出没

僕の家では昔、インコを飼っていた。

小学3年生の頃にそのインコは開けていた窓を飛び出し、我が家から脱走した。


家族全員で隣町まで探し回ったが見つからなかった。そのとき僕は大泣きしていた記憶がある。


1か月後、インコは突然帰ってきた。家の場所を覚えていたのだろうか、偶然なのか、それとも全く別のインコなのかどれかわからないが、とりあえずインコが我が家に戻ってきた。





「警察犬も出動してどうして見つからなかったんだ」

「知らないわよ、いや本当に」


黛ゆり子が行方不明になってから1か月経った日に彼女はひょいと僕の前に現れた。


「無理でしょ」

「いや割といけたんだって」

「どこらへんにいたのさ」

「警察犬が出動して2日目に大雨降ったじゃない?それまでは××市まで逃げて、雨のうちに学校のプールで過ごしてた」

「××市!?!?!?プール!?!?」


全てが謎だった、ここから××市は1つ県をまたぐ。


「食事は?」

「木の実と雑草、時々虫」

「うぇっ、マジかよ」

「生きるためって思ったら案外いけるものよ」


彼女は何でもノリだ!ってイントネーションで話す。

ちなみに僕たちは今どこにいるかと言うと…。


「で、なんで黛さん下着姿なの」


ここまでがっつりだと興奮とかドキドキとか無いものである。


「今から風呂的な意味でここのシャワー使おうかと」

「いやここ男子更衣室」

「女子更衣室って結構人の出入り多いのよ。男子更衣室なら例え見つかっても身体を捧げれば…」

「お前の考える男子軽すぎないか?」

「でも運良くあなたと鉢合わせになったわ、あなたこそ何でいるの?」

「忘れ物」

「ラッキースケベって奴ね」

「ラッキーかもスケベかも怪しい感じだ」


「これまでに僕以外に見つかってないのかい?」

「残念ながらあなたがあの時以来の人よ」

「はあ…とりあえず服着たら?」

「んー今暇?私シャワー浴びるから新しい服買ってきて」

「お金は」

「今度返す」

「いつ帰るかわからない人とそんな約束できると思う?」

「でも手持ちないわ」


仕方なく僕は今度返すを約束することになった。

買い物に行く道中考えてた。

なんで僕は誰にも言ってないんだろう

なんで僕は彼女に協力してるんだろう

なんで僕は彼女に二度も会えたんだろう


「ん、待てよ」

黛の書いた買い物リストを再度読む。

---------メモ----------

上下一式(女物、ダサくなければなんでも可)

下着

カイロ(貼るタイプ)


「カイロ以外買えねー!!」



「いや、買ってきなさいよ」

「その…やっぱ周りの目とか…無理があるというか…その代わり僕が中学の頃使ってたジャージ…黛さんにはサイズ合うと思います」

「服よりも替えの下着の方が欲しかったけどまあいいわ、ありがとうまた会いましょう」

「どこ行くんだ?」

「んー決めてないけど安全な場所」


彼女は計算も何もせず僕以外の誰にも見つからずに過ごしている…僕はそんな彼女を引き止めるべきか、黙って送り出すべきかその選択を迫られその選択は本能に任せるしかなかった。


「ちょっと待ってくれ」


僕のカバンの中からいらないプリント用紙と鉛筆を出して、僕は書いた。


「これ、僕の携帯番号と住所!あともう最近使わないからテレホンカードも1枚やる!死にそうになったら平日の学校の時間以外でいつでもかけてこい!」

「…あ、ありがとう」



こうして僕は彼女の家出を全面サポートすることになった。



そして次の日も、その次の日も、今日も黛の目撃情報は入ってこない。

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明日も欠席 メバル @x_mebaru_x

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