537222

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