「面白い」って、どんな要素を満たした状態を言うの?

 今、「タルトタタンの夢」を読んでおります。タイトルを聞いたことがある著名作品を、目についたヤツ片っ端から買っては、折を見て読んでいるわけですね、ハイ。


 んで、内容とは特に関わりないんですが、よく小説論争で登場する「面白ければいいんだよ!」の捨て台詞ですな、これの「面白い」とは果たしていかなる要素を満たすことを指すのだろうか、と。そんなことが急に浮かんでしまいまして。


「面白い」なんて単語は完全に感情に根差していて、まったく具体性を欠いているわけですよ。恣意的運用がそりゃあもうガンガン出来てしまう、非常に憎ったらしい、卑怯な言葉なんですな。


 タルトタタンを読んでいて思った第一は、「ぐいぐいと読み進めて手が止まらない」だったわけですが、これだって「面白い」に毛が生えた程度のカラッポ言葉ですわな。具体性がなんにもない。感想にこの程度しか言えないヤツの知能が知れますわな、私ですが。


 要素を言え、と言っておるのだよ、要素を。と、自問自答。


 面白いだの手が止まらんだのの、読み手側の事情を採らないトコロで言葉を探すならば、キャラクターですな、まず。読者の感情がどう動いたとかは結果論です。


 まず、「知りたい」という欲求を喚起させる人間関係が綴られていますな。別にどーでもいいような関係性、例えばありきたりな関係なんかだと興味は引かれないわけで、さらに言うなら私は小うるさい読者なので、いかにもなフィクションの関係性というものも好きではないので、設定が現実から離れていないことが重要なようです。


 大仰なフィクション設定にも興味を抱けるほど若くはないんですね、もうね。


 タルトタタンの中に出てきた登場人物の粕谷氏のように偏食が過ぎるわけですが、歳が歳なので脂っこい料理は胸焼けを起こして苦しいわけです。若い頃は好きだったし、自分で料理する分には今でも好きですけどもね。


 こういう個人的事情を置いても、「面白い」を満たす要素というものは箇条書きで挙げていけるものではないか、という勘が働いたわけですが、大元にあるのは「面白い」なんぞという得体の知れない感情ではなく、むしろ「知りたい」の具体性ある感情の方ではないのか、という感触を持ちました。


「面白い」は絞りようがないけれど、「知りたい」はまだ絞れる気がします。


 ここで問題になる「知りたい」は、恐らくは「先が知りたい」と限定してしまえる感情でしょう。謎が提示された小説での、謎に対しての知りたいであっても、それも厳密には「先が知りたい」のはずです。答えが書かれてあるのを読者は知っているわけですから。「先が知りたい」がページをめくる原動力、というわけですな。


 そうすると必然的に、知りたくなるようなモノを提示しないといけない、ということになりますわな。かなり具体的になってきました。


 この、「知りたくなるようなモノ」というのが「ありきたり」とか「興味がないモノ」の対義語的な関係にあるというのもはっきりと見えてきます。まず読者自身がある程度は身近に感じているようなモノである必要がありますな。


 タルトタタンは、フランス料理店を舞台に日常の謎系のライトミステリが描かれます。フランス料理は「興味が湧くモノ」というよりは、「メジャーな界隈なので興味を持つ敷居が低い」という言い換えをした方が良いと感じましたが。


 フランス料理店のスタッフという設定は、誰もが見知ってはいるものの、その内実を知っている人となるとかなり限定される、つまり「よくよく考えれば謎めいている」わけですな。これがまず「軽度の”知りたい”」を含んでいて、同じような具合でほかの色んなところにも「知りたい」の要素が詰まってます。それも、肩肘張らない「ちょっとした興味」を持つに留まる範囲ですな。決して大仰でないわけです。


 じゃあ大仰なのは、肩肘張りまくったようなのはアカンのかと言えば……そうも言えないわけで、同じく興味を持って買った本のタイトルは「木足の猿」という、これも話題になった時代ミステリーですが、こっちは帯の文章だけでもう「気合いいれて読まねば、」と思わされたけれど、買いましたからねぇ。


 ただ、「気合い入れた」理由は簡単に分析できますわな、「期待値以上を望みます」てだけです。読んだ見返りが通常の読書体験以上のリターンであることを期待しています。「難しかったけど、すごく満足出来た! すごかった!」コレです。あらゆる要素において、私が持っている既存のものを塗り替えてくれることを期待。


 面白い=知りたい、には二種類の頂がありますな。ライトなものとヘビーなもの。


 これはまた、読書に挑む際の心構えにも比例していますな。気合いを入れる以上は相応分のリターンを求めるのはむしろ当然という感覚。その逆に、気軽に読み始めたならば最後まで気軽に終われる方が、読書体験としては、たぶんその方が望ましいような気がします。最初から望まれていないモノは付け加えるべきでない、そうも感じたものの、これはまだどうなのか、結論を急ぐべきではないかも知れませんね。


「面白い」を満たす条件。キャラクターそのものよりむしろ、「関係性」なんでしょうな。


 いくらキテレツな設定をくっつけたりしても、関係性がありきたりだといわゆる「出オチ」感で終わるだろうし、逆に設定や世界観に工夫などなくても人間同士の関係性が興味を抱ける要素を持つなら、先を読みたいと思わせられるわけですな。


「設定よりも展開」といわれる所以も、これかも知れないと急に納得。うん。



 振り返って、自作ではどうだろうかと……うん、まぁ、うん。



 ミステリネタ的には、あんまりヒネりもないし、ダメかもとか思ってたけど、関係性で見れば前作と同じくらいには魅力あるだろうと自負。前作は主要人物を三人に絞っていたから濃厚なのが書けるのはむしろ当たり前だったわけで、今作は人物でなく事件そのものを主軸に置いたからドラマ性が落ちてしまって、ちょっと気にしていたのでした。


 さて、吉と出るか凶と出るか。



 三月中には出したいとか言ってたのに、五月終わる今、まだ焦りがない。どうしちゃったんだろ、私。(笑

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