【弥助問題】周回遅れさんへの解説を試みてみる ④

 ドンデン返しです。単なるゲーム作品の炎上事件から、世紀の歴史改変未遂事件に発展しました。そしてWikipediaの危険性が、日本人にも自覚されました。


 これ実は、海外ではすでに知られていた問題だったようで、「ソックパペット」という名前まで付いていました。ソックパペットとは、靴下で作る指人形ということで、「不適切な使い方をしているアカウントとその記事」という意味だそうです。


「これらの記事の大半は、商売、商売人、またはアーティストと関係しており、総じて、宣伝行為を意図している。しかも、偏向や歪曲を含む情報、根拠がはっきりしない資料、さらには潜在的には著作権を違反しているものまでもがしばしば含まれている」とWikipediaの公式ブログに記載。だそうです。


 wikiの財団法人はこれらの悪質な改変にしばしば対処してきているということなのですが、10年に渡り、ジワジワと歪められてきた今回のケースでは発覚が遅れてしまったようです。その間に、悪質改竄の記事は多くの人々に知れ渡り、信用を得てしまいました。


 弥助という人物のことは、日本ではまったく関心が持たれたことがありませんでした。また、日本のWikipediaの記事はほとんど編集をしていないことも確認されていました。ただ、小さな箇所、言い回しやひと言追加などでの印象操作の痕跡は、慎重に調べてくださった有志の方の報告で、発見されているようです。


 日本人の多くも、もともと歴史に興味がないのです。自国の歴史というのにまったく知らないという人も多い。これはエンタメ制作者にも言えることで、いつの間にかこの弥助という黒人さんの存在は、なんとなく浸透するようになりましたが、その切っ掛けは一人の歴史研究家の存在によるものだったようです。


 ところで、研究家という肩書きは別に資格が要りませんので自称だったりします。


 ここにトーマス・ロックリー氏という、本業は英語講師の方が長年弥助の研究をしていたらしく、研究家を名乗っておられました。


 この人の著書は海外で評判を博し、それが逆輸入のカタチで日本に噂が入って、弥助の存在が少し知られるようになったということのようです。


 そして今回の炎上騒動で、英語版Wikipediaの弥助のページ、及び、彼に関連する人物や事物のページを改竄するアカウント、鳥取トムの存在が浮上しました。


 このアカウントは弥助のページにあった学術論文へのリンクをすべて削除し、代わりに前述のロックリー氏の著書に書き換えたことが解っています。しかもこの著書はフィクション小説でした。


 けれど、日本語版はフィクション小説の括りになっていたこの本が、海外ではノンフィクションとして、つまり、日本の史実であるとして売られていたことも発覚しました。


 悪質な「ソックパペット事案」でしたが、2015年からの慎重な改竄は気付かれませんでした。


 この著書で、現状、もっとも問題視されているのはもう弥助が侍かどうかではありません。彼は史実と偽った小説本の中で、「日本の大名たちが黒人奴隷を欲しがったから、イエズス会は仕方なく奴隷貿易を行った」と記述していたのです。


 当時のイエズス会は奴隷貿易には反対しており、けれど商人や欲しがる相手がいたせいで嫌々協力させられていた、という記述をしていましたが、もちろん虚偽です。


 この記述が本当ならば、アメリカの南北戦争を経て成された奴隷解放運動を待つまでもなく、キリスト教会やバチカンの力をもって、もっと早い時期に奴隷制は終了していたはずですから。当時のキリスト教勢力はそこまで弱体化していません。


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